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【日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2025年度)】
人的資本編 第4回 人的資本開示の今後の方向性

2026年03月12日 國澤勇人、興梠ねね、方山大地


1.はじめに

 日本総研では、人的資本の開示要請をふまえ、2023年より有価証券報告書における情報開示の状況について調査を行ってきたが、今年度も「日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2025年度)を実施した。第1回から第3回では、以下のとおり、人的資本の指標の開示状況について調査結果を紹介した。

 第1回調査の概要・記載分量
 第2回指標数・指標のカテゴリ
 第3回目標値・実績値の傾向、連結・単体別開示状況
 第4回人的資本開示の今後の方向性<本稿>


 本稿では、人的資本開示をめぐる今後の動きについて、執筆時点(2026年2月末日)で確認できている範囲で紹介する。具体的には、「有価証券報告書『従業員の状況』の記載拡充」と「人的資本可視化指針の改訂」である。

2.有価証券報告書「従業員の状況」の記載拡充

 有価証券報告書の記載方法について定める「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「内閣府令」)が改正され2026年2月20日に施行された(※1)。今回の改正により、2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書について、かねてより設けられていた「従業員の状況」の欄が、以下のとおり変更される。

(1)「従業員の状況」の記載位置を、「第1【企業の概況】」から「第4【提出会社の状況】」に変更
  
 有価証券報告書の「第1【企業の概況】」は、企業としての状況を事実として開示する部分である。一方、「第4【提出会社の状況】」は、経営方針、サステナビリティの対する考え方・取り組み、事業等のリスク等を幅広く開示するものであり、企業としての戦略や考え方を示す内容が多い。今回、「従業員の状況」に関する記載位置が移動したのは、まさに従業員の確保・維持が経営戦略の中心的なテーマの一つであることを示していると考えられる。

(2)記載内容の拡充

 これまで「従業員の状況」欄では、従業員数、平均年齢・平均勤続年数・平均年間給与、女性労働者割合、男性育児休業取得率、男女の賃金差異等についての記載が求められていたところ、今回の内閣府令の改正により、以下の事項の開示が追加で求められる。(なお、これに伴い、これまで「従業員の状況」となっていた項目名は「従業員の状況等」となる。)

①人材戦略に関する方針・・・企業戦略と関連付けた人材戦略、従業員給与の決定方針
②従業員の状況・・・平均年間給与の対前事業年度比、主要な子会社について提出会社と同一内容の開示

 また、従業員向けストックオプション制度や役員・従業員株式報酬制度を導入している場合には、これらの制度の概要を、「従業員の状況等」欄に記載することもできることとなる。
 これらの変更は、人的資本が中長期的な企業価値向上のために不可欠であり、投資者が企業の成長可能性を判断するために重要な情報であることを示している。
 3月末を事業年度とする企業においては、上記の変更について早急に準備を進める必要があるが、実務的には以下の2つの点について検討する必要がある。
 第一に、「第2【事業の状況】」の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の人的資本に関する記載との関係である。従業員を確保・維持するための人材戦略について、「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄において既に記載している企業も多い。今回の改正に伴い、こうした人材戦略を「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄に記載するか、「従業員の状況等」欄に記載するか、検討が求められる。
 第二に、主要な子会社に関するデータの取得である。振り返れば、2023年の内閣府令の改正により、女性労働者割合、男性育児休業取得率、男女の賃金差異等について、連結子会社の情報開示が求められるようになったが、提出会社が、連結子会社の情報を網羅的に収集することが難しい場合が数多くあった。今回、平均年間給与やその対前事業年度比についても連結子会社を含めて開示が必要となれば、人事担当者・IR担当者は情報の取得・整理に一定の労力を要することが予想される。直近の開示に向けて、限られた時間の中でどのように準備を進めていくか、各社での工夫が求められる。

3.人的資本可視化指針の改訂

 人的資本の開示については、内閣官房に設置された非財務情報可視化研究会が、2022年に「人的資本可視化指針」を公表し、日本企業における人的資本開示のガイドラインとしての役割を担ってきた。今般、この指針について見直しが検討されており、2025年12月に見直し内容が示されている(※2)
 具体的には、人的資本経営において、投資家が最も注目している「経営戦略と人材戦略・人的資本投資の連動」に向けて、①国際的な開示基準に沿った情報開示の進め方②具体的な考え方とその実践、の2点についてガイダンスを提供しようとするものである。
 特に、「経営戦略と人材戦略の連動」については、これまでにもその重要性が指摘されていたものの、「どのような状態をもって経営戦略と人材戦略が連動していると判断するのか」「経営戦略と人材戦略が連動していることを示すために、どのような情報を開示すべきなのか」という点には議論が尽くされておらず、各社各様の考え方・開示が展開されているように思われる。もちろん、各社各様の考え方は必要であるものの、改訂版の人的資本可視化指針では、経営戦略と人材戦略の連動の可視化に関する具体的な考え方が示されており、今後の参考になろう。

4.おわりに

 本稿では、有価証券報告書の「従業員の状況」欄に関する記載拡充、人的資本可視化指針の改訂について、執筆時点(2026年2月末日)で公表されている範囲で概要を紹介した。企業経営における人的資本の重要性が高まる中、法令の改正や指針の改訂により、開示の充実化が求められるのは当然の流れと言えよう。しかしながら、こうした政府主導の動きによって、企業の実務が開示対応に追われ、人的資本経営に関する本質的な検討・議論が停滞するようでは意味がない。開示の充実化を契機として、企業における人的資本経営の議論がさらに深まることを期待したい。

(※1)「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果について(2026年2月26日閲覧)
(※2)内閣官房「人的資本可視化指針(改訂版)〜投資家の期待に応えるための人的資本開示〜」(2026年1月)(2026年2月26日閲覧)
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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