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アムステルダムに学ぶ、魅力あるウォーターフロント開発と都市の発展

2026年08月03日 谷本陸


1.本稿のテーマ
 近年、国内においてもウォーターフロント開発に対する注目が高まってきており、東京都も「東京ベイeSGまちづくり戦略(※1)」を打ち出すなど、さまざまな動きがみられる。本稿では、先進事例であるアムステルダムのウォーターフロント開発と都市の発展の関係性について整理し、日本のウォーターフロント開発における示唆を得ることを目的とする。

2.アムステルダムの外観
(1)市・エリアの概要

 オランダの首都であるアムステルダム市は、アイ湾に面した都市であり、
豊富なウォーターフロントを有し、北海運河にて北海と接続されている。人口は約90万人であり、外国からの移民流入や国内他都市からの移住により増加傾向にある。

図1 アムステルダム市の行政区(出所:OpenStreetMapを基に日本総研作成)

 アムステルダムは、旧市街であるCentrum地区を中心に発展してきた。地区の中心には交通の起点であるアムステルダム中央駅が位置しており、そこから放射状に延びる形で街並みが形成されている。Zuid(南部)地区はアムステルダムの副都心であり、近年市によって積極的に開発されているエリアである。West(西部)地区等には公園や住宅街が広がっており、南西部(市外)には国際空港であるスキポール空港も位置している。アイ湾に面したウォーターフロントを有するNoord(北部)地区は、かつては造船所や工場が立ち並ぶエリアであったが、工場群をより郊外のWestpoort地区へ移動させた後、再開発が進み住宅や文化施設が立ち並ぶエリアとなっている。
 アムステルダム市の都市開発を考える際には、3つの規制を意識する必要がある。第一に、中心部の「シンゲル運河内の17世紀の環状運河地区」は世界文化遺産として指定されており、景観等を維持するための各種規制が存在する。
 第二に、アムステルダム市内には、スキポール空港を中心とした建築物の高さ規制が適用されている。特に南西部では、建築物の高さが60m以下に制限される等、高高度な開発をすることができない(※2)
 第三に、アムステルダム市の外部にある湿地エリアでは開発規制が存在する。オランダでは、都市域を構成するRandstadに対して、湿地や田園からなるGroeneHartを保存するという国土形成の基本概念を有している。GroeneHartでの開発が制限されることで、都市部の機能を集約する必要があることから、よりクリエイティブで持続可能な都市生活空間を形成するための工夫がなされることになる。
 上述の世界遺産を守るための規制、航空法による高さ制限、GroeneHartでの開発制限によって、市中心部の再開発や周辺部への無秩序な市街地拡大が制限されている。したがって、人口増加に対応するために、都市内部でインフラが整っているウォーターフロントの開発が重要となる(※3)

(2)強い計画性と市による土地所有
 オランダの都市開発は、「強い計画性」と「市による土地所有」を大きな特徴とする。自治体が主導して緻密な計画を立て、土地を管理することで、無秩序な都市拡散を強力に抑制している。
 オランダの都市計画は、空間計画法(空間整序法)等に基づいており、国、州、自治体はビジョンを策定し土地利用計画を定め、自治体はビジョンをさらに具体化した個別計画を立てることになる(※4)。計画のない開発や建築は許可されず、インフラ配置や建物の高さ・用途まで厳格に定められる。
 また、オランダではアムステルダム市をはじめ、土地の大部分を自治体が所有している点が最大の特徴である。市が主導してインフラを整備したうえで、民間デベロッパーに開発させる仕組みをとるため、公的なコントロールを維持した確実な都市開発が実現されることになる。

(3)ボトムアップの取り組み
  オランダでは、住民等が自主的に水利組合を組織し、共同で干拓および治水対策をしてきた経緯から、合意形成社会(ポルダーモデル)となっており、ボトムアップでの合意形成が意思決定の基本である(※5)。国と自治体間においてもビジョン間の整合性を図るための合議がなされ、関係者間の利害が調整された実効性のある計画が立てられている(※6)
 さらに、行政が市民の意見を聞く取り組みを積極的に行っている。例えば、アムステルダム市はWhatsAppを活用し、市民との間でイベント情報の発信や意見交換を行っているほか、市民参加型予算や市によるエリアマネジメントの取り組みも活発である。また、ビジョンやそれを具体化した個別計画を定める際も、市民やデベロッパーの意見を聞き、ワークショップでは積極的に両者が意見を言い合っている。このようにアムステルダムでは、ボトムアップの視点が取り入れられ、熟議を重ねたまちづくりがなされている。

(4)アムステルダム市街の理解するための補助線
 アムステルダム市の都市構造は、南北軸と東西軸という二軸で整理できる。この軸に沿って街を歩くと、エリアごとに明確に分かれた土地利用、統一された建物の高さを目にし、強い計画性に基づいた開発を実感することができる。

図2 地図上における南北・東西軸(出所:OpenStreetMapを基に日本総研作成)

 市の中心部を南北に歩けば、北側から住宅街、商業地区、アイ湾を挟んでアムステルダム中央駅、ダム通りを経て、面積が広く緑豊かな公園、低層住宅街、再開発エリアであるZuid地区となっており、明確な土地利用の機能分化がみられる。

図3 アムステルダムの南北軸

 一方でウォーターフロント沿いの東西軸では、西からWestpoort地区の工場エリア、工場跡地を再開発したNDSM地区、中央駅の対岸にある商業エリア、倉庫跡地等を活用したオフィスエリア、埋立地の住宅エリアへと、南北軸に比べてゆったりと移り変わっていく。ウォーターフロントの開発においてもエリアごとに特徴を持たせた土地利用がなされていることがわかる。

図4 アムステルダムの東西軸


3.ウォーターフロントの開発
 アムステルダムではウォーターフロント開発を通して、人々が離れていく街から、住みたい・訪問したい街へと都市のイメージを変えてきた。1950年代以降、都市部では街が荒廃し、治安の悪化および、人口流出が課題となっていた(※3)。そうした中、市は1980年代後半より、廃墟となった港湾地区の改修や、アイ湾の埋め立て、中央駅の再開発等のウォーターフロント沿いの開発を進めた。それにより、ウォーターフロントから都市が活性化し、アムステルダム市は国内外から人々を集める都市へと変化した。
 ここでは、アムステルダムのウォーターフロント開発におけるポイントを、アンカーアプローチ、大胆なリノベーション、実験的な取り組み、それらを連携させる交通機能の円滑化、日常的な水との接点の形成の5つの観点から解説をしていく。

(1)アンカーアプローチ
 アムステルダムのウォーターフロントでは、人々が集まる核となる文化施設やアイコニックな施設、インフラを、アンカー(錨)をおろすように街のなかに計画的に配置し、それを呼び水に周辺の開発を進めている(※3)。アンカーとなる施設の周辺には、大小さまざまな住宅や緑の多い魅力的な公共空間を設けることで、多様な人が居心地よく暮らせるまちづくりがなされている。
 例えば、EYE Filmmuseumは、アムステルダム中央駅の対岸に位置する施設となっており、特徴的でスマートな外観が人々の目を引き、洗練された印象を市全体へ与えている。同様に、アムステルダム中央駅周辺エリアでは、NEMOScience Museumがアンカー施設としてひときわ目立っている。当施設はアイ湾に面して設置されており、外観を覆っている銅が懸念劣化とともに美しさを醸し出している。


写真1 左:EYE Filmmuseum 右:NEMOScience Museum


 住宅地においても、単純な形状の住宅の集合とするのではなく、特徴的な形の住宅を中心としてメリハリのある開発が行われている。例えばHouthaven地区にある住宅Pontsteigerは、中心部がくりぬかれた門のような形となっており、周辺の住宅地全体に上質な印象を与えている。Sluisbuurt地区にある住宅SLUISHUISは、内庭空間にボートを浮かべることができる等、水辺をいかした生活が可能となっており、上質な暮らしを送れるエリアであることを市民に訴えかけている。


写真2 左:Houthaven地区にある住宅 右:Sluisbuurt地区にある住宅


(2)既存施設の大胆なリノベーション
 既存施設を大胆にリノベーションした開発も多くみられる。特に注目したいのは、造船所があった場所を再開発したNDSM地区である。造船所の特徴的な構造物をいかしたリノベーションがなされており、船を進水させるための船台は大規模イベントスペース、クレーンの上部はホテル、倉庫内部はアーティスト等によりアトリエとして活用されている。これらの既存施設をいかした再開発により、NDSM地区は活力が生まれ、のちの住宅開発の起爆剤となった。


写真3 NDSM地区(船台から見るクレーン)


 また、IJoevers地区はかつての倉庫をリノベーションし、オフィスエリアとして再生させた優良事例となっている。倉庫の上に新しいオフィスを増築した建築もあり、倉庫を活用しつつ新しい価値を付加している。また、跳ね橋の管理施設であるブリッジハウスをホテルとして転用し、ウォーターフロントの景色を間近で眺めることのできる魅力的な施設としている事例(SWEETS hotel)もある。


写真4 左:IJoevers地区での倉庫リノベーション 右:SWEETS hotel


 こういった旧施設を活用しつつ、新しいデザインを共存させた多くの優良リノベーション事例は、オランダの社会環境と文化財制度によって生まれている。オランダでは、サステナビリティへの強い社会的要請や、廃棄物処理および資材調達コストを抑える意識が高い。また、建物の外観の変更は厳しく制限されているが、内部デザインの変更や用途変更に対しては柔軟性がある。加えてリノベーションへの支援体制も、新旧を融合させた大胆なリノベーションを促している(※7)

(3)実験的な取り組み
 アムステルダムのウォーターフロント開発は、大規模開発に先立つ暫定的・実験的な取り組みを積極的に導入することで望ましいまちの在り方を検証しつつ、開発の停滞を避けている。現在も続いているBuiksloterham地区での工場跡地の再開発においては、一度に住宅やオフィスを建てるのではなく、小さな規模でのモデル地区開発を先に行っている。特に、このモデル地区では、住宅とオフィスのバランスをさまざまに試し、後のより大規模な開発をみすえ、職住近接の適切な割合を実験的に探っている点が特徴である。
 また、旧軍事基地であるMarineterreinでは、再開発計画の合意が取れるまで、暫定的にリビングラボとしての活用や公共空間活用プログラムが実施されている。リビングラボには、研究機関が入居しており、都市課題に対して公共空間を活用した実証研究を行っている。さらに、水辺活用のための桟橋の設置や水質改善プログラムが実施されており、再開発後の水辺空間の使い方を、具体的に検証する取り組みとなっている。


写真5 Marineterreinにおける水辺活用


(4)交通機能の円滑化
 アムステルダムのウォーターフロントが魅力的なのは、個別エリアの開発のみに依拠するものではなく、スムーズな交通機能によるものも大きい。最も特徴的なプロジェクトはアムステルダム中央駅であり、自転車や歩行者の動線変更を伴う再開発がなされている(※8)。かつての中央駅は、アムステルダム市街とウォーターフロントを隔絶させてしまっていたが、車道を地下化し、歩行者や自転車用の鉄道アンダーパスを設けることによって、中央駅の前後を抜けてスムーズに水辺へアクセスできるようになった。また、地上にあった駐輪場を地下へ移動させ、地上の公共空間を大きくした。これにより、市民生活や観光客の動線にウォーターフロントが自然と取り込まれるようになり、都市の中でのウォーターフロントの立ち位置が向上することとなった。


写真6 左:アムステルダム中央駅の車道の地下化 右:水辺の公共空間


 また、アムステルダムのウォーターフロントは自転車による移動を円滑化する工夫がなされている。アイ湾を渡る舟運は、アムステルダム市営交通会社(GVB)によって無償で運航されており、自転車を持つ人々の生活に重要なインフラとなっている。また、アイ湾に架かる2本の自転車橋の整備計画(※9)もあり、今後より一層アイ湾の両岸の往来が活発化することが予想される。

(5)日常的な水との接点の形成
 アムステルダムでは、日本と比べて水辺で過ごすことが日常に根付いており、豊かな都市生活につなげている。アムステルダムの夏はアイ湾での遊泳を楽しむことができる。また、水辺の道路空間や浮かべたボートにテーブルを設置し、落ち着いたひと時やワインを楽しむ姿も頻繁に目にする。冬は水上サウナや寒中水泳を楽しむことができる。さらに、Schoonschipやボート住宅等の水上で生活するライフスタイルも人気であり、近年の水上住宅は価格高騰が著しい。
 このように、水辺を利用した暮らしがアムステルダムでは深く根付いており、アムステルダム市で住むことの魅力を高めている。水質改善とも一体となったウォーターフロントの開発は、市民の暮らし方すらも変え、豊かな都市生活を実現させている。

4.まとめ
 アムステルダムと日本では、法制度や土地の所有者、計画の具体性や厳格性等が異なっていることを前提としつつ、日本のウォーターフロント開発においても参考とするべき点をまとめる。

(1)都市のイメージを作る
 アムステルダムの各地区の開発では、アンカーアプローチによるアイコニックな施設や、大胆なリノベーションによる特徴的な施設が目立つ位置にあり、ウォーターフロントや都市全体に魅力的な印象を与えている。特に、視界を遮るものが少ないウォーターフロントでは、特徴的な施設により注目が集まり、都市を象徴する施設となる。日本においても、東京の玄関口となり得る臨海副都心や、倉庫や工場が残っているウォーターフロントにおいて、都市のイメージを創り出す施設を設けることが効果的である。


写真7:特徴的なウォーターフロント
(EYE Filmmuseumはさまざまな場所から見え、都市のイメージを代表する施設として印象が強くなる。)


(2)ウォーターフロントならではのモビリティの在り方
 既存の中心街ではないウォーターフロントは、鉄道等の大規模な交通網が整備されていない地域も多い。そのため、既存の中心部とウォーターフロントをつなげるスムーズな交通機能を設けることが重要となる。アムステルダムでは、交通圏活性化のための各種施策により、アイ湾北側での人々の積極的な活動が生まれた。舟運やマイクロモビリティも含めたシームレスな交通機能を設けることで、ウォーターフロントの利用が活発になることが想定される。

(3)水辺をより身近にするデザイン・文化
 日常的な水との接点を意図的に作り出す取り組みも重要となる。親水空間の整備や水辺の住宅開発を通じて、生活に水との接点を多く取り入れることは、生活の豊かさにつながる(水のある空間は人々に癒しを与え、メンタルヘルスの向上につながるという研究結果(※10)もある)。また、運河ルネサンス事業に代表されるような、実験的な取り組みを含めた水辺での多様な活動を認め、水を活用する文化を醸成することが、魅力的な都市空間を作るうえではより重要となる。

(4)共通理解の形成
 アムステルダムでは行政の計画的な都市整備とボトムアップ的な市民や民間事業者の取り組みの双方によって、上述のアプローチを取り入れた魅力的なウォーターフロントが形成されたが、日本の都市計画で描かれるビジョンは、大まかな用途規制やボリューム制限が主であり、地区・区画ごとの開発は民間事業者に任せられている。今後は、水辺を戦略的に活用し、都市のイメージや価値を高めていくために、行政と民間事業者が具体的な取り組みの在り方まで議論し、共通のビジョンを描くことが重要である。

 上述のアプローチを参考にしつつ、行政と民間事業者および市民が連携することによって、魅力的なウォーターフロントの形成、ひいては豊かでゆとりのある都市像を構築していくべきである。

5.謝辞
 本論考の作成にあたり、オランダや日本で活躍されている建築家の根津幸子氏より、インタビューや現地案内など多大なご協力をいただきました。ここに深く感謝の意を表します。

(※1) 東京都「東京ベイeSGまちづくり戦略(URL:https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/machizukuri/kozo_seibi/kyoten_seibi/esg) 2026年7月23日閲覧
(※2) Oberheid.nl「Luchthavenindelingbesluit Schiphol(URL: https://wetten.overheid.nl/BWBR0014329/2025-07-01/0) 2026年7月23日閲覧
(※3) Maurits de Hoog『Amsterdam Urban Development 1975-2025』naio10 publishers, 2025
(※4) 財団法人日本都市センター『オランダの都市計画法制―全訳・オランダ空間整序法』2012
(※5) 根津幸子『アムステルダム ボトムアップの実験都市』学芸出版社,2025
(※6) 馬場美智子「オランダの都市計画における地方分権と広域的観点からの調整方法に関する考察」日本都市計画学会 都市計画論文集 No.44-1 2009
(※7) 笠原一人『ダッチ・リノベーション―オランダにおける建築の保存再生』鹿島出版会,2021
(※8) Anneke Bokern, et al.『Amsterdam: Urban Architecture and Living Environments』DETAIL ,2025
(※9) I AM EXPAT「It's official: Amsterdam is getting a new cycle bridge over the IJ(URL:https://www.iamexpat.nl/expat-info/dutch-news/its-official-amsterdam-getting-new-cycle-bridge-over-ij)(2024年7月10日) 2026年4月24日閲覧
(※10) Michail Georgiouほか「A population-based retrospective study of the modifying effect of urban blue space on the impact of socioeconomic deprivation on mental health, 2009–2018」 Scientific

Reports volume 12, Article number: 13040 (2022) (https://www.nature.com/articles/s41598-022-17089-z)2026年4月24日閲覧

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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