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また電気代が上がる?「ニッポンの電気」を選んで高騰リスクに備えよ
~再エネを買うことは、家計を守る保険になりうるか~
2026年06月15日 小田代朋也
1.海外情勢と電気料金
日常の買い物において、産地を気にする人は多いのではないだろうか。食材や衣類、電化製品などの購入にあたり、国産か海外産かを判断軸の一つとする人は一定数いるだろう。もちろん、価格が最優先でとにかく安い商品を選択するというのも一つの答えであり、安心感や安定性といった価格以外の「価値」を重視して国産商品を選ぶというのも一つの答えである。
さて、普段何気なく使っている電気については、産地を意識しているだろうか。特に気にせず、電力会社(本稿では便宜上、小売電気事業者=電力会社と表記する)が提供するメニューから選択する人が多いのではないだろうか。
ロシアのウクライナ侵攻を境に電気料金が高騰したことは記憶に新しい。これは、海外から輸入する燃料価格が高騰し、需要家へ請求される電気料金に含まれる「燃料費調整制度(※1)」によって、高騰した燃料価格相当の金額が加算されたためである。(なお、燃料価格が下がるとマイナス調整が行われるため、ロシアのウクライナ侵攻以前は基準よりも請求額が安い電力会社が多数であった)このように、海外から燃料を輸入して電力を生み出す日本においては、海外情勢は他人事ではなく、日々の家計に直結しうるものである。
最近では、ホルムズ海峡の運航制限の影響でガソリン価格が急騰した。燃料費調整制度は、反映に3~5カ月程度要するため現時点での影響はまだ一部分であり、冷房によって電気使用量が増加する夏ごろの電気料金に燃料費高騰の影響が反映される可能性は極めて高い。(なお、政府は今夏の電気・ガス代に対して一般予備費から約5,000億円を供出して補助を行うことを5月26日に閣議決定した(※2))
ここまで述べたとおり、電気料金は海外情勢の影響を多分に受けるため、私たちの日々の暮らしに決して無関係ではない。では、もし海外産の燃料に頼らず、国内で生み出した電力で供給できる場合はどうなるだろうか。出力が不安定で変動リスクのある再生可能エネルギー(再エネ)電力が、海外情勢に起因する価格変動に比べれば予見性が高く、むしろリスクヘッジに活用できる可能性もあるのではないだろうか。
そこで、本稿では、燃料価格に左右されない国内の再エネ電力を100%供給する電気料金メニューについて、通常の電気料金との比較を通じて、そのメリットを検証する。
なお、実際には再エネ発電所の機材等が海外製品である場合も多分にあるが、本稿では国内で発電して国内で消費される電気を国産の電気と定義する。
2.電気料金の推移
(1)標準家庭の電気料金の推移(旧一般電気事業者の公表情報に基づく)
大手電力会社(旧一般電気事業者)は、標準的な家庭をモデルにした電気料金を公表している。そのため、本稿においても家庭向けの電気料金を対象に、電気料金の推移を分析する。
前述のとおり、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、多くの大手電力会社で燃料価格が高騰し、2023年度に規制料金の改定が実施された(※3)。そのような中、中部電力、関西電力および九州電力では料金改定が行われていない。そこで、推移の比較を容易にするため、本稿では関西電力の規制料金を対象として、分析を実施した。
なお、分析にあたっては、燃料価格が電気料金にどのような影響を与えるのかを可視化するために、以下の条件に基づき、日本総合研究所にて算定を行った。
・標準家庭のモデルとして月間260kWhを使用する家庭を想定
・最低料金および従量料金単価は規制料金である関西電力の従量電灯Aを参照
(関西電力の従量電灯Aでは基本料金の設定がなく、15kWhまでは定額の最低価格が設定されている)
・燃料費調整単価は低圧の自由料金メニュー相当を適用し、上限価格を適用しない
(関西電力の従量電灯Aは規制料金のため、実際には平均燃料価格に上限が設定されている)
・燃料費調整単価は、月間の電気使用量の全量で同一単価を適用
(関西電力の従量電灯Aでは最初の15kWhまでは異なる燃料費調整単価が設定されている)
・消費税の改定、託送料金の改定等に伴う最低料金および従量料金単価の変動を含む
・再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)(※4)を含む
電気料金の改定(値下げ)が行われ、現在の基準燃料価格が適用された2018年7月以降における分析の結果は以下の図表1のとおりである。
2018~2019年度はおおむね横ばいで、コロナ禍で燃料価格が下落した2020年度は燃料費調整額がマイナスとなり、電気料金が下がっている。ロシアのウクライナ侵攻の影響が出た2022年度以降は急激に電気料金が値上がりしている。2023年2月以降は、国の電気・ガス価格激変緩和対策事業によって燃料費調整単価に政府補助金が入ったため電気料金が下落し、以降は政府補助金のある月とない月で変動しながら、横ばいで推移している。
なお、今回は関西電力をあくまでも例として掲載しているが、例えば東京電力の公表データ(ただし、2022年9月以降は燃料費調整単価の上限が適用された場合の試算結果)においても推移の傾向としては同様であり、多数の電力会社で同様の傾向と考えられる(※5)。

(2)再エネ賦課金・燃料費調整単価への補助を除く電気料金の推移
(1)では再エネ賦課金や燃料費調整単価への補助など、国の政策による影響も含んだ電気料金の推移となっている。燃料価格の変動の影響を把握するため、国の政策による電気料金の変動要因を除いた推移を整理すると、以下の図表2における黄色線のとおりとなる。
2023年1月までは国の補助がないため、図表1(図表2における青色線)と同様の推移で、再エネ賦課金相当分だけ低い水準で推移する。2023年2月以降は、仮に政府の補助金がなければ請求される電気料金はさらに高騰していたことがわかる。2024年以降は、政府補助金のない電気料金は比較的変動が落ち着き横ばいの推移となっているが、ロシアのウクライナ侵攻前と比べると高値で推移していることがわかる。

3.燃料費調整を行わない再エネ電力調達の期待効果
(1)豊富な電気料金メニュー
さて、近年は脱炭素化の潮流もあり、太陽光発電の自家消費による再エネ調達も増え、家庭向けに初期費用無料で太陽光発電を導入できるサービスもある(※6)。電力会社が提供するメニューも豊富であり、再エネに限定した電力を販売するメニューや、中には燃料費調整を行わないメニューも存在する。
燃料費調整を行わずに固定価格で調達するメニューを選択した場合、毎月固定の単価で電気料金が請求される。前述のとおり、通常の電気料金で実際に請求される金額は、燃料価格の変動を調整した金額となるため、想定よりも燃料価格が下振れすると相対的に割高となるリスクがある反面、燃料価格が高騰した場合にはその影響を回避できるメリットがある。
また、再エネに限定した電力の場合、再エネという価値(非化石価値)に対してコストが発生するため、その分だけ通常の電気料金単価よりも若干高くなるケースが多い。そのため、需要家にとって受け入れにくいケースも多いが、足元の単価の差異だけに着目せず、燃料価格の高騰など長期的なリスクを鑑みた選択が重要になってくるだろう。
(2)燃料費調整の有無による電気料金の違い
では、実態として、すべての電力需要量に対して、燃料費調整を行わない国産再エネ100%の固定価格メニューで電力を調達した場合、燃料費調整が行われる電気料金と比べてどの程度影響があるのだろうか。
そこで、2章で分析した再エネ賦課金・政府補助金を除いた電気料金を比較対象として、固定価格で電力調達した場合の結果を整理する。なお、分析にあたっての条件は以下のとおりである。
・2章で整理した条件は踏襲
・比較対象とするケースでは、燃料費調整を行わない
(燃料価格は2018年7月に算定された基準価格と想定し、燃料費調整額は0円で固定)
・非化石価値を含むため通常の電気料金単価よりも金額が高くなると想定し、電力量料金単価が 1kWh当たり+1円、+3円、+5円となるケースを設定
2018年7月以降の推移を整理すると図表3のとおりとなる。2021年頃までは燃料価格が基準よりも安いため、燃料費調整額がマイナスとなり、固定価格で燃料費調整を行わないケースの電気料金が高くなっている。一方で、2022年以降のように燃料価格が高騰した局面では、固定価格のケースのほうが相対的に低い水準となる。

月別の推移は上記のとおりだが、集計期間を設定して、基準となる再エネ賦課金・政府補助金を除いた電気料金の合計金額と、固定価格のケースにおける合計金額の差異を比率で評価すると図表4のとおりとなる。
まず、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の影響で燃料価格が高騰し、多くの電力会社が値上げに踏み切った2023年6月までの1年間(2022年7月~2023年6月)に着目する。燃料費調整制度によって高騰した燃料価格が電気料金に反映されるケースと比較すると、再エネを固定価格で調達した場合には電気料金が大きく削減できている。+1円/kWh加算されるケースでは23%、+5円/kWh加算されるケースであっても11%削減され、再エネの調達によって燃料価格高騰の影響を回避できていることが確認できる。
集計期間を広げ、2021年4月から2026年3月までの5年度に着目した場合でも、再エネの調達によって燃料価格高騰の影響を回避し、燃料費調整があるケースと比較して、+1円/kWh加算されるケースでは基準よりも11%、+3円/kWh加算されるケースであっても4%の削減効果があることがわかる。
さらに集計期間を電気料金改定後の2018年7月から2026年6月までの8年間に広げると、燃料価格が基準よりも安い時期が含まれるため削減効果は小さくなるものの、固定価格で+1円/kWh加算されるケースでは、燃料費調整があるケースよりも電気料金が6%削減されている。
燃料価格の変動次第で電気料金の削減効果の有無や大きさは変わる点に留意が必要だが、昨今のホルムズ海峡の運航制限をはじめとした国際情勢を踏まえると、今後も燃料価格が高騰するリスクは無視できず、国産の再エネ電力を調達することで電気料金の削減効果が期待できる。

4.国産再エネの調達が持つ保険としての価値
今回の分析が示すように、燃料費調整の影響を受けにくい固定価格型の再エネ調達を組み合わせることで、条件によっては電気料金の削減や変動幅の抑制につながる可能性があることを提言したい。
再エネや蓄電池の普及は地球温暖化対策の文脈で語られることが多いが、近年は再エネ開発による自然環境への影響懸念などから、再エネそのものに否定的な人や、非化石価値の調達に伴う追加コストを負担と感じる人も一定数いる。そのため、さらなる普及に向けては、脱炭素化だけでなく、価格安定化やリスク分散といった多面的な価値を訴求することが重要である。
再エネは天候によって発電出力が変動するものの、その変動は燃料市況や国際情勢に起因する価格変動とは性質が異なる。ロシアによるウクライナ侵攻やホルムズ海峡の運航制限のように、予見しにくい外部要因が家計や暮らしに影響する時代において、価格変動要因の異なる電源を一定程度組み合わせておくことは、リスク分散の観点からも有効と考えられる。
その意味で、固定価格型の再エネ調達は、燃料価格の高騰や市場変動に備える「保険」としての役割を担う可能性がある。足元の電気料金で追加コストが生じる場合でも、長期的な燃料価格や市場価格の将来見通しを踏まえれば、国産再エネをリスクヘッジの手段として選択することは、今後ますます重要な選択肢となるとともに、電力会社にとっても需要家に提供しうる価値の幅を広げる可能性があるだろう。
(※1) 出典:資源エネルギー庁「燃料費調整制度について|資源エネルギー庁」

(※2) 出典:自由民主党「夏の電気・ガス料金を直接支援 約3兆円の補正予算で「リスクを最小化」高市総理が記者団に説明 | お知らせ | ニュース | 自由民主党」

(※3) 出典:資源エネルギー庁「電気料金の改定について(2023年6月実施)|資源エネルギー庁」

(※4) 出典:資源エネルギー庁「制度の概要|FIT・FIP制度|なっとく!再生可能エネルギー」

(※5) 出典:東京電力ホールディングス株式会社「電気料金・制度 平均モデルの電気料金」(https://www.tepco.co.jp/corporateinfo/illustrated/charge/average-past-j.html)
(※6) 出典:環境省「0円ソーラー | 再生可能エネルギー導入方法 | 「再エネ スタート」はじめてみませんか 再エネ活用」

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

