オピニオン
高まるCHROの役割
コーポレートガバナンス・コードおよび人的資本可視化指針の改訂を受けて
2026年05月07日 織田真珠美
1.人的資本経営に関わるコーポレートガバナンス・コード等の改訂ポイント
人的資本経営の実践が進む中、その指針となる二つの重要なガイドラインが2026年に改訂される。本稿では、この改訂によりCHROに期待される役割を整理する。

(出所)公開情報をもとに日本総合研究所作成
まず、二つのガイドラインの改訂のポイントを確認する。2025年度の有識者会議における検討を踏まえて策定された「コーポレートガバナンス・コード(改定案)」では、コーポレートガバナンス・コードの持つ重要性を改めて確認した上で、適用開始から10年が経過したことを受けて見直しが行われた。この中で上場会社には、コーポレートガバナンス・コードに示された原則について、その趣旨・精神に沿い、自社の置かれた状況に応じた実践を行うこと、またその取り組みについて丁寧に説明することへの期待が示された。人的資本経営に関しては、取締役会の役割と責務の重要性が明記された他、CEOの選解任について取締役会が担う責務が原則に記載された。これは取締役会による執行への監督強化の流れを踏まえたものである。
一方、「人的資本可視化指針(改訂版)」では、経営戦略と連動した人材戦略を策定する重要性が明記されるとともに、投資家に対する説明責任の具体例も示された。これは、各社において経営戦略と人事戦略との連動が必ずしも明確でなく、表面的な開示にとどまるとの指摘を受けた見直しである。
2.CHROに求められる役割の整理
今回のコーポレートガバナンス・コード改訂では、人事分野において目新しい変更はない一方で、これまでも言及されてきた重要課題について、より解像度の高い分析と対応、ならびに投資家に対する丁寧な説明を求めることが明確にされた。人的資本可視化指針の改訂版による具体化と合わせて、CHROには、取締役会への情報提供、投資家等への情報提供、さらにCEOの後継者計画や社内の多様性の確保といった施策の立案・推進の充実・強化が求められているといえよう。
人的資本可視化指針の改訂版から読み解けるCHROへの期待

(出所)コーポレートガバナンス・コード改定案ならびに人的資本可視化指針(改訂版)
を踏まえて、日本総合研究所作成
を踏まえて、日本総合研究所作成
取締役会への情報提供
人的資本を含む成長投資について、その監督が取締役会の役割として明確にされた。執行側には、取締役会がその機能を果たせるよう、必要な情報を提供することが期待される。具体的には、経営戦略の実現に必要な人材のあるべき姿を示すとともに、現状分析と課題の特定、さらには課題解決施策の立案までをきちんと説明することが重要だ。また、課題解決に向けた進捗を適切に管理するため、数値目標や目標水準を明確にした上で、対応することも必要である。
加えて、人材分野の社会的責任への対応状況について、取締役会に対し定期的に情報提供をすることも必要だ。サステナビリティの観点や人的資本経営に関する社会的認識は日々変化しており、その影響も拡大しているため、企業の信頼を失墜させるリスクを伴う。自社の状況に関する情報の収集・分析は、CHROが主導して企画し、取締役会へのインプットを進めることが期待されている。CHROには取締役会に対して、人的資本に対する成長投資の判断について、検証可能な情報を提供するとともに、社会情勢の変化を踏まえて、人的資本に関する機会と脅威を予見できる情報の提供が期待される。
投資家等への情報提供
人的資本に関する企業の情報開示は投資家からの期待が高い一方で、実際の開示の事例では、経営戦略と人材戦略・人的資本投資の連動が必ずしも明らかでなく、内容が表面的にとどまるものも多い。これを受けて人的資本可視化指針(改訂版)では、近時の国際的な開示基準等を踏まえた情報開示の検討ステップが示された。今後はこうした検討ステップに沿った開示が増えるものと考えられる。なお、人的資本可視化指針の付録①(「経営戦略と人材戦略の連動及びそれを踏まえた指標の開示事例」)に、開示の好事例が記載されているので、参考にされたい。
CHROには情報開示の検討ステップを意識した人材戦略の検討と、これに基づく情報提供が期待される。


(出所)内閣官房、金融庁、経済産業省「人的資本可視化指針(改訂版)」2026年3月23日より引用
各種施策の立案・推進の充実・強化
コーポレートガバナンス・コード改定案では、CEOの後継者計画や社内の多様性の確保についても触れられている。CHROには、こうしたガイドライン等に記載の重要事項について、課題解決に向けた取り組みを主導すること、その際には、自社の状況を踏まえた課題の設定と施策の立案、目標値の設定と進捗管理を検討することが期待されている。
●CEOの後継者計画
コーポレートガバナンス・コード改定案では、取締役会がCEOの後継者計画の策定・運用に主体的に関与すること、またその育成が計画的に行われていくよう監督すべきことについての記載が、原則に格上げされた。優れた後継者の確保は企業の存続に欠かせないにもかかわらず、これを計画的に実施する企業は必ずしも多くはないという現状を踏まえた変更である。
CEOの後継者候補の選定や育成計画の立案等は、現任CEOが主導する事例が多く、今後もこの傾向は続くと予想される。そのため、取締役会は育成計画の妥当性の確認や進捗管理に携わることが中心になると想定される。CHROには、取締役会に対して判断材料を提供することが期待される。
なお、当面は目星をつけた候補者をいかに育てるかという観点が重要となるが、将来的には環境の変化に応じて最適な候補者を選択し、育成することが期待されるようになる。この観点からは複数の異なるタイプの候補者が継続的に輩出されるよう備えること、すなわち各階層における多様な候補者をプールしておくことが欠かせない。CHROには、経営幹部候補者のプール人材の確保と計画的な育成を進めることが期待される。
●社内の多様性の確保
コーポレートガバナンス・コード改定案では、従来「女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保」と例示されていた原則が、「社内の多様性の確保」へと修正された。これは、原則をよりシンプルに示すという改定案の方向性に沿ったものである。女性・外国人・中途採用者等の例示は削除されたものの、「異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、イノベーションや新しい価値創造の源泉」(コーポレートガバナンス・コード原則2-2 解釈指針より引用)である、との考え方は引き継がれ、中核人材への登用等における多様性の確保が引き続き求められている。CHROには、中長期的な企業発展に資する社内の多様性のあり方を改めて見直し、実効性のある対応を推進することが期待される。この期待は、例えば人材戦略に関する基本方針等について、「連結会社の人材戦略を連結会社の経営方針・経営戦略等に関連付けて、具体的に記載すること」(内閣府「企業内容等の開示に関する内閣府令」第二号様式 記載上の注意(58-2)より引用)とあるように、連結会社別、あるいは、別の条項に示されるようにセグメント別での具体的な検討が求められている。より解像度の高い分析と実践的な対応、そして、投資家に対する丁寧な説明が期待されていることに留意頂きたい。
3.まとめ
これまで見たように、人的資本経営と成長投資の関係に対する投資家等の関心の高まりを受けて、企業には自社の状況を反映した具体的な課題の検討と、取り組みに関する丁寧な説明が求められている。CHROには、企業の成長とイノベーションを主導する立場として、取り組みの高度化にふみ出すことが期待されている。本稿がその検討の一助となれば幸いである。
参考資料
金融庁、株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(改定案)」

令和8年4月10日
内閣官房、金融庁、経済産業省「人的資本可視化指針(改訂版)」
2026年3月23日内閣府「企業内容等の開示に関する内閣府令」
第二号様式 人的資本経営に関する部分は、第二号様式の記載上の注意のうち、「(58-2)人材戦略に関する基本方針等」、「(58-3)従業員の状況」に記載がある。
内閣官房、金融庁、経済産業省「人的資本可視化指針の付録①(「経営戦略と人材戦略の連動及びそれを踏まえた指標の開示事例」)」

以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

