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IOWNを軸にした日本の光電融合戦略

2026年03月27日 森良亮


1.IOWN/APNの概要
 生成AIの爆発的普及を背景に、データセンターでは電力とネットワーク(帯域・遅延)という二つの制約が同時に強まりつつある。世界のデータセンターの電力消費は2030年に向けて約945TWh規模へ倍増すると見込まれており、その主要因はAI需要の拡大とされる(※1)。データセンターを取り巻く問題は単なる需要増にとどまらない。電力系統側では系統混雑や変電設備の余力不足、系統接続の審査・工事に要する時間などが制約となり、データセンターの新設・増設が計画通りに進みにくくなり始めている。国際エネルギー機関(International Energy Agency、以下IEA)は、欧州ではデータセンターの電力系統の接続待ちが国・地域によって2〜10年、主要ハブでは平均7〜10年規模に長期化し得ると指摘している(※2)
 ネットワーク面でも、データセンター事業者やAIサービス提供者にとって、通信性能がAI拡大の制約になりつつある。AIの処理は大量のデータ移動を前提とするため、帯域不足や遅延は性能低下に直結し、待ち時間の増加などを通じて電力の無駄も増やし得る。データセンター向け光インターコネクトの相互接続仕様などを策定する業界団体であるOIF(Optical Internetworking Forum)は、データセンター用途が高帯域・低遅延・低消費電力を同時に求めるようになり、従来のプラガブル光や銅配線中心のアプローチではこれらの要求を満たしにくくなる可能性を示している。
 電力とネットワークという二つの制約を解消する中核技術を持つ企業は、AIインフラの開発・標準化において主導権を握ることができる。こうした状況で、NTTが提唱するIOWN構想は、電力効率100倍・伝送容量125倍・遅延1/200という目標を掲げ(※3)、二つの制約に同時に働きかける試みとして注目されている。IOWNの柱の一つであるAPN(All-Photonics Network)は、可能な限り光のまま伝送・処理することで、電気処理に伴う電力消費と遅延の壁を下げようとする取り組みである(※4)

2.APNの実現技術(CPO)
 APNの考え方をデータセンターに落とし込むと、伝送路だけでなく、装置内の入出力(I/O)で発生する電力消費や損失もボトルネックになる。従来構成では、演算チップと光モジュールが物理的に離れているため、配線や信号補償で電力を使い、遅延や実装上の制約が積み上がりやすい。
 こうした装置内I/Oの課題に対する現実的な解として、光電融合の中核技術として立ち上がりつつあるのがCPO(Co-Packaged Optics)である(※4)。CPOは、スイッチASICなどのチップと光エンジンを同一パッケージ内に一体化する技術であり、これにより、チップと光の距離を短くでき、装置内のI/Oで発生する電力消費を抑えつつ、高密度な実装が可能になる。
 一方でCPOの実現には、高密度配線、I/O設計、熱設計、微細な光結合、検査プロセスまでを横断した統合が必要となる。単なる部品製造ではなく、相互接続・試験方法・信頼性・量産要件といった、装置として成立させるための仕様を固める局面にある。実際にOIFを中心に3.2Tb/s級CPOモジュールの仕様化が進み、研究から社会実装へ移る動きが具体化している(※5)
 さらに、CPOで確立される実装・検査・信頼性の指針は、次世代の光電融合(光I/Oや将来のチップ間光通信)においても支配的な枠組みとなる可能性が高い。したがって、CPOの立ち上がり期に標準化や量産要件へ関与できるか否かは、日本のCPO関連企業が将来世代にわたって競争力を維持できるかどうかの重大な分岐点となる。

3.プレイヤー構造と日本の立ち位置
 一般的な半導体部品や光トランシーバーと異なり、CPOでは光部品がパッケージ内に入り込むため、熱・実装・検査・信頼性といった複数の要素が、製品全体の性能や量産性に影響する。現状ではOIFを中心に標準化が進みつつあるものの、ハイパースケーラーやシステムベンダーなど顧客ごとに重視する要素は異なる。そのため、現時点では部材の性能だけでなく、顧客ごとに異なる複雑な性能要件に合わせて柔軟に製品を安定量産できるかが競争力となっている。
 米国では、世界最大級のデータセンター運用者が集中していることに加え、ハイパースケール向けの主要スイッチASICベンダーも米国企業を中心に形成されている。このため、需要側(運用)と設計側(ASIC)が近い距離で要件をすり合わせやすく、結果として仕様が収束しやすい環境にある。
 一方、日本はレーザー、変調器、パッケージ材料、高精度実装技術、検査装置といった屈指の部材・装置群を持つものの、構造的にはCPOに必要な製品全体の仕様や成立条件を主導的に決める立場には立ちにくく、他者が定めた仕様に沿って部材や装置を供給する立場に回りやすい。従来のプラガブル光モジュールであれば、モジュール単体の性能や供給力が評価されやすく、部材の強みを価値に転換しやすかった。しかしCPOでは、部材単体の優位性よりも、全体設計と製造プロセスの最適化が重視される比重が高まる。
 前述の通り、現時点では顧客の複雑な要件に柔軟に対応できることが競争力となっているが、標準化が進み要件が固定化していくと、仕様通りに作れることが前提となり、差別化余地の小さい領域から価格競争が起きやすい。短期的には受注が確保できても、長期的には仕様を握る側が強い交渉力を持ち、部材側は供給競争に巻き込まれる。その結果、利益率が削られ、次世代への投資余力が細るという負の循環に陥りやすい。だからこそ日本のCPO部材メーカーが目指すべきなのは、他者が定めた仕様に合わせて部材を供給するだけの立場にとどまることではなく、CPO製品の成立条件や試験要件、実装条件、量産条件の議論に関与し、自社の強みが反映される仕様形成に参加する立場を確保することである。

4.実証の場としてのIOWNの活用
 NTTが推進するIOWNは、APNを含む次世代の光通信基盤に向けて、さまざまな企業・研究機関が協力する枠組みが構築されていることから、CPOの仕様形成から関与する足場として活用できる可能性がある。ただし、一般的に、大規模な協業の枠組みでは、ユースケースやロードマップなど上位の合意形成が先行しやすく、部品レベルの仕様(物理インターフェース、試験方法、信頼性基準、量産時の検査フローなど)のすり合わせは後回しになりがちである。IOWNをCPOの仕様形成に生かすには、仕様と検証を扱う枠組みを形成し、標準化提案に直結させる運営設計が重要になる。
 CPOの社会実装はIOWNの外でも進むからこそ、IOWNを閉じた構想にせず、部材・実装・検査まで含む統合検証と運用データの蓄積ができる場として機能させ、得られた知見を仕様へ落とし込み国際標準に接続することが重要になる。

5.IOWN実証×国際標準化と国内連合
 前述の通り、IOWNで培った実証の知見(熱・実装公差・検査・信頼性)を仕様として言語化し、国際標準化の場へ持ち込める形に整える必要がある。その実行主体として、参照実装を作り、量産・検査・信頼性まで含めた作り方の型を示し、その成果を国際標準化へ接続することを目的に活動する枠組みを提案したい。本稿ではこれをCPOリファレンス実装コンソーシアムと呼ぶ。
 本コンソーシアムでは、光源・変調器・光結合などの光部品、パッケージ材料、実装(組立・接合)、検査装置、信頼性評価、量産プロセス(OSAT等)を担う企業を主体とし、活動内容に応じてネットワーク機器、データセンター運用者、研究機関にも参加を呼び掛けるような組織とする。狙いは部材を共同開発することではなく、CPOで勝敗を分ける参照実装と仕様提案力を、前競争領域で共同して作り上げることにある。
 コンソーシアムでは具体的に下記の成果を目指して活動すべきである。

・リファレンスデザイン(参照実装):複数の部材を組み合わせ、熱・実装公差・配線・光結合を含めて成立する構成を提示

・相互接続デモ:複数社の要素を組み合わせても動くことを示し、互換性の議論を前進

・試験・信頼性要件:何をどう測り、どの水準を合格とするか(受入試験・出荷試験・長期信頼性)を整備

・量産・検査プロセス:歩留まりを左右する検査フローや工程管理の考え方を再現性ある形で整理


 本コンソーシアムはこれらの成果物をIOWN上で検証し、実装・運用データとして得られた知見を仕様に落とし込み、OIF等の国際標準化フロントへ持ち込むことで標準化活動に能動的に関与する。その上で、標準化で合意された前提を踏まえて参照実装を更新するといったサイクルを組織的に回すことが、CPOや将来世代(光I/O、チップ間光)の光電融合デバイスの主導権を握るための現実的な打ち手となる。
 結論として、日本が光電融合で主導権を取るには、IOWN上で参照実装と運用実績を積み重ねつつ、国際標準化の場で仕様や試験要件の議論に主体的に関与する二正面の取り組みが求められる。その実行体制として、CPOリファレンス実装コンソーシアムのように、CPOの知見を持つ主体が集合し、仕様提案を行う枠組みを構築することは、有力な選択肢の一つになる。

(※1) IEA「Energy demand from AI
(※2) IEA「Overcoming energy constraints is key to delivering on Europe's data centre goals
(※3) NTT IOWNウェブページ
(※4) NTT「PEC-2を搭載した大容量・低消費電力な光電融合スイッチ
(※5) OIF「OIF Launches the Industry’s First Co-Packaging Standard – the 3.2T Co-Packaged Module Implementation Agreement

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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