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「界隈」から「カルチャー」を醸成する手法と未来のカルチャー
~VTuberカルチャーを例に~

2026年07月13日 塚田遊磨


1.「界隈」と「カルチャー」の違い
 近年、SNSなどを中心に「○○界隈」という言葉がよく見られるようになった。具体的な例としては、「推し活界隈」や「美容界隈」、ビジネスに関連するものとしては「スタートアップ界隈」などの表現が見られる。大正大学の中川教授は、「界隈」という言葉について次のように述べている。
「“界隈”という言葉は、もともと『近所』や『周辺』など、特定の地域やその一帯を指す際に使われてきました。ところが近年は、さまざまな分野やコミュニティを指す言葉として使われるなど、意味合いが広がっています。例えば、『ネット界隈』や『就活界隈』などと表現する場合、ネットの世界や就活に関わる人たちのことを指しますよね。また、『アニメ界隈』『K-POP界隈』など、共通の趣味や価値観を持つ人々のコミュニティを指すために使われることもあります。最近では、『風呂キャンセル界隈』など、同じような行動パターンを持つ人々を指す際にも使用されるようになってきました」(※1)

 一方で、「界隈」と似た意味の言葉として「カルチャー」がある。「(日本の)アニメカルチャー」や「原宿カルチャー」などの使用例があり、「界隈」とは異なり長い間用いられてきた表現である。
 ここで、学術的な「文化」と、本稿で用いるカタカナの「カルチャー」の違いについて説明する。社会学や文化人類学における専門的な定義において、「文化」とは、言語、信仰、芸術、制度など、ある社会を構成する人々によって共有され、世代を超えて受け継がれていく生活様式や価値観の総体を指す。これは社会の根幹を成すものであり、非常にマクロで歴史的な意味を含む概念である。
 それに対し、本稿で扱うカタカナの「カルチャー」は、現代的で、特定の趣味・嗜好やライフスタイルを共有する集団の中から生み出される「ポップカルチャー」や「サブカルチャー」のニュアンスを色濃く持つ。「文化」のように広範で重厚な基盤を持たずとも、ある一定のスタイルや熱量が独自の「価値観や表現様式」として確立された状態を指す。
 以上の前提を踏まえ、「界隈」と「カルチャー」の違いは、その特性の差異から考えることができる。「界隈」は人の集まりやコミュニティそのものを意味するのに対し、「カルチャー」は価値観や表現様式を意味する。さらに、「界隈」は流動的であり、短期間で出現と衰退を繰り返していくのに対し、「カルチャー」には持続性があり、前者と比べて長い年月をかけて(例えば界隈が発展する形で)、醸成されていく。また、外部との接続性という観点では、「界隈」が外部からの認知を重要視せず、内向的な性質がある一方で、「カルチャー」は外部から広く認知され、外交的な性質を持つ。

出所:筆者作成


 この4つの違いの組み合わせが、経済性の違いにつながる。経済性の観点から考えると、「界隈」は新たな経済圏(市場)の起点になる可能性を秘めている。しかし、自然発生的な「界隈」のままでは、前述の通り内向的かつ流動的であるため、そこから生まれる経済圏(市場)は規模が小さく、短期的なブームで終わってしまう可能性が高い。一方で、「界隈」が長期的な持続性を獲得し「カルチャー」へと昇華すると、市場規模を抜本的に拡大することが可能となる。
 こうした自然発生的な界隈をいち早く捉え、カルチャーへと昇華させていくインセンティブは主に、新たな市場を開拓し、事業成長を目指す企業(テクノロジースタートアップやエンタメIP事業者、プラットフォーマーなど)に働くと考えられる。企業は、持続性の高いカルチャーを創出することで、強固な収益基盤の獲得や飛躍的な事業成長を達成できる可能性がある。
 また、消費者側にも、カルチャーに昇華することによるインセンティブは存在する。例えば、その持続性の高さから、対象が存続する安心感を得られることや、外向的であることから、社会的承認を得ることによるアイデンティティの肯定につながることなどが考えられる。その他、市場が拡大することによる体験の高度化なども考えられる。
 筆者は、界隈をカルチャーに昇華させた事例として、後述するVTuber界隈/カルチャーを学生時代から観察してきた。その結果、上述のようなインセンティブが働くカルチャーへの昇華は他のテーマでも起こり得るのではないかと考えるに至った。
 次章では、VTuber界隈/カルチャーを例にカルチャーへの醸成プロセスを分析し、そのエッセンスを抽出したい。

2.界隈からカルチャーを醸成するために

(ア)VTuberカルチャーの概要
 界隈からカルチャーを醸成した事例として、本稿ではVTuber界隈/カルチャーを取り上げたい。VTuberカルチャーとは、デジタルキャラクター(2D/3Dのアバター)を用いて配信活動や動画投稿活動を行う「Virtual YouTuber(VTuber)」を中心に発展したカルチャーである。配信者はキャラクターとして振る舞いながら、ゲーム実況、雑談、歌、企画配信などを行い、視聴者はコメントやスーパーチャット、ファンアート、切り抜き動画の制作などを通じて参加する。2016年に「キズナアイ」がYouTubeに投稿した動画を発端とし、当時は「界隈」の一種だった。しかし、2018年頃から、配信プラットフォームの発展やファンコミュニティの拡大とともに急速に発展した。
 現在では個人で活動を行っているVTuber(いわゆる個人勢)から企業所属のVTuberまで多様な活動形態が存在し、イベント、音楽活動、アニメ・ゲームとのコラボレーションなど、インターネット配信を超えた展開も行われている。また、日本国内にとどまらず海外にも広く展開されており、VTuberカルチャーはキャラクター性とリアルタイム配信、ファン参加型のコミュニティが結びついて成立した、現代のデジタル時代を象徴する新しいエンターテインメントと考えられている。
 経済性の観点でも、VTuber関連事業は広がりを見せている。所属するVTuberの活動を支援・管理する組織である「VTuber事務所」の運営を行う企業は、後述のカバー株式会社やANYCOLOR株式会社を代表格に、株式会社Brave groupや株式会社ゲオホールディングスの子会社である株式会社viviONなどが存在する。その他、VTuber関連事業のスタートアップ企業なども含めると多くの企業が存在する。代表的な企業の売上高は、カバー株式会社が約493億円(2026年3月期、前期は434億円)(※2)、ANYCOLOR株式会社が約557億円(2026年4月期、前期は約429億円)(※3)であり、一定の市場規模があるといえる。

(イ)「カルチャー醸成」に大きく貢献した上場2社の事例
 こうしたVTuberカルチャーの醸成に大きく貢献した企業が、上述のカバー株式会社とANYCOLOR株式会社である。両社の創業から現在に至るまでの沿革は下記図表の通りである。
 両社に共通する特徴として、2016 ~2017年の創業時は、いわゆる「VTuber事務所」と呼ばれるIP事業を行うスタートアップ企業ではなく、ITスタートアップ企業だった点がある。その後、それぞれ「hololive」「にじさんじ」といったVTuberプロジェクト/グループを始動し、所属VTuberの増加やリアルイベントの実施など多種多様な活動を通じて規模を拡大させた。この過程で、それまで「界隈」止まりだったVTuberを「カルチャー」へと昇華させたといえる。定量的な指標を用いて、「カルチャー元年」を定義することは難しいが、後述するさまざまな理由から2022年を「VTuberカルチャーの元年」とすることができるのではないだろうか。
 例えば、2022年にはANYCOLOR株式会社が上場を果たした。これはVTuber関連ビジネスが、市場において、持続性や将来性などの観点で一定の信頼および評価を得たことを示していると考えられる。
 また、2022年には、地上波放送局で放映されるテレビCMににじさんじ所属のVTuberが起用され、大手コンビニや食品メーカーとのタイアップが相次ぐなど、社会で広く認知され受容されるようになった年といえる。
 その他、特徴的な事例としては、「『周央さんご』と志摩スペイン村のコラボ」が挙げられる。この事例は「コンテンツツーリズム×VTuver」の先駆的な成功例となり、入場者数の増加等の経済効果を生んだ(※4)。また、その効果はコラボ期間終了後も一定程度継続しており(※5)、カルチャーの特徴である「外向的」「持続的」といった側面を表している。

図表 カバー株式会社の沿革
出所: 各種公開情報ならびに参考図書(本稿末尾に記載)を基に著者作成


図表 ANYCOLOR株式会社(旧いちから株式会社)の沿革
出所: 各種公開情報ならびに参考図書(本稿末尾に記載)を基に著者作成


(ウ)事例からわかる「カルチャー醸成」のためのエッセンス
 では、界隈からカルチャーを醸成するプロセスにおいて重要なエッセンスはどのようなものだろうか。VTuberおよび上記2社の事例をふまえると、界隈からカルチャーを醸成するためのプロセスおよびエッセンスは、以下の図に示すように2つのStepと3つのエッセンスから成ると考えられる。

出所:筆者作成


 カルチャー醸成の第一ステップは、既存の界隈に埋もれている価値観の源泉を正確に捉え、融合・再定義することである。VTuberカルチャーの事例では、定着した価値観の中核は「キャラクターと人格の共存」と「参加型(双方向コミュニケーション型)コミュニティ」である。一方で、これらの価値観の中核はVTuberが登場することで初めて生まれたものではない。VTuberが登場する以前から存在した、2.5次元アイドル、(ニコニコ生放送やYouTubeといったプラットフォームを活用した)生配信、ゲーム実況、「歌い手」、2次元キャラクターの推し活(推し活という概念自体は近年名前が付けられたものではあるが)といった、既存のインターネット・サブカルチャー界隈で行われていたことを掛け合わせ、新しいエンタメとして「再定義」した結果完成したものである。具体的には、VTuberの基本的な活動スタイルである生配信やアーティスト活動は、もともといわゆる「インターネット文化」の一種として存在していた。また、アニメ調のキャラクターを「推す」ことや、人格的な2次元と3次元の融合自体も、2010年代には一種の界隈として存在していた。単一の界隈にとどまらず、近接する界隈を融合したり取り込んだりすることで、一過性のブームに終わらない「新しい価値観の核」が形成されるといえる。
 同じく第一ステップで重要なエッセンスは、界隈を持続可能なカルチャーへと変容させる触媒としての「技術」である。前述のように界隈を融合し新しい価値観の中核が作られたとしても、それだけでは持続可能なカルチャーに昇華することは難しい。VTuberの事例では、例えばANYCOLOR社は、スマートフォン向けアプリとして「Live2Dアバターを用いた低コストかつ統一的な配信モデル」を確立した。これにより、従来の3Dモデル中心の属人的な活動ハードルが劇的に下がり、多種多様なタレントの大量参入と高頻度配信を可能にするようなエコシステムが構築された。一方カバー社は、高度な3Dモーションキャプチャー技術によって大型ライブイベントを開催し、圧倒的な体験価値を安定供給した。近年では、上記2社に限らず、最新技術を用いて新しい体験価値を提供するようなイベントや社会への露出が増えている。このことからわかるように、界隈をカルチャーに昇華させるプロセスにおいて、技術は単なるツールではなく、持続可能なシステムへの変容の触媒になり得る。
 第一ステップで価値観の核が形成され、持続性が獲得された後に必要な第二ステップが、”外部”への展開である。ここで重要なエッセンスが、界隈特有の「内向性」を、カルチャーとしての「外向性」へ転換することである。これはビジネスシーンにおける市場開拓や販路拡大に類似している。例えば、両社は音楽レーベルの設立や大型イベントによって、それまでインターネットカルチャーになじみのない一般層へ認知を広げた。特に、大手コンビニ、プロスポーツ、飲料メーカーといった「マジョリティ(一般社会)」との強力なタイアップは、内向的だった界隈が、社会的に広く認知された「IPビジネス」に変容する過程で重要だったといえる。

3.未来の新規カルチャー
 未来に目を向けると、どのような新規カルチャーが醸成され得るだろうか。前述のように、新しいカルチャーを醸成するためのエッセンスが「界隈の融合および取り込み」や「技術」であるならば、「AR/VR(拡張現実/仮想現実)」「合成バイオ分野」などがホットスポットかもしれない。
 界隈の融合および取り込みの種としては、例えばVRChatなどがある。VRChatはアメリカのVRChat Inc.が運営するソーシャルVRプラットフォームであり、利用者はプラットフォーム上で相互に交流することが可能である。VRChat上では各種イベントの開催や参加を各利用者が自由に行うことができ、コミュニケーションのみならず自己実現の場になっているといった考察がある(※6)。現状では「VRChat界隈」またはそのプラットフォーム上での「○○界隈」程度として存在するものが、「カルチャーの種」として将来的な新規カルチャー醸成につながるかもしれない。
 また、合成バイオの分野では培養肉や3Dフードプリンターなどを用いて「次世代の食」を開発し愛好する界隈も存在する。関連して、インターネット上では「ディストピア飯」などと称して、SF作品などに登場する味や見た目よりも「栄養摂取の効率」を最優先した無機質な食事を作り楽しむ界隈も存在し(※7)、こちらも新規カルチャー醸成につながるかもしれない。
 ビジネスの視点では、界隈から新規カルチャーを醸成し、事業として成功させるために重要なことは、前述のようなエッセンスから考えると、「融合および取り込みの種になる界隈に対してアンテナを張り続ける」、「技術研究・開発への適切な投資」、「新規顧客を取り込めるようなアプローチを検討し実行し続けること」などではないだろうか。

(※1) POPSTUDY 「『◯◯界隈』はなぜ流行語に?社会の変化と共に進化する日本語の面白さ(2025年7月1日) 参照日 2026年6月26日
(※2) カバー株式会社 第10期有価証券報告書
(※3) ANYCOLOR株式会社 2026年4月期決算短信
(※4) BUSINESS INSIDER 「来場者23万人超…志摩スペイン村×周央サンゴさんコラボ、なぜ大成功した?企業担当が知っておくべき「愛」と「リスペクト」のあり方 (https://www.businessinsider.jp/article/268602/) 参照日 2026年6月30日
(※5) Kindai Picks「来場者が急増したその後は?「周央サンゴ×志摩スペイン村」炎上なしで成功したコラボの裏側(https://kindaipicks.com/article/002719) 参照日 2026年6月30日
(※6) 江﨑 笙吾 「メタバースにおけるイベント文化の考察 : VRChatを例として大阪大学 フィロカリア 41巻 (2024), p21-59 , https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/95657/philokalia_41_A021.pdf
(※7) 東洋経済オンライン「映えない『ディストピア飯』地味に人気の続くワケ 人々が食いつく背景には何があるのか(2024年4月19日)(https://toyokeizai.net/articles/-/748703) 参照日 2026年6月30日

参考図書
岡本健 山野弘樹 吉川慧 『VTuber学』岩波書店(2024年8月28日)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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