1 はじめに
「地方公共団体の基幹業務等システムの統一・標準化」(以下「自治体情報システム標準化」という)は、情報システムにおけるランニングコスト(=情報システムの運用・保守にかかる経費)の削減を主な目的の一つとして進められてきた。国の「デジタル社会の実現に向けた重点計画(2025年6月13日)」(※1)(以下「重点計画(2025)」という)では、その目標を「標準化対象事務に関する情報システムの運用経費等については、標準準拠システムへの移行完了後に、2018年度比で少なくとも3割の削減を目指す」(※2)としていた。特にオンプレミス(※3)主体であった自治体の基幹情報システムを、ガバメントクラウドへ移行させることにより、運用経費が大幅に削減されると見込んでいた。
しかし現状では、ランニングコストの削減が十分に実現されているとは言えない。本コラムでは、ガバメントクラウドへ移行した情報システムのランニングコストを、どのように削減すべきか考えていく。
2 ガバメントクラウドへの移行がランニングコストに与える影響
自治体情報システムのガバメントクラウド移行が、ランニングコストにどのような影響を与えるかについては、デジタル庁「令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業報告書(本紙)」(※4)で検証されている。それによると、ガバメントクラウド早期移行団体10団体合計で8.0%の運用経費増という結果になっている。つまりこの数値だけを見ると、ガバメントクラウド移行により、かえってランニングコストが増加している。

出所 デジタル庁「令和6年度 ガバメントクラウド早期移行団体検証事業報告書(本紙)」(令和8年3月)
3 なぜランニングコストが増えるのか
では、なぜランニングコストが増えるのか。デジタル庁は「自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費に係る総合的な対策」において、費用が増加した原因を分析している(図表2参照)。筆者は、以下の2つの要因が大きいと認識している。
•通信回線費の増加
今まではサーバが自治体庁舎内や地域のデータセンタ等の近隣に設置されていたが、ガバメントクラウドにサーバが移行したことにより、物理的に離れた場所にサーバが設置されることとなり、ガバメントクラウドへの接続回線が必要になったことによりコストが増加した。
•クラウド利用経費、システム運用作業費の増加
セキュリティやバックアップ・運用保守等の非機能要件については、自治体間でレベルが一律ではなかったが、ガバメントクラウドへの移行により、レベルが一律にそろえられた。結果的に高いレベルのセキュリティやバックアップ・運用保守を行うこととなり、コストが上昇した。

出所 デジタル庁「自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費に係る総合的な対策<概要>」(※5)(令和7年6月)
4 標準化前の構成をそのままクラウド化したことが背景にある
筆者の認識では、現在標準化を進めている団体の多くにおいて想定通りのコスト削減効果が発揮されていない原因の背景として、標準化前のオンプレミスの構成をそのままクラウドに移行させたことがあると考えている。自治体情報システム標準化の目標時期は、「デジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月 閣議決定)」において公式に2025年度(令和7年度)とされたのであるが、これが発表された2020年(令和2年)の時点で目標時期まで5年しかなく、ITベンダと自治体は、ガバメントクラウドへの移行を優先せざるを得なかった。そのため多くの自治体において、システム構成の抜本的な見直し(注:抜本的見直しとは、後述する「システムのモダン化」「クラウドサービスの活用」を指す)を行わずに、単にオンプレミスの物理的サーバからクラウドに、情報システムを移し替えただけになった。これでは、オンプレミスのハードウェアコストが仮想サーバのコストに変わっただけで、かえって通信コストとクラウド利用経費・システム運用作業費が増加するという事態になってしまうのである。

出所 日本総研作成
5 サーバをガバメントクラウドに移すことの意義と実現状況
そもそも、自治体の情報システムをガバメントクラウドに移すメリットは、何であろうか。また、それは実現されたのか。デジタル庁「ガバメントクラウド 概要」(※6)に、その意義が記載されているので、現状の実現状況に対する筆者の評価と併せてご紹介する。
| No. | ガバメントクラウドに移すことの意義(注1) | 筆者が見る実現状況 | 評価(注2) |
|---|---|---|---|
| 1 | アプリケーション開発者の要求に応じて自動で柔軟かつ迅速にインフラを用意できる環境を、最新のクラウド技術を最大限に活用して政府として共通に提供。 | デプロイの自動化や DevOps 環境の実現を指していると思われるが、現状はほぼ実現されていない。 | × |
| 2 | クラウドの最新技術を活用することで、クラウドサービスが提供する高いセキュリティと可用性、スケーラビリティを利用。 | 高いセキュリティ・可用性は実現したが、スケーラビリティは疑問符。(システムがオートスケールに対応していないケースが多い。) | △ |
| 3 | ガバナンス機能とテンプレートを用いることで、政府全体としての管理レベルの向上、ベストプラクティスに基づく品質の底上げと標準化、セキュリティやネットワーク、運用監視などの検討省力化と設定自動化を支援。 | 管理レベルの向上は実現したが、現状としてベストプラクティスの実現や省力化・設定自動化の実現は疑問符。(従来の運用・監視システムを継続利用) | △ |
| 4 | テンプレートに基づき適切にマネージドサービスを利用し、構築と運用の自動化を実現することでインフラコストの削減が実現。 | 従来の構築手順、運用保守サービスを踏襲しているため、クラウドのマネージドサービスの活用、構築と運用の自動化は疑問符。 | △ |
| 5 | ガバメントクラウドを利用することでインフラコストの可視化・透明化を実現し、コストの適切な評価が可能。 | 標準化が本格化した今年度から、状況が判明するものと認識。判断保留。 | - |
注1:デジタル庁ウェブサイト「ガバメントクラウド 概要
」(2026/4/28確認)を基に作成注2:○ ほぼ実現している、△ 実現しているか疑問、× ほぼ実現していない、― 判断保留
上記図表の通り、現状ではほぼ当初の目的を達成できていない。ランニングコストを削減するためには、システム構成をクラウドの特徴に合わせ、見直すことが必要になるのだが、それに手を付けられていないからである。理想的には政府がこれらを実現するための共通システムや共通のツールを提供することが考えられるが、ITベンダ間の競争環境を維持する必要や、自治体規模や自治体の独自性を無視してシステムを共通化することは現実的ではない。結局自治体が個別にランニングコスト削減に取り組む必要があるのだが、特にシステム構成の見直しは短期的には実現できず、少なくとも3~5年かけて取り組むテーマになる。
6 ランニングコストを削減するには(全体像)
ランニングコストを削減するにはどのようにすればよいか。筆者の認識では、ランニングコストの削減は、システム構成を大きく変えずにできる短期的対策(1~2年で可能な対策)と、システム更新を伴い、中長期的対策(3~5年をかけて取り組むべき対策)に分けて考える必要がある。デジタル庁「コスト最適化アプローチガイド」による区分を基に、短期的対策と中長期的対策に分けて考える。
その全体像は以下の図表の通りである。
| カテゴリ | 経費項目 | コスト全体に占める割合例 | 説明 | 考えられるコスト削減策 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 短期的対策 | 中長期的対策 | ||||
| 物品費 | クラウド利用経費 | 23.59% | CSP〔クラウドサービスプロバイダー〕の利用料 | ・ リソース見直し ・ 割引サービス適用検討 | ・ コンテナ化、オートスケール利用 |
| ソフトウェア借料 | 24.75% | 業務パッケージソフトウェア、ミドルウェアの借料 | ・ 同規模自治体間での費用比較と値下げ交渉 | ・ クラウドサービス活用〔例:マネージドサービス、データベース〕 | |
| ソフトウェア保守費 | 11.14% | 業務パッケージソフトウェア、ミドルウェアの保守費 | |||
| 通信回線費 | 8.56% | 回線、コロケーション経費 | ・ 品目の見直し ・ 回線の集約 ・ 割引サービス適用検討 | ― | |
| ハードウェア借料・保守費 データセンタ利用料等 | 3.37% | ハードウェア等の使用に関する借料、ハードウェア保守費、データセンタ経費 | ― | ― | |
| 作業費 | システム運用作業 | 25.06% | システム稼働監視、ジョブ管理、ヘルプデスク、障害対応、バックアップ等 | ・ 運用作業の自動化〔定型作業中心〕 ・ 常駐SEの廃止〔=リモート運用保守の活用〕 | ・ 運用作業の自動化〔デプロイやインシデント対応の自動化〕 |
| ハードウェア保守作業、その他外部委託費 | 3.53% | ハードウェアに関する保守作業費、大量帳票出力等の定常運用以外で定期的に外部事業者に委託する業務に関する作業費 | ― | ― | |
・「カテゴリ」~「説明」までの出所:デジタル庁「コスト最適化アプローチガイド 2.3.1 本書における経費区分
」(2026/4/28確認)を基に作成
・「考えられるコスト削減策」の出所:日本総研作成
」(2026/4/28確認)を基に作成7 ランニングコストを削減するには(短期的対策)
まず、短期的対策を考える。なお利用するサービス名はAWSのものを使用しているが、他のCSP(例:Azure、 Google Cloud、 Oracle Cloud Infrastructure)も同様のサービスがある。
(1) クラウド利用経費の削減策
クラウド利用経費については、EC2等仮想サーバのリソース見直しが考えられる。ガバメントクラウドへの移行を急いだため、従来のオンプレミスを踏襲したスペックとサーバ台数になっており、全体として過剰なリソースを用意しているケースが少なからずある。クラウドはオンプレミスよりも容易にスペックやサーバ台数の見直しが可能であるため、Cloud Watch等によりリソース利用状況(CPU利用状況・メモリ利用状況)を確認し、適正なスペックとサーバ台数にすることが望まれる。
また、リザーブドインスタンス等の長期割引を利用することも必要である。
(2) ソフトウェア借料・保守費の削減策
パッケージソフトウェア、ミドルウェアについては、標準化のメリットを生かし、同一ベンダ・同一製品を利用している自治体間で費用比較をすることが望ましい(ただし、自治体とITベンダとの契約における秘密保持条項に留意)。
もし他自治体よりも著しく高額であれば、その原因を確かめたうえで、ITベンダと交渉する必要がある。
(3) 通信回線費の削減
通信回線費については、ガバメントクラウド移行前に見込みで品目を選定したケースが多いと認識しているので、ITベンダや通信事業者の協力を得て、実際の利用率を把握し、適切な品目に見直すことが必要である。また回線の集約(例:ネットワークごとに敷設した回線を統一する、複数自治体で共有する)や割引サービス(例:高額利用割引、他サービスとのセット割引)の利用も考えられる。
(4) システム運用作業費の削減
システム運用作業費については、オンプレミスであった時期と同様、運用作業の自動化(例:夜間バッチ処理やデータバックアップ処理の自動化)が考えられる。またクラウド移行のメリットを生かし、自治体庁舎における常駐SEを廃止し、ITベンダ拠点からのリモート運用保守に切り替えることが考えられる。
8 ランニングコストを削減するには(中長期的対策)
中長期的には、システムのモダン化とクラウドサービスの活用が必要になる。これは図表4で記した「ガバメントクラウドに移す意義」を実現することにもなる。システムのモダン化によるランニングコスト削減のイメージは、以下の図表の通り。

出所:日本総研作成
(1) システムのモダン化とは
デジタル庁によると、システムのモダン化とは「外部環境の変化に合わせて情報システムを変更していくプロセス」であり、以下①~⑤の内容を含むものである(※7)。
①.API(※8)ベースのシステム構成
②.ステートレスなアーキテクチャ(例:コンテナの活用、オートスケールの活用)
③.マネージドサービスの活用
④.運用のコード化、自動化
⑤.サービスレベルの定義、計測
基本的に上記①~⑤は関連するので、セットで検討を進める必要がある。特にランニングコストに影響するのは、②のコンテナの活用・オートスケールの活用、③マネージドサービスの活用である。また、オンプレミス時代のミドルウェア(例:データベース、運用管理システム)を継続使用するのではなく、できるだけCSP側で用意しているサービスを利用することも重要である。
では、システムのモダン化により、どのようにランニングコストを削減するのか。以下、具体的な内容について記載する。
(2) クラウド利用経費の削減
クラウド利用経費の削減については、サーバをコンテナ化するとともに、オートスケール機能を利用し、システム負荷に応じてサーバを増減できるようにすることが考えられる。現状ではシステムがオートスケールに対応していないため、最も負荷が高い時期(例:年度末、税の申告時期)に合わせたスペックとサーバ台数を用意する必要がある。これは余剰なリソースを用意することになり、コスト効率が悪くなる。
なおサーバのコンテナ化、オートスケールの利用には、業務システムのマイクロサービス化(※9)、APIベースの連携の実現を進めることが前提となる。
(3) ソフトウェア借料・保守費の削減
ソフトウェア借料・保守費の削減については、マネージドサービス等のクラウドサービスの活用により、運用管理システムやデータベースのコストを削減することが考えられる。
オンプレミスからの継続で、持ち込みの運用管理システムを利用している場合には、CSPのマネージドサービス(例:AWS Cloud Watch(※10)、 AWS Cloud Trail(※11)、 AWS Systems Manager(※12))に変更していくことが必要である。持ち込みの運用管理システムは多くの場合、ライセンス料が高額かつサーバ構築が必要となるため、サーバレスで従量課金となるCSPのマネージドサービスよりも高コストとなる。
またデータベースも、CSPのサービスである、Amazon Aurora Serverless等を利用することが望ましい。オンプレミスからの継続で持ち込みのデータベースを利用している場合には、ライセンス料が高額でサーバ構築が必要となるほか、オートスケールに対応していないケースが多いため、高コストとなる。
これらのマネージドサービスやクラウドサービス活用は、システムの構成や設定を大きく変更することになるため、実現は中長期的な課題となる。
(4) システム運用作業費の削減
システム運用作業費の削減については、短期的対策で実施した内容(夜間バッチ処理やデータバックアップ処理等の定型作業の自動化)から進んで、「インフラ・アプリケーションのデプロイ自動化」「インシデント対応の自動化」を進めることが望ましい(※13)。
「インフラ・アプリケーションのデプロイ自動化」とは、従来手作業で行っていたサーバ設定の変更やプログラムの更新作業を自動化することである。「インシデント対応の自動化」とは、インシデント(システム障害やセキュリティ侵害)が発生した際に、検知・分析・封じ込め・根絶・復旧までの一連の流れを自動化することである。
いずれもシステムのモダン化(例:マイクロサービス化、コンテナ化、マネージドサービスの利用)が前提になり、システム構成や運用・保守の仕組みを大きく変える必要がある。
9 ランニングコスト削減を阻む壁
ただし実際のランニングコスト削減には、以下のように、実現を阻む壁が存在する。
(1) ITベンダの壁
政府がシステムのモダン化を推進しても、実際にモダン化を実施するのはITベンダである。ITベンダ側がモダン化に着手しなければ、ここで挙げたような中長期的対策の実施は難しい。残念ながらITベンダにとって、ランニングコスト削減は自社の売り上げに影響するため、モダン化に取り組むインセンティブは低いと言わざるを得ない。自治体情報システム標準化の取り組みを通じてITベンダ間の競争環境を整備し、ITベンダがシステムのモダン化とランニングコスト削減を競うように誘導する必要がある。
(2) クラウド技術に対する知識の壁
システムのモダン化を進めるためには、自治体職員側もクラウド技術に対する知識が必要になるが、現状では十分と言い難い。クラウド技術を持った職員の育成とともに、外部専門家の活用も検討する必要がある。
(3) 契約の壁
特にガバメントクラウド共同利用方式(※14)を採用している自治体の場合、ガバメントクラウドの契約や料金の支払いは、ガバメントクラウド運用管理補助者を通して行うことになる。自治体とガバメントクラウド運用管理補助者との契約が長期契約である場合、サーバスペックの変更や長期割引の適用は契約変更が必要になるため、その実施が困難になるケースが見受けられる。自治体がガバメントクラウド運用管理補助者と長期契約を結んでいる場合は、契約更新の際に、柔軟なスペックや料金制度の適用が可能となるよう、契約内容の見直しを行う必要がある。
10 最後に
このように、ガバメントクラウドのランニングコスト削減は、短期的対策と中長期的対策に分けて考えることが望ましい。また、短期的対策は経費項目別に対応することが可能だが、中長期的対策はシステム全体のモダン化が前提となるため、モダン化をどのように進めていくか、戦略的に検討する必要がある。システムのモダン化については、CSPにおける技術的な内容についての理解が必要になるため、ITベンダや外部専門家からの積極的な情報収集を行い、進めることが望ましいと考える。
以上
(※1)重点計画(2025)における重点政策一覧はデジタル庁「第2 重点政策一覧
」に記載。(※2)脚注1 重点計画(2025) 「第2 重点政策一覧」の「[No.3-103]地方公共団体の基幹業務等システムの統一・標準化」における「具体的な目標」より引用。下線は筆者による。
(※3)サーバ等の機器やソフトウェアを自治体が所有して運用すること。
(※4)デジタル庁「令和6年度ガバメントクラウド早期移行団体検証事業報告書(本紙)
」(令和8年3月) (※5)デジタル庁「自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費に係る総合的な対策<概要>
」(令和7年6月)(※6)デジタル庁ウェブサイト「ガバメントクラウド
」 2026/4/28確認(※7)デジタル庁GCASガイド「ガバメントクラウドにおけるモダン化の定義
」 2026/4/29確認(※8)Application Programming Interface 異なるシステム間で情報をやり取りするための共通の仕組み。
(※9)アプリケーションを独立性の高いサービスの組み合わせによって構成させること。
(※10)システム監視サービス
(※11)ログ記録・管理サービス
(※12)システムの構成管理サービス
(※13)デジタル庁GCASガイド「運用モダン化実践ガイド 3.運用のコード化・自動化
」では、運用自動化の領域として「1.インフラ、アプリケーションのデプロイ自動化」「2.インシデント対応の自動化」「3.定型作業の自動化」を挙げています。 2026/4/29確認(※14)複数の自治体が、同一のガバメントクラウド運用管理補助者に運用管理業務を委託する方式。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

