オピニオン
地方議員に求められる四つの力 ~政策提言プロセスから考える地方議会の機能強化~
2026年08月26日 芦田 章吾
1.地方議員に求められる役割とは
地方議会に対しては、「地方議員が何をしているのか分かりにくい」「議会の役割が見えにくい」といった声が少なくない。確かに、地方議員の役割が何かと問われれば、例えば弁護士であれば弁護士法の第1条に「弁護士の使命」が明記されていることと比べても、地方自治法において分かりやすく示されているとは言い難い。同法第89条第2項に議会の役割が書かれており、議員については、第3項に、議会の権限の適切な行使に資するために「住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならない」とある。議会の権限については第96条以降にさらに詳しく書かれているが、条例や予算などの議決や、検査や調査の権限を行使することが基本的な役割である。
ただ、こうした明記に関する法改正も近年のことであるためか、日本財団が2023年に実施した18歳意識調査(※1)では、地方議会の役割を知らなかったとする回答も全体の半数近くを占めた。
筆者は、未来社会価値研究所の政治人材バンクプロジェクトをはじめとする活動を通じ、複数の地方議員や首長、行政経験者らと直接対話をする機会を得た。それらのなかから、地方議員の「住民の負託を受け、誠実に行うべき職務」とは、議決を通じた首長をはじめとする執行部の監視にとどまらず、より積極的に政策形成を行っていくことであると考えるに至った。そうした職務に求められる役割や要件を明確にすることで、今後強化すべき能力をより具体的に把握することができる。
そこで本稿では、選挙に当選した議員が、住民の実情を把握し、それを政策として具体化のうえ、関係者間の合意を形成し、執行後の評価と改善に結び付けるまでの過程を「政策提言プロセス」と捉え、その各段階で地方議員に求められる能力と、それを支える仕組みについて考察する。
2.地方議員の政策提言プロセス
地方議員の仕事は、本会議で議案に賛否を示すことに限られない。住民や事業者等との対話を通じて地域の課題を把握し、行政から提出された情報を検証し、必要に応じて政策や条例を提案することも重要な役割である。また、政策を実現するためには、異なる立場の関係者との調整を行い、事業の実施後には、その成果や課題を確認し、改善につなげることが求められる。
こうした活動は、大きく次の四つの段階に整理できる。
1.地域の実態や住民ニーズから政策課題を把握する「課題把握」
2.把握した課題を実現可能な政策に組み立てる「政策構想」
3.政策の実現に向けて関係者間の調整を行う「合意形成」
4.政策の執行状況と効果を検証する「監視・評価」
実際の議会活動では、これらの段階が明確に分かれて進むわけではない。監視・評価を通じて新たな課題が明らかになり、再び課題把握や政策構想へ戻ることもある。その意味で、政策提言プロセスは一方向の手順ではなく、継続的に循環する過程である。
具体例を挙げたい。医療的ケア児をはじめ、さまざまな子ども向けの福祉支援策が18歳で途切れてしまういわゆる「18歳の壁」という課題に、暮らしにくさを感じる人もいる。実際に「18歳の壁」に直面した人の課題を把握した議員が、当該自治体全域では大規模な改革を迅速に動かしにくい中で、まず域内の一部のエリアで「壁を崩す」ことに先行的に取り組める施策を検討し、その実施状況と効果を確かめたうえで地域全体へ広げていこうとしたケースがある。課題把握の次に、制度の問題として構想し(政策構想)、一部エリアの関係者を巻き込んで先行的に実施し(合意形成)、その成果と課題を検証して全体への展開につなげる(監視・評価)という、上記の政策提言プロセスをそのまま一巡している。
もちろん、課題把握や政策構想は、議員ではなくとも、行政の職員でも行いうる。しかしながら、日々の業務が既存の制度に基づき部署ごとに明確に決まっている執行部内部では対応することが難しかった「18歳で支援が切れる」というような具体的な制度の課題について、政策の俎上に載せることにおいて、部署の壁にとらわれずに構想しうる議員の役割は本来大きいはずである。
3.政策提言プロセスから導かれる四つの力
上述の政策提言プロセスに沿って考えることで、地方議員に必要な能力を実際の活動との関係から整理することができる。
(1)課題把握力
第一の段階は「課題把握」である。ここで求められるのは、地域の実態と住民ニーズを把握し、数ある意見や要望のなかから、政策として取り組むべき課題を特定する力である。
住民から寄せられる要望は、それ自体が重要な情報である。一方、個別の要望をそのまま行政に伝えるだけでは、類似する事象の背後にある構造的な問題を見落とす可能性がある。例えば、公共交通に関する複数の要望の背景には、高齢化、人口密度の低下、運転手不足、医療機関へのアクセスなど、複数の要因が存在する場合がある。
地方議員には、住民との対話に加え、統計情報、行政資料、現地調査等を組み合わせ、課題の原因と影響を整理することが求められる。また、限られた財源と人員のなかで、どの課題を優先すべきかを判断する視点も必要となる。こうした一連の活動を、本稿では「課題把握力」と位置づける。
(2)政策構想力
第二の段階は「政策構想」である。把握した課題を、実現可能な政策、条例、事業の見直し案などに組み立てる力が求められる。
政策を構想する際には、目指すべき将来像を示すだけでなく、財源、人員、法制度、既存施策との関係を踏まえ、実行可能な選択肢を提示する必要がある。新たな事業を提案する場合には、対象とする課題、期待する効果、その効果を確認する指標まで整理することが望まれる。
人口減少下の自治体では、新規事業の提案だけでなく、既存事業の見直し、公共施設の再編、複数自治体との共同実施、民間事業者やNPOとの連携なども政策上の選択肢となる。限られた資源を前提として、複数の政策手段を比較し、地域に適した方策を構成する力を「政策構想力」と整理する。
(3)合意形成力
第三の段階は「合意形成」である。政策を実現するには、首長、行政職員、住民、民間事業者、NPOなど、立場や利害の異なる関係者との調整が必要となる。
人口減少や財政制約が強まるなかでは、公共施設の統廃合、行政サービスの提供方法、住民負担のあり方など、関係者の一部に不利益や負担が生じる政策判断も避けては通れない。こうした課題に対しては、各関係者の要求を単純に積み上げるだけでは、持続可能な結論に至らない場合がある。
地方議員には、対立する意見の背景にある関心や懸念を把握し、政策上の選択肢とその影響を共有したうえで、地域全体として受け入れ可能な方向性を探ることが求められる。政策の必要性や判断根拠を説明し、異なる立場の関係者間で納得可能な着地点を形成する力を「合意形成力」と位置づける。
(4)監視・評価力
第四の段階は「監視・評価」である。政策の実施段階では、予算が適切に執行されているか、事業が想定した対象に届いているか、期待した効果が生じているかを検証する必要がある。
そのためには、予算書・決算書を読み解く財務上の知識、行政サービスを支える法制度の理解、行政が保有するデータを分析する能力などが求められる。また、個々の事業の成果だけでなく、他の施策との重複や、当初想定していなかった影響についても確認する必要がある。
監視・評価は、行政の誤りを指摘することのみを目的とするものではない。事業の成果と課題を明らかにし、その結果を次の政策構想や予算審議に反映することに意義がある。政策の実施状況を客観的に検証し、改善につなげる力を「監視・評価力」と整理する。
以上の四つの力は、個別に完結するものではない。課題把握が政策構想につながり、合意形成を経て実施された政策が監視・評価され、その結果が新たな課題把握へ戻ることで、政策提言プロセスは循環する。地方議員の政策形成機能を高めるためには、この循環を継続的に機能させることが重要となる。
4.能力の獲得と補完に向けた三つの方策
地方議会において、議員が四つの力を発揮するためには、現職議員の能力開発、議会組織による補完、多様な人材の参入を組み合わせる必要がある。
(1)現職議員の能力開発
第一は、現職議員に対する継続的な能力開発である。地方議員には、立候補の段階で特定の資格や職業経験は求められない。これは、多様な住民が政治に参画できるという地方自治の趣旨に照らして重要な原則である一方、当選後は予算・決算の審査や条例の検討など、高度な知識を要する業務を直ちに担うことになる。
当社が実施した現職市議会議員へのヒアリングでは、議会から提供される研修は年に数回程度にとどまり、それ以外の能力形成は議員個人の自主性に委ねられているとの指摘があった。ヒアリングは一事例にすぎないものの、研修を単発的な知識提供にとどめず、政策提言プロセスに沿って体系化する必要性を示唆している。
具体的には、政策課題の分析、財政・決算資料の読み方、政策法務、EBPM、住民参加、合意形成などを、実際の地域課題を題材として学ぶ機会を整えることが考えられる。特に初当選議員には、課題把握から監視・評価までの一連の過程を実践的に学ぶ機会が有効である。また、同ヒアリングでは、会計基準や法解釈上の根拠を伴う提案は執行部との議論を前に進めやすいとの声も聞かれた。財務・法務の実務的な素養を重点的に高めることは、議会の政策形成機能を実質化する一つの手段となる。
(2)議会組織による能力の補完
第二は、議員個人に不足する能力を、議会組織として補完することである。前章で見たとおり、議会事務局の職員数は町村で平均2.6人にとどまる(※2)。政策分野の専門知識や高度なデータ分析能力を、すべての議員が個別に備えることは難しい。当社のヒアリングでも、行政が契約して保有するデータを議員が利用できない場合があることや、政策秘書の雇用、データ分析への投資が難しいことが語られた。
議会事務局の調査機能を強化するとともに、必要に応じて外部専門家を活用し、議員が共通して利用できる政策形成基盤を整備することが重要となる。また、複数の自治体議会が共同で調査研究機能を持つことや、大学・研究機関と連携することも選択肢となる。特に小規模自治体では、単独で十分な人員と専門性を確保することが難しいため、広域的な連携による補完を検討する余地がある。
ただし、こうした支援の強化は、執行部からの独立性を確保しつつ進める必要がある。議会が執行部の提供する情報や専門知に過度に依存すれば、監視機能が弱まる可能性がある。議会が独自に情報を取得・分析し、必要に応じて異なる政策選択肢を提示できる体制を整えることが重要である。
(3)多様な人材が参入できる環境の整備
第三は、多様な経験を持つ人材の参入である。企業経営、行政、NPO、専門職、地域活動などの経験者は、それぞれ異なる形で、課題把握、政策構想、合意形成、監視・評価に関わる経験を有している可能性がある。こうした人材の参入は、議会に新たな視点や実務知をもたらし、議員間の相互学習にもつながり得る。
一方、多様な人材の参入には構造的な障壁がある。2025年4月1日時点で、町村議会議員の報酬は平均月額22万1,949円であった(※3)。また、2023年の統一地方選挙では、町村議会議員選挙の無投票当選者が総定数の30.3%に当たる1,250人に達し、20町村で定数割れが生じた(※4)。
当社が実施した地方議員へのヒアリングでも、小規模自治体では兼業を前提とせざるを得ない報酬水準であることや、立候補に伴う不確実性が現役世代の参入を難しくしているとの指摘があった。多様な人材の参入を促すには、所得や雇用上のリスク、会議時間、兼業、休職・復職など、立候補前後の障壁を軽減する方策を検討する必要がある。
もっとも、特定の職業経験を持つ人材が地方議員として当然に適任であることを意味するものではない。重要なのは、「民間人材」を一括して評価することではなく、多様な経験を持つ人が候補者となり、有権者が実質的な選択を行える環境を整えることである。
5.実現に向けた課題
以上の方策を進めるにあたっては、いくつかの点に留意する必要がある。
第一に、四つの力を画一的な議員評価の基準として用いるべきではない。地方議会は、多様な属性、経験、価値観を持つ住民の代表によって構成されることに意義がある。すべての議員に同じ水準の能力を求めるのではなく、議会全体として政策提言プロセスに必要な機能を確保するという視点が重要である。
第二に、研修や組織支援を充実させるだけで、直ちに議会活動が変化するとは限らない。研修で得た知識を、調査活動、委員会審査、住民対話、政策提案等の実践に接続する仕組みが必要である。また、支援制度の利用状況や、それが議会活動の質にどのような変化をもたらしたかを検証する視点も欠かせない。
第三に、小規模自治体における資源制約である。町村では議会事務局の職員数が平均2.6人であり、議員報酬も平均月額22万円程度にとどまる。専門人材の配置や事務局の増員は容易ではないため、外部専門家の共同利用や自治体間連携を含め、持続可能な支援方法を検討する必要がある。
第四に、議会への支援を強化する際には、執行部からの独立性と、住民に対する説明責任を確保する必要がある。議会が独自に情報を取得し、分析できる基盤を形成するとともに、どのような根拠に基づいて政策判断を行ったのかを住民に示すことが重要となる。
6.おわりに
人口減少や財政制約が進むなか、地方自治体には、限られた資源をどの分野に配分し、どのサービスを維持・見直すかという判断がこれまで以上に求められる。こうした局面において、多様な住民意思を反映し、執行部の提案を検証するとともに、必要に応じて政策上の選択肢を提示する地方議会の役割は大きい。
地方議会の機能を高めるためには、地方議員の役割を抽象的に論じるだけでは十分ではない。課題把握、政策構想、合意形成、監視・評価という政策提言プロセスを明確にし、それぞれの段階で必要となる能力と支援基盤を整える必要がある。
その方策は、能力を持つ人材の参入だけに求めるべきではない。現職議員の能力開発、議会事務局や外部専門家による組織的な補完、多様な経験を持つ人材が参入できる環境整備を組み合わせることが重要である。
個々の議員にすべての能力を求めるのではなく、議会全体として政策提言プロセスを機能させる。この視点から人材、育成、議会組織のあり方を見直すことが、地方議会の政策形成機能を高め、住民からの信頼を得るための一つの契機になると考える。
(※1)日本財団「日本財団18歳意識調査結果 第55回テーマ『地方議会』
」(2023年3月17日)(※2)総務省「地方議員の運営の実態
」(2026年8月21日閲覧)(※3)全国町村議会議長会「議員報酬に関するアンケート調査結果の概要
」(※4)全国町村議会議長会「第33次地方制度調査会 第19回専門小委員会 提出資料
」(2023年9月27日)※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

