オピニオン
中国地方政府の変化
2010年12月07日 荒井直樹
日本の内閣に相当する中国国務院より、2010年6月「地方政府融資プラットフォーム企業管理強化問題に関する通知」が発表されています。地方政府関連機関が土地・資金等をもとに出資し銀行からの借り入れや債券発行により資金調達を行い、政府の投資プロジェクトの事業運営を行う独立した企業を「地方政府融資プラットフォーム企業」と呼びます。世界的金融危機以降、中国政府は4兆元の景気刺激策をインフラ投資中心に行い、その実施主体として多くの地方政府融資プラットフォーム企業を設立しました。しかしながら、十分に練られていない事業計画、金融機関による杜撰な融資等により、一部のプロジェクトで不良債権化するリスクが高まっているのが現状です。その管理を行うべく、(1)債務整理、(2)融資プラットフォーム企業の整理、(3)金融機関の融資管理の強化、(4)地方政府による債務保証の禁止、等の対策が通知されています。
本コラムでは、これらの対策の妥当性や今後の中国リスクに関してではなく、中国経済がどのように変化するかという視点で見てみたいと思います。
第一に、インフラ投資に伴う不動産収益に代わる新たな収益源として中国政府はより地域の産業育成に注目することになるのではないでしょうか。競争力のある産業は、税収や雇用に加え地域のブランドを高め、地域の持続的な発展に貢献します。当社の一部プロジェクトにおいても、農業や省エネ・低炭素経済の分野で、それぞれの地域でどのように産業やブランドを育成するか、そのための仕組みづくりが議論となっています。
第二に、今後さまざまな分野において、投資プロジェクトを検討するにあたっての事業構造、契約方式やプロジェクトファイナンスといった概念が普及する可能性があります。無謀な投資プロジェクトを淘汰し、透明性が高く事業継続性が担保されるプロジェクトに対して資金が供給されることになります。それに伴い債権市場の健全化が促されるだけでなく、付随するさまざまなサービスが普及することになるかもしれません。
これらの変化は日本が過去に経験してきたものです。わが国での経験を活かして、中国においてさまざまな知見やサービスを提供することで、中国ならびに世界経済の持続的な発展に寄与することができるのではないかと感じています。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。