オピニオン
SSBJ対応に向けたサステナビリティ情報の第三者保証取得のポイント
2026年03月05日 塩谷萌
近年、世界各国で、企業にサステナビリティ情報の開示を求める制度が整備されている。日本でも2023年から、有価証券報告書等においてサステナビリティ情報の開示が求められている。2026年2月には「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等が公布・施行された。この改正により、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が公表するサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)に沿った開示を行うことを、時価総額が一定以上の東証プライム上場企業に対して2027年3月期以降から段階的に義務付けることが定められた(※1)。2026年1月に金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」が発表した報告書(以下、金融審議会WG報告書)では、この制度の開始に向けて、サステナビリティ情報の第三者保証制度のあり方について検討結果が取りまとめられている(※2)。
サステナビリティ情報の第三者保証取得にあたっては、従来はサステナビリティ情報に限られない汎用的な保証基準(例:ISAE 3000)や温室効果ガス排出量算定の保証基準(例:ISAE 3410、ISO 14064)を利用することが一般的だったが、近年はサステナビリティ情報に特化した保証基準の整備が進んでいる。2024年11月、国際監査・保証基準審議会(IAASB)がサステナビリティ情報全般の保証について定めたISSA 5000(国際サステナビリティ保証基準)を公表した(※3)。さらに2025 年1月には、国際会計士倫理基準審議会(IESBA)が保証業務における倫理や独立性について定めたサステナビリティ保証に関する国際倫理基準(IESSA)を公表している(※4)。これらの基準は今後サステナビリティ情報の第三者保証におけるグローバルスタンダードになるものと考えられる。
このような動向を踏まえ、本稿ではSSBJ基準におけるサステナビリティ情報の第三者保証制度に関する最新の検討状況、企業が今後求められる取り組みのポイントについて解説する。
SSBJ基準における第三者保証制度の検討状況
金融審議会WG報告書(※2)では、SSBJ基準の適用義務化に向けたサステナビリティ情報の第三者保証制度のあり方について、同ワーキング・グループの検討結果が整理されている。まず保証を義務付ける時期については、2025年7月に公表された同ワーキング・グループの中間論点整理(※5)と同様に、「SSBJ 基準の適用開始時期の翌期(株式時価総額3兆円以上の企業は 2028 年3月期、3兆円未満1兆円以上の企業は 2029 年3月期)」からとすることが示された。保証の範囲・水準についても中間論点整理で提言された「第三者保証制度の適用開始時期から2年間は、有価証券報告書等におけるサステナビリティ関連財務開示のうち、Scope1・2、ガバナンス及びリスク管理に対する第三者保証を義務付けることとし、3年目以降については国際動向等を踏まえ、今後検討すること」、「保証水準は限定的保証とし、合理的保証への移行の検討は行わないこと」に従って制度設計することが適当であるとされている。これらの記載を踏まえると、SSBJ基準の適用開始と同時にすべての情報の保証が求められるわけではなく、開示のみ、一部情報の保証、すべての情報の保証と少しずつレベルアップすることが想定されていると分かる。なお、合理的保証は限定的保証よりも高い水準での信頼性を要求する(※6)ため、一般的に保証のためのコストや業務負担も大きい。
また、保証業務実施者については登録制とし、要件を満たせば監査法人・公認会計士以外も登録可能とすることも金融審議会WG報告書(※2)内に記載されている。保証を実施する際に準拠する基準については、同報告書内で「国際基準(ISSA5000、ISQM1、IESSA) と整合性が確保された基準に準拠して実施する」(ISQM1:International Standard on Quality Management 1、国際品質マネジメント基準第1号)と述べられている。保証基準に関しては日本公認会計士協会が2025年10月にサステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」の公開草案を公表しており(※7)、本草案の概要資料(※8)によれば、本草案はISSA 5000と基本的に同内容とする方針で起草されている。
第三者保証取得に向けた取り組みのポイント
これまでSSBJ基準における第三者保証制度について現在予定されている内容を紹介したが、SSBJ基準の適用に備えて実際に第三者保証の取得を目指すと決めた企業は、取り組みをどのように進めれば良いのだろうか。サステナビリティ情報の第三者保証を取得するためには、データ収集・集計プロセスの信頼性を十分高めるとともに、証跡となるデータを適切に準備することが求められる。また、SSBJ基準では期末から3カ月以内の開示が必要となる見込みであり、多くの企業にとっては現在よりも開示時期が早まる上、この期間に保証についても取得しなければならない。データの信頼性向上と業務の効率化・スピードアップを同時に達成するためには事前に十分な準備を行うことが望ましく、具体的には以下のような取り組みが有効と考えられる。
・サステナビリティ情報に関する知識を持った人材の育成・チームの組成
適切にデータを収集・集計して開示情報を作成するためには、まずは関連する業務の担当者が取り扱う情報について十分理解することが求められる。開示情報の作成に関わるのはサステナビリティ推進業務の担当者だけではなく、さまざまな部署の担当者と協力し、データを集めることが必要になる。この際、業務に関わる担当者に向けて事前に研修を行う、知見を取りまとめた資料を共有するなどして理解の促進を図ることで、データの収集・集計過程でのミス防止につながる。各部署の担当者を集めたプロジェクトチームを組成し、お互いに知見を共有しながら協力して業務に取り組む関係を構築することも一案である。
適切にデータを収集・集計して開示情報を作成するためには、まずは関連する業務の担当者が取り扱う情報について十分理解することが求められる。開示情報の作成に関わるのはサステナビリティ推進業務の担当者だけではなく、さまざまな部署の担当者と協力し、データを集めることが必要になる。この際、業務に関わる担当者に向けて事前に研修を行う、知見を取りまとめた資料を共有するなどして理解の促進を図ることで、データの収集・集計過程でのミス防止につながる。各部署の担当者を集めたプロジェクトチームを組成し、お互いに知見を共有しながら協力して業務に取り組む関係を構築することも一案である。
・データ収集・集計プロセスの見直し
3カ月という短い期間の中で情報開示を準備して保証まで取得するためには、データの収集・集計プロセスの業務をできるだけ効率化するとともに、ミスの発生を可能な限り抑えることが望ましい。現在はExcelなどを利用してデータ収集・集計を行っている企業も多いが、サステナビリティ関連データを管理するシステムを導入してこのシステム上でデータを登録する運用に変更することで、入力作業にかかる時間が減り、ミスの発生も防げるようになる。また、作業プロセスを含めた証跡データがシステム上に保存されるため、保証を取得するための審査の過程で審査人からの問い合わせを受けた場合に担当者への確認が省けることがあるなど、効率的な対応が可能になる。
システム導入以外では、単位や計算方法の相違による集計ミスが生じないよう、データ入力時のルールを明確に定めることも重要と考えられる。昨今ではAIを利用した業務効率化が普及しており、業務で用いるシステムの中にAI機能が搭載されていることもあるので、こうした機能を利用することも一案である。ただし、誤った情報を出力する恐れもあるため十分に信頼性に注意した上で使用することが望ましい。
3カ月という短い期間の中で情報開示を準備して保証まで取得するためには、データの収集・集計プロセスの業務をできるだけ効率化するとともに、ミスの発生を可能な限り抑えることが望ましい。現在はExcelなどを利用してデータ収集・集計を行っている企業も多いが、サステナビリティ関連データを管理するシステムを導入してこのシステム上でデータを登録する運用に変更することで、入力作業にかかる時間が減り、ミスの発生も防げるようになる。また、作業プロセスを含めた証跡データがシステム上に保存されるため、保証を取得するための審査の過程で審査人からの問い合わせを受けた場合に担当者への確認が省けることがあるなど、効率的な対応が可能になる。
システム導入以外では、単位や計算方法の相違による集計ミスが生じないよう、データ入力時のルールを明確に定めることも重要と考えられる。昨今ではAIを利用した業務効率化が普及しており、業務で用いるシステムの中にAI機能が搭載されていることもあるので、こうした機能を利用することも一案である。ただし、誤った情報を出力する恐れもあるため十分に信頼性に注意した上で使用することが望ましい。
・保証取得・保証範囲拡大に向けた計画の策定・実行
これまでに挙げた人材育成・チームの組成やシステム導入などの取り組みは数カ月で完了するものではなく、年単位の時間をかけて実施することが一般的である。また、前述の通りSSBJ基準では経過措置として最初の2年間は保証範囲を限定することが見込まれているので、最初は一部の情報のみ保証を取得し、徐々に保証範囲を拡大することが想定されている。そのため保証取得に向けた取り組みを始める際は、いつまでに保証を取得するか、保証範囲を拡大するかを取り決めた数カ年計画を最初に策定し、この計画に沿って取り組みを進めることが望ましい。
業務習熟の観点では、保証が義務付けられる時期よりも前から一部のサステナビリティ情報について保証を取得する、あるいは経過措置期間から義務化対象外のサステナビリティ情報について保証を取得するように計画することも有用と考えられる。実際に審査を依頼して保証業務実施者からの指摘を受けることで、自社の業務プロセスにおける問題点が見つかり、その解決のために必要な取り組みが明らかになる。業務担当者の業務習熟・不明点解消によって次年度以降の審査にかかる時間を短縮することも期待される。なお、利益相反を回避する観点から保証業務実施者はサステナビリティ情報の作成業務等を同時に提供しない可能性がある。取り組みのレベルアップに向けて審査以外の支援を受けようとする場合、依頼先の保証機関や依頼内容によっては別の事業者を探すことが必要になる可能性がある。
これまでに挙げた人材育成・チームの組成やシステム導入などの取り組みは数カ月で完了するものではなく、年単位の時間をかけて実施することが一般的である。また、前述の通りSSBJ基準では経過措置として最初の2年間は保証範囲を限定することが見込まれているので、最初は一部の情報のみ保証を取得し、徐々に保証範囲を拡大することが想定されている。そのため保証取得に向けた取り組みを始める際は、いつまでに保証を取得するか、保証範囲を拡大するかを取り決めた数カ年計画を最初に策定し、この計画に沿って取り組みを進めることが望ましい。
業務習熟の観点では、保証が義務付けられる時期よりも前から一部のサステナビリティ情報について保証を取得する、あるいは経過措置期間から義務化対象外のサステナビリティ情報について保証を取得するように計画することも有用と考えられる。実際に審査を依頼して保証業務実施者からの指摘を受けることで、自社の業務プロセスにおける問題点が見つかり、その解決のために必要な取り組みが明らかになる。業務担当者の業務習熟・不明点解消によって次年度以降の審査にかかる時間を短縮することも期待される。なお、利益相反を回避する観点から保証業務実施者はサステナビリティ情報の作成業務等を同時に提供しない可能性がある。取り組みのレベルアップに向けて審査以外の支援を受けようとする場合、依頼先の保証機関や依頼内容によっては別の事業者を探すことが必要になる可能性がある。
これらの取り組みは単に保証の準備として有効というだけではなく、サステナビリティ推進について社内の理解を得ることや、関連部門の日頃の業務を効率化すること、サステナビリティ全般の取り組みについて中長期的な見通しを立てることなどに寄与する。保証取得を単なる法令対応のための負担として捉えるのでなく、自社の取り組みをレベルアップする契機と捉え、前向きに準備を進められると良い。
(※1)金融庁「「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果について
」(2026年2月24日参照)(※2)金融審議会「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 報告
」(2026年2月24日参照)(※3)IAASB「International Standard on Sustainability Assurance 5000, General Requirements for Sustainability Assurance Engagements
」(2026年2月24日参照)(※4)IESBA「Final Pronouncement: International Ethics Standards for Sustainability Assurance (including International Independence Standards) and Other Revisions to the Code Relating to Sustainability Assurance and Reporting
」(2026年2月24日参照)(※5)金融審議会「金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」中間論点整理の公表について
」2026年2月24日参照)(※6)日本公認会計士協会「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針
」(2026年2月24日参照)によれば、限定的保証業務は「結論を表明する基礎として、業務実施者が保証業務リスクを個々の業務の状況において受入可能な水準に抑えるが、保証業務リスクの水準が合理的保証業務に比べてより高く設定される保証業務」、合理的保証業務は「結論を表明する基礎として、業務実施者が保証業務リスクを個々の業務の状況において受入可能な低い水準に抑えた保証業務」とされている。(※7)日本公認会計士協会「「サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」」(公開草案)の公表について
」(2026年2月24日参照)(※8)日本公認会計士協会「サステナビリティ保証業務実務指針5000 「サステナビリティ情報の保証業務に 関する実務指針」の公開草案の概要
」(2026年2月24日参照)以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

