コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

「こども誰でも」の理念を、就労家庭にも ―就労時間だけで区切らない、子どもと家庭のための保育へ―

2026年10月27日 辻本まりえ


PDFはこちら 

 日本の保育政策は、保護者の就労や疾病などを「保育の必要性」として認定し、利用につなげる仕組みを基本としてきた (※1)。これに対し、2026年から本格運用が始まった新たな「こども誰でも通園制度」は、保護者の就労要件を問わず、未就園児に家庭外での多様な体験や他者との関わりの機会を保障する制度である。
 同制度は、子どもの育ちを支えるだけでなく、保護者が子育てから一時的に離れる時間を持つ機会にもなる。内閣官房資料では、子育ての負担として「自分の自由な時間が持てない」が46.0%、「精神的疲れが大きい」が43.1%、「身体的疲れが大きい」が42.6%にのぼる(※2)。また、保育園に通っていない0~2歳児の家庭と社会との接点をつくることは、保護者の孤立の予防や家庭に何らかの課題があった場合の早期支援の観点からも意義がある。子どもの育ちを保障するとともに、子育て家庭の負担を和らげ、必要な支援につなぐ仕組みを広げた点で、「こども誰でも通園制度」は評価できる。

1.多数派となった共働き世帯も抱える子育ての負担
 一方、現在では、共働き世帯が1,300万世帯と、専業主婦世帯の508万世帯を大きく上回り(2024年)(※3)、子育てをしながら働くことは特別なことではなくなった。こうした状況の中、保育園等を利用しながら働く就労家庭も多い。「こども誰でも通園制度」は、保育園等に通っていない0~2歳児を対象としているため、これらの家庭は原則として対象とならない。
 しかし、保護者が感じる自由時間の不足や心身の疲労は、未就園児家庭に限られた課題ではない。保育園を利用しながら働く家庭にも、仕事と子育てを両立するなかで、生活上の余裕を確保しにくい状況がある。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査では、35歳未満の妻が理想の子ども数を持たない理由として、「育児の心理的・肉体的負担に耐えられない」が23.1%、「仕事に差し支える」が21.4%となっている(※4)。保護者が必要な休息をとり、家庭生活の余裕を確保できるかは、個々の家庭の問題にとどまらず、仕事との両立や希望する子ども数の実現にも関わる課題である。

2.就労だけでなく、家庭生活も支える保育へ
 現在の認可保育は、保護者の就労や疾病などにより、家庭で保育できない時間を保障することを基本としている。自治体や園によっては、利用時間を保護者の終業時刻と通勤時間に連動させ、仕事が終われば速やかに迎えに行くことを求める運用もみられる。
 こうした運用には、限られた保育資源を公平に利用するという理由がある。しかし、仕事と送迎、家事、育児を連続して担う保護者は、通院や休息など、家庭生活を維持するための時間を確保しにくい。保育園等を利用できていることと、家庭生活を整える余裕があることは同義ではない。
 保護者の負担軽減は、保育政策にとって新しい考え方ではない。「こども誰でも通園制度」より前にできた、「一時預かり事業」の実施要綱(※5)では、育児疲れによる保護者の心理的・身体的負担を軽減する支援の必要性が明記されている。保護者が心身の状態を整えることは、安心して子育てができる環境をつくり、子どもの福祉を支えるものと位置づけられているのである。そうであるならば、保護者の負担感を軽くするという考え方を、「一時預かり事業」や「こども誰でも通園制度」だけのものとせず、就労家庭にも生かしていく発想もあり得る。

3.「こども誰でも通園制度」の考え方を、就労家庭にも
 具体的には、就労家庭を「こども誰でも通園制度」の対象にそのまま加えることではなく、同制度が示した、子どもの育ちと家庭生活の双方を支えるという考え方を、これまでの認可保育の運用にも生かすことで変わる部分があると考える。
 現在の認可保育は、保護者の就労を支える制度であることから、終業時刻に通勤時間を加えた時刻を迎えの目安とする運用が基本となっている。そのため、終業後から迎えまでの時間は、基本的に送迎のための時間として扱われる。具体的には、迎えの前に買い物を済ませることが認められない、仕事が予定より早く終わった日にはその分早い迎えを求められる、在宅勤務の日には終業後すぐの迎えを求められる、といったケースがある。こうした現場での運用を見直し、自治体が認定した保育時間の範囲内であれば、迎えまでの時間を通院や買い物、休息などに充てるかどうかを、各家庭の判断に委ねるのはどうか。企業側で柔軟な働き方が進めば、より現実に即したものにもなる。
 もちろん、子どもの生活リズムや保育時間の長時間化、保育現場の人員体制に対し、保護者が働く大人として気を配ることは欠かせない。また、家庭の負担には、家族内の分担や周囲からの支援の有無など、保育の運用だけでは解決できない要因もある。そのうえで、保護者が日々の生活を整えるための時間を持つことは、その負担を和らげるだけでなく、家庭に余裕を生み、子どもの安定した生活につながる。
 「こども誰でも通園制度」をきっかけに、就労の有無にかかわらず、子育て家庭に必要な余白を支える方向へ、保育のあり方を一歩進めることを考えたい。


(※1) こども家庭庁「子ども・子育て支援新制度について(令和4年7月)V.保育の必要性の認定・確認制度」
(※2) 内閣官房こども家庭庁設立準備室「子育てに関する当事者の意識・声(意識調査等から)」(2023年3月28日)。 元調査は内閣府「令和2年度少子化社会に関する国際意識調査」(2021年3月)。
(※3) 内閣府男女共同参画局『令和7年版 男女共同参画白書』「特-I図 共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移(妻が64歳以下の世帯)」
(※4) 国立社会保障・人口問題研究所「現代日本の結婚と出産―第16回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書」(2023年8月31日)、第Ⅱ部「7 子ども数についての考え方」(理想の子ども数を持たない理由)。
(※5) 文部科学省・こども家庭庁「一時預かり事業の実施について」(2024年3月30日、2025年3月31日第一次改正)別紙「一時預かり事業実施要綱」


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ