近年、企業における教育支援活動は、社会貢献にとどまらず、従業員のエンゲージメント向上や人材育成につながる施策として注目を集めている。一方で、教育支援の実務の現場では担当社員の負担感などが課題となりやすく、活動を続けていくためには、社外への貢献だけでなく、社内にとってどのような意味があるのかも説明しておく必要がある。日本総合研究所が推進する「子ども社会体験科 しくみ~な ®」(以下、しくみ~な)は、公教育における体験活動を地域全体で支える仕組みとして2024年にスタートした。参画企業の社員は、自社ブースで子どもたちが取り組むワークの設計に携わるほか、活動当日は「見守り相談員」として児童のサポートを担っている。本レポートでは、2025年度に本活動へ参加した弊社社員への全数アンケート調査をもとに、教育支援活動が社員や組織にもたらす実質的な価値を整理・考察する。
参加社員アンケートに見る意識の変化
2025年度の「しくみ~な」参加社員の日常業務は、システム企画や基盤開発、ITコンサルティングなど、社内の多様なIT関連部署における業務である。全数調査(n=16)では、「今後も同様の社会的価値創造活動に参加したいと思うようになった」との回答は100.0%に達した。そして、活動への参加を通じて、ロバート・カッツ(※1)が提唱した「3つの人材スキル」に対応するような、社員の意識や仕事への向き合い方に次のような変化が見られた。

1.業務知識の再整理・構造化(テクニカル・スキルの向上): 「自らの強み・弱みを再認識した」との回答は87.5%であった。自由記述では、「自分たちが行っている業務は関わりのない人からすると非常にわかりづらいものだということを改めて認識した。」という参加者の声も寄せられた。専門知識のない子どもたちへ自社の仕事を伝える経験は、自らの業務知識やプロセスを整理しなおし、状況に応じて再構成する機会になっており、テクニカル・スキルの深化につながったと考えられる。
2.多様な相手への理解と働きかけ(ヒューマン・スキルの向上):自由記述では、「子供と接する機会が自分は少ないので、どういったことに興味があるかとか、どのような取り組みをしているかとかを知ることができたのはとても刺激的でよい機会になった。」との声が見られた。しくみ~なで子どもたちを支援する場面では、子どもたちの反応に応じて説明や声のかけ方を工夫することが求められる。こうした経験は、相手の立場や反応を理解しながら関わるヒューマン・スキルの向上につながったと考えられる。加えて、「会社への愛着や誇りが高まった」(68.8%)、「業務への意欲が増した」(50.0%)という結果からは、活動が仕事への前向きな意識の醸成にも寄与していることがうかがえる。
3.自社の事業の社会的意義の再確認(コンセプチュアル・スキルの向上):「自社が提供する価値を考える機会が増えた」(87.5%)、「自分の仕事の社会的意義を意識するようになった」(75.0%)という結果となった。さらに自由記述からは、「自身の業務に一生懸命になると、社会とのつながりを意識することができなくなってしまいがちなので、このような機会でつながりを意識することができた点がとてもよかった。」とのコメントが見られた。日常業務から一歩離れることで、自分の担当業務を単独の作業としてではなく、自社の事業や社会に提供する価値とのつながりの中で捉え直すきっかけになっており、これは「コンセプチュアル・スキル」の育成に寄与しているといえる。
こうした現場の変化は、企業による教育支援活動が、カッツが示した「3つの人材スキル」の向上に寄与するという先行研究(大森, 2024)(※2)の指摘とも合致するものである。
教育支援活動を組織的な価値へとつなげていくには、一過性のボランティアとしてではなく、「業務(仕事)の一環」として無理なく関われる形にすることが大切である。活動を通して得られた社員の気づきや学びを社内外に丁寧に共有しながら、子どもたちへの支援と社員の成長をともに育む取り組みとして、着実に歩みを進めていきたい。
(※1) 米国の経営学者。1955年に、経営に必要な3つのスキルを体系化した。
(※2) 大森順子(2024)「企業がキャリア形成支援を実施する意義――社員の成長と育成に焦点を当てて――」『インターンシップ研究年報』第27号、日本インターンシップ学会、1-9頁
本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine
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