オピニオン
日本の社会的責任(SRI)市場は活発化するか?
2010年09月28日 小崎亜依子
日本では、1999年のエコファンド誕生によりSRI市場が立ち上がりました。その後、約10年が経過しましたが、市場規模はそれほど大きくなっていません。2007年の欧州のSRI市場規模は2.6兆ユーロ、米国は2.7兆ドルなのに対し、日本のSRI市場の規模は1兆円前後と低迷しています。
欧米でSRI市場が拡大したのには、2006年4月、国連グローバル・コンパクトと国連環境計画が共同で責任投資行動原則(PRI)への署名を全世界の機関投資家に呼びかけたことが1つのきっかけでした。経済活動に大きなインパクトを与える機関投資家に対し、より責任ある投資行動を取ろう、そのために環境・社会・コーポレートガバナンスへの配慮を投資行動に組み込もうという内容がPRIに盛込まれました。PRIは、まずは資金の出し手である年金基金などに受け入れられ、その後運用機関などに普及していったと言われています。現在では、209の年金基金などのアセットオーナーと、445の運用機関、158のサービス会社の計812機関が署名しています。
一方、日本のPRI署名機関は現在14機関であり、うちアセットオーナーは4機関に過ぎません。年金基金などのアセットオーナーによるPRIの署名が進まないことが、日本のSRI市場が低迷している1つの原因とも言えます。SRIを導入した年金基金でさえ、その2割程度は運用機関からの働きかけがあったから導入したとしています 。基金側にSRIを導入するという強い意志がないことが、日本のSRI市場が長らく低迷してきた理由の1つとも考えられます。
そのような中で、労働組合のナショナル・センターである連合が、年金基金に環境や労働への配慮を働きかけていくため、年内を目処に社会的責任投資の原則を策定すべく準備を進めています。連合はこれまでは投資活動に関心を寄せていなかったものの、年金は労働者の資産であること、そしてその資産が企業買収の資金の出し手になっていたことを認識し、自分達の資産の使途には声をあげるべきだとの考えからこのような活動を行っています。連合が策定した社会的責任投資の原則が年金基金の投資方針に影響を与えることになれば、日本でも資金の出し手からのSRI導入の機運が高まり運用機関にも波及するという新しい動きが生まれ、SRI市場が活発化する可能性があります。大きく発展するのか、低迷が続くのか、ここ1年はそんな節目の年だと思います。
・財団法人 年金シニアプラン総合研究機構「SRI 及びPRI に関する調査報告書」(2008年1月)
・日本労働組合総連合会 http://www.jtuc-rengo.or.jp/
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。