1.博物館の経営とは何か
近年、博物館を取り巻く制度環境が変化している。2022年の博物館法改正では、博物館法が文化芸術基本法の精神に基づくことが規定された他、デジタルアーカイブの作成が博物館の事業に位置づけられた。そして本年3月31日には、「博物館の設置及び運営上の望ましい基準の全部を改正する告示」が交付、施行された。報道等では、「博物館の設置及び運営上の望ましい基準(以下「望ましい基準」という。)」の第六条「資料の収集、保管等」で「博物館資料の廃棄」について言及されたことが注目を集めた。
しかし、今回の改正における最も本質的な変化は、望ましい基準の第三条に「博物館の経営」が追加されたことであると筆者は考える。博物館の経営とは何か。そして多くの地方都市において、博物館を経営する際に向きあわなければならない課題とは何であろうか。
| 第三条(博物館の経営) 博物館は、その設置の目的及び使命を達成するため、当該博物館における博物館資料の収集、保管(育成及び現地保存を含む。以下同じ。)及び展示(インターネットの利用その他の方法により博物館資料に係る電磁的記録を公開することを含む。以下同じ。)並びに博物館資料に関する調査研究の実施に関する基本的運営方針(以下「基本的運営方針」という。)を踏まえ、適切に資源を配分するとともに、当該博物館の活動の充実及び発展に向けた新たな支援や資金等の確保に努めるものとする。 |
(1)使命と経営目標を明確にする
博物館を経営するには、まず博物館の長期的な目標が必要である。これを本稿では、「博物館の使命」と呼ぶことにする。第三条第一項にある「その設置の目的及び使命」がこれに当たる。ここで重要なのは、その使命が博物館法に定められているような、どの博物館にも共通するものではなく、その博物館特有のものとして言語化されることである。
次に、その使命を達成するために経営目標を立てる。使命の達成に向けた、具体的な定量目標や定性目標(KPI)を立てることが必要である。経営目標は、第三条第一項の「基本的運営方針」にひもづけて検討することができるだろう。今年度(直近)/3年間(短期)/5年間(中期)/10年間(長期)に分けて目標を立て、使命の達成に向けたロードマップを描くことが重要である。
(2)経営資源の配分
経営目標を達成するためには、博物館の経営資源を適切に配分する必要がある。第三条第一項の「適切に資源を配分する」がこれに当たる。経営資源の配分は、既に保有する資源の配分だけを意味しない。必要な資源の獲得、必要性の低い資源の捨象など、経営資源の戦略的な入れ替えにも取り組まなければならない。
博物館の経営資源とは何か。一般に経営資源は、「人・もの・金・情報」である。人については、部門ごとの人員配置、新たに必要とされる専門性への対応、相対的に重要性の低い部門の縮小や廃止などが考えられる。望ましい基準の第十四条、第十五条などは人について触れている。
| 第十四条(職員) 5 博物館は、各業務の分担の在り方、専任の職員の配置の在り方、効果的な複数の業務の兼務の在り方、人材養成の在り方、処遇の在り方等について適宜、適切な見直しを行い、その運営体制の整備と業務の改善に努めるものとする。 6 博物館は、渉外、広報、デジタル化、資金調達、危機管理等の専門性を有する多様な人材及びこれらの人材や関係機関と連携して地域が抱える様々な課題に取り組む人材を実情に応じて確保し、又は活用するよう努めるものとする。 |
ものについては、博物館施設・設備の改修や建て替え、新たに必要とされるスペースの整備、有効活用されていないスペースの機能転用、収集方針の更新、博物館資料の処分に関する方針検討などが挙げられる。第六条、第十六条などは、ものに関する規定といえる。金については、収入増やコスト削減の取り組みも大切だが、「どこにお金を付けるのか」という選択と集中の視点も重要である。つまり、中長期的な視点でどの分野や取り組みに重点的に投資するのか。裏返しとして、どこには資金をあまり投入しないのかを決める必要がある。情報については、デジタルアーカイブの活用が注目されるが、それ以外にも、来館者データの活用による広報やマーケティングの高度化、観光情報との連携による観光振興への貢献などさまざまな可能性がある。
2.博物館を経営する際の課題
(1)最大の課題は設置者の厳しい財政状況である
博物館の多くは地方公共団体が設置者となる公立博物館である。博物館運営にかかる予算は、地方公共団体の一般財団から確保されていることがほとんどである。しかし、厳しい財政状況の中で、博物館をはじめとした文化政策に十分な予算を充てられる地域は少ない。
公立博物館の持続的な経営のためには、時として設備投資や人的投資が必要となるが、そのような経営の自由度を持つことが困難な状況である。望ましい基準の第二条「博物館の設置等」に、設置者の役割として「人・もの・金」の確保が明記されたのは、このような厳しい現実の中で持続可能な博物館を実現するために、設置者の関与が必要不可欠だからであろう。
| 第二条(博物館の設置等) 博物館の設置者は、その設置する博物館の持続的で健全な運営を通して当該博物館の設置の目的及び使命を達成することができるよう、当該博物館の事業の実施、職員の確保及び処遇の改善、施設及び設備等の維持、充実及び活用等に必要な資金等の確保、条例、定款その他の規程の見直しその他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 |
(2)人・もの・情報は広域連携と外部連携で充実を図る
自館のみの経営資源では限界がある中で経営目標を達成しようとする際、鍵となるのは「広域連携」と「外部連携」である。
広域連携には「水平連携」と「垂直連携」がある。水平連携については、歴史や地勢から同一の文化圏を形成する周辺の市町村と連携し、経営資源を共有することが有効である。人や情報の共有が取り組みやすいが、将来的には「もの=博物館施設」の統合も検討する必要があるだろう。垂直連携とは、都道府県との連携である。専門人材の確保、デジタルアーカイブの活用、収蔵品の保管、バックオフィス業務のDXなど、スケールメリットが効く分野については、都道府県からの支援を受けることが望ましい。
外部連携とは、博物館以外の主体との連携である。民間企業、大学、NPO、市民団体などさまざまな連携先が考えられる。第三条第二項に示されている「博物館の利用者の拡大とその満足度の向上」や、同条第四項に示されている「外部資金の獲得」や「効果的な収益事業の推進」において、特に民間企業との連携が有効である。第二条第五項に、指定管理に加えて公共施設等運営権(コンセッション)が追記されたことも注目できる。
(3)博物館経営と地域経営を架橋する
博物館の多くは、地方公共団体の一般財源によって支えられている。博物館経営をどれほど工夫し、外部資金の獲得に取り組もうとも、基本的な予算の増強が実現しないことには博物館の活動には限度がある。
地方公共団体の厳しい財政状況の中で予算を獲得するためには、博物館を都市戦略に位置づける必要がある。博物館の普遍的な価値だけではなく、地域経済の再生や観光振興、コミュニティの強化、移住定住などに寄与することを定量的に示し、地域の社会・経済に必要不可欠な存在であることを説明しなければならない。特に、博物館経営のトップである館長は、博物館の持続性を高めるために戦略的に思考し、首長、教育長、行財政部局、企画系部局等と定期的にコミュニケーションを取ることで、博物館が政策の優先順位の上位に位置づけられるよう努力する必要がある。
そうして、博物館経営が地域経営と切り離せないものとなる時、博物館の社会的な価値が広く認識され、博物館の持続的運営が当然のこととして地域社会に受け入れられことになるだろう。
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本稿は博物館研究6月号(公益財団法人日本博物館協会)に掲載された「博物館経営と地域経営」に筆者自身が加筆したものです。
博物館研究6月号
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

