1. はじめに
2026年3月5日から12日にかけて、第14期全国人民代表大会第4回会議が開催され、「中国国民経済・社会発展第15次5カ年計画綱要」(以下「計画」という)が採択され、公表された(※1)。計画は2026年から2030年までの第15次5カ年計画期間における中国の社会・経済発展の方向性、数値目標および重点施策を示している。これは、今後5年間における中国政府の政策運営の羅針盤である。
計画は18編62章から構成されている。その中で、「高水準の科学技術による自立自強」、「強固な実体経済の基盤構築」、「強大な国内市場の建設」など16項目の主要任務が掲げられている。第14次5カ年計画からの継続事項が多くを占める。さらに、5分野にわたる20の数値目標が設定された。GDP成長目標については拘束力のない指標とされ、合理的な範囲を維持しつつ、年度ごとに目標が設定される仕組みとなっている。また、インキュベーション指標としては、研究開発(R&D)経費投入増加率7%強など3つの指標が定められた。
本稿では、第15次5カ年計画におけるエネルギー分野の重点施策について整理する。
環境・エネルギー分野における数値目標としては、以下の5項目が設定されている。
①単位GDP当たりの二酸化炭素排出量低下率を5年間で17%
②非化石燃料エネルギー消費の総量比率を25%
③地級市以上都市のPM2.5濃度を27μg/m³以下
④地表水質のうちⅢ類以上の割合を85%
⑤森林被覆率を25.8%
加えて、安全保障の大項目においては、「エネルギー総合生産力58億トン標準炭」との数値目標が明示された。
環境・エネルギー分野の重点施策については、計画において「社会経済発展の全面的なグリーン転換の加速」を目標とし、エネルギー、産業、消費部門の脱炭素化を着実に推進する方針が示されている。従来の5カ年計画と比較して顕著な変化点として、「エネルギー強国の建設」が初めて提示された点である。特に、「クリーン低炭素・安全・高効率の新型エネルギー体系の初歩的に完成」が最重要課題として位置づけられている。
具体的な施策は、以下の点が整理できる。
①非化石エネルギーの安全的置き換えを推進、風力・太陽光・水力・原子力の多能並挙、非化石エネルギー導入10年間倍増
②「三北」(西北・東北・華北)地域の風力・太陽光発電基地、西南地域の水力・風力・太陽光一体型基地、沿海部の原子力発電基地、洋上風力発電基地などのクリーンエネルギー基地を建設。分散型エネルギー整備を加速、グリーン水素・アンモニア・エタノールを発展させる
③化石エネルギーのクリーン・高効率利用を強化、石炭火力発電の改造・高度化
④新型電力システムを構築、電力システムの相互補完性と安全性・レジリエンスを向上させる、スマート電力網の建設と配電網整備の強化、新型エネルギー貯蔵システムの構築を推進
⑤重点分野での省エネ・脱炭素化を推進
⑥水素と制御可能核融合の研究開発を推進
⑦CO2排出量総量及びGDP当たりの排出量を管理、気候変動への対応の能力を強化
⑧グリーン電力と計算力との協働を推進、「AI」+「エネルギー」産業の発展を加速
⑨全国統一電力市場建設が初歩的に完成
⑩グリーン発展に関する政策体系の健全化
このような政策転換の背景には、内外両面の要因が存在している。外的要因としては、地政学的リスクの高まりを受け、エネルギー安全保障や自立的なエネルギーシステムの構築の重要性が従来以上に強調されており、再エネを中心とする電力システムの早期自立が強く求められている。内的要因としては、2025年には再エネの発電容量が全電源の55%以上を占め、かつ太陽光発電および風力発電の導入量が初めて化石燃料を上回ったこと(※2)を背景に、再エネの吸収拡大、電力供給の安定性確保、そして低コスト化の実現は喫緊の課題である。
2.第15次5カ年計画におけるエネルギー関連施策のキーワード
計画の内容を踏まえると、2026~2030年は中国のエネルギー産業政策が「量の拡大」から「質の向上と融合」へと本格的に転換する時期となるだろう。新技術の開発・実証やデジタル化・AIを中核としたエネルギーシステムの最適化が政策の主軸として浮上し、その政策転換のキーワードは以下のように整理できる。
(1) CO2排出量を規制する軸足へ
エネルギー消費管理からCO2排出管理へという、政策思想の転換が明確化された。2026年より、従来実施してきたエネルギー消費総量及びエネルギー消費原単位への規制を廃止し、CO2排出総量及びGDPあたりCO2排出への規制を行うことになる。これにより、従来の「省エネ」重視の政策から「脱炭素」重視の政策へと明確な転換が進められる。計画では、「地方政府のカーボンアセスメント、業界のカーボン管理、企業のカーボンマネジメント、プロジェクトのカーボン評価、製品のカーボンフットプリントなどの政策制度を着実に実施する」と定めている。新たな規制制度のもとで、地方政府や企業、商品の評価に至るまでCO₂排出量による管理が徹底され、各界での脱炭素への取り組みが強化される。この制度転換によって、脱炭素の取り組みに対するインセンティブが高まり、排出権取引やグリーン証書をはじめとする市場メカニズムの活用が加速することで、環境価値市場の最大化が期待される。
(2) 個別技術からシステムの融合へ
計画では、「融合」が重要なキーワードとされている。従前の計画が石炭や原油の開発、太陽光や風力、省エネルギー、エネルギー貯蔵といった個別技術の導入を重視していたのに対し、本計画では、これら多様な技術の統合によるシステム化の重要性が一層強調されている。具体的には、「スマート・コネクト新エネ車」、「エネルギー貯蔵」、「グリーン水素」が新興産業あるいは未来技術の重点分野として位置付けられており、これらは自動車やエネルギーといった単一技術にとどまらず、様々な産業との融合を通じて新たな価値創出を目指すものである。
さらに、「風力、太陽光、水力、原子力など多様なエネルギー源の併用」や「電力システムの補完・協調および安全性・レジリエンスの向上」、「グリーン電力と計算力の共同配置」といった方針が明記されており、エネルギー分野における技術横断的な連携と統合の推進が、今後の政策運営の基盤となることが示唆されている。
中国においては、風力、太陽光、水力、火力、原子力、水素、エネルギー貯蔵などの多様なエネルギー源の導入や、砂漠・ゴビ砂漠・荒地における大規模エネルギー基地の開発、遠洋・深海エネルギーの開発、水素・核融合といった先端技術の研究および実用化、さらに産業・交通・建築など広範な分野での脱炭素化の推進など、エネルギー関連分野の事業が着実に進展している。従来はこれらの取り組みが個別に展開されてきたが、第15次5カ年計画期間においては、エネルギー間およびエネルギーと産業間の連携がより一層重視され、立体的かつ統合的な脱炭素エネルギーシステムの構築が促進されることが期待される。
(3) ソフト面重視への転換
ここでは「ソフト面」とは①デジタル技術やAI等のソフトウェア、②政策・制度の両面を指している。従来は電力やガスなどのハードウェア開発を重視してきたが、今回の計画では、人工知能(AI)およびデジタル技術の活用、ならびに制度面の整備に政策の重心が移行することが明示されている。
第1に、AIやデジタル技術などの技術革新が重視されている。計画においては「AI+」行動が提唱されており、「AIと産業発展、文化構築、民生保障、社会ガバナンスの連携を強化し、あらゆる産業分野に対して全面的なデジタル化支援を提供する」と明記されている。AIやビッグデータ等のデジタル技術と再エネの高度な融合により、電力システムの運用効率や再エネ受容能力の向上が期待されている。
第2に、制度面の整備である。計画では「再エネシステムに適応した市場および価格メカニズムの整備を加速する」とされており、脱炭素関連ビジネスの確立には技術開発のみならず、政策や規制、料金体系、市場メカニズム等の制度整備が不可欠とされている。2025年以降、再エネ発電のグリーン電力市場取引、エネルギー貯蔵を促進するための電力料金設計・容量市場の開放、水素FCV商業化推進のための高速道路料金免除など、多様な施策の展開が見込まれる。
3.第15次5カ年計画期間中のエネルギー施策の重点分野
上記のキーワードを踏まえ、現段階でエネルギー分野における重点分野は以下のように想定できる。
(1) 供給側の改革
第15次5カ年期間中には、供給側の改革において、3つのポイントが考えられる。
まず、火力発電の柔軟性改革である。従来、火力発電所はベース電源として安定供給を担ってきたが、再エネの導入拡大に伴い、不安定な再エネ供給を補完する機能が求められている。これを実現するため、火力発電所には柔軟な運転調整能力の付与が不可欠な要素となる。具体的には、頻繁な起動・停止運転を可能とし、ピークカット、周波数調整、負荷変動への対応力を強化することで、電力系統全体の安定的な運用が図られる。
次に、火力発電の高効率・低炭素化の推進である。火力発電の高効率化および低炭素化も重要な改革課題である。技術革新や運転管理の高度化を通じて、燃焼効率・運転効率の向上が推進されている。さらに、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術との組み合わせによる火力発電の低炭素化も、有効な対策として位置付けられている。
最後に、グリッドのレジリエンス向上と新型電力システムの構築である。2026年1月、国家電網が第15次5カ年計画期間中の固定資産投資が4兆人民元にのぼると公表した。これは第14次5カ年計画時と比較し約40%の増加となる。主な投資領域は、新型電力システムの構築であり、具体的には①超高圧・広域送電、②再エネ発電およびエネルギー貯蔵、③配電網およびマイクログリッドの三分野が挙げられる。特に、再エネの分散化に対応するため、配電網およびマイクログリッドへの投資が拡大している点について、中国の専門家からも指摘されている。
(2) エネルギー貯蔵の強化
再エネを中心とするエネルギーシステムの構築には、エネルギー貯蔵が極めて重要な技術の一つである。計画では、新興産業として取り上げ、新型エネルギーを大いに発展させると強調している。
中関村エネルギー貯蔵産業技術連盟の統計によると、2025年末まで、中国の新型エネルギー貯蔵(※3)設備の累計導入容量は144.7GWに達し、第13次5カ年計画末期と比較し45倍増加となった(※4)。国家能源局が2025年9月に共同公表した「新型エネルギー貯蔵規模化建設特別行動方案(2025-2027年)」において、2027年までに全国の新型エネルギー貯蔵設備の導入規模を180GW以上とする目標が掲げられている。さらに、業界の予想では、第15次5カ年計画末の2030年までに300GW超に達するとされている。
ただし、現状の新型エネルギー貯蔵システムではリチウムイオン電池の比率が90%以上を占めており、安全性確保、利用時間数がやや少ない点や、長時間エネルギー貯蔵技術が不足している点が課題となっている。これらの課題に対処するため、グリーン水素を含め、第15次5カ年期間中は技術開発と実証が重点分野となる見込みである。
技術面においては、リチウムイオン電池の大規模応用および技術開発による安全性と効率の向上が着実に進展している。さらに、圧縮空気、フロー電池、ナトリウムイオン電池、フライホイール等の蓄電技術の商業化が期待されている。加えて、全固体電池、熱エネルギー貯蔵、水素による貯蔵などの革新的な技術についても、先駆的な実証応用が推進される見込みである。
用途面に関しては、これまで蓄電技術は再エネ発電の付属設備としての役割や、需要家側におけるピークカット利用が主であった。しかし、今後は再エネの吸収を促進するための重要技術として、AI技術との連携を通じ、ゼロカーボン園区、データセンター、商業複合施設、分散型エネルギーシステム等、多様な分野において導入が拡大すると予想される。
(3) 需要側の柔軟性の向上
再エネの地産地消の促進や電力システムの安全かつ効率性の向上を実現するためには、需要側の役割もこれまで以上に重要である。第15次5カ年計画期間中には、特に2つの重要分野が想定される。
第1に、デマンドレスポンスおよび仮想発電所(VPP: Virtual Power Plant)の活用拡大である。これまで、デマンドレスポンスと仮想発電所事業は主に実証の段階に留まり、ビジネスモデルが確立せず、市場規模の大幅な拡大には至っていなかった。しかしながら、新型エネルギーシステムの構築において、この両分野は再エネの受容拡大や電力調市場における重要な役割を担うことが期待されている。今後、電力調整市場や容量市場など各種電力市場改革の施策の整備により、政府補助金に頼らず、ビジネスベース等による持続可能な事業モデルが構築されることが見込まれる。
第2に、電気自動車(EV)を活用したV2G(Vehicle to Grid)がある。中国政府の計画によれば、2030年には電気自動車の保有台数が1億台に達すると見込まれている。これらの車両を満充電した場合、約6億kWhの電力量が供給可能となる。夜間の充電や日中に未稼働となっている車両の電力をグリッドに逆潮流させることで、電力系統の利用効率向上やピークカットに寄与することが期待される。需要側の柔軟性向上を軸とした施策の展開が、新型エネルギーシステムの安定的かつ効率的な運用に不可欠な要素となる。
(4) 環境価値市場の拡大
中国における環境価値市場およびグリーン金融の整備は、カーボンニュートラル目標の達成に向けた政策的基盤として、制度面・金融面ともに着実に深まっていくだろう。
まず、2021年に開始された全国排出権取引市場は、当初、電力セクターの2,200社を対象としていたが、2025年には新たに鉄鋼、セメント、アルミニウムの3業種が加わり、計4業種3,700社が規制の対象となった。さらに2027年までには、化学工業、石油化学、航空、製紙の4業種が追加される計画である(※5)。計画通りに8業種すべてが市場に組み入れられた場合、全国の温室効果ガス排出量の約85%が管理対象と見込まれる。
次に、2024年1月からは全国自主的排出削減取引市場が開始され、CCER(China Certified Emission Reduce)が取引対象となっている。従来は洋上風力発電や太陽熱発電など4分野のみが対象であったが、2024年1月には「再エネ電解水による水素製造」という新規方法論のパブリックコメントが公表され、対象分野は16分野まで拡大されている。今後、方法論のさらなる増加に伴い、CCER市場の拡大が見込まれる。
さらに、2021年8月にはグリーン電力証書(Green Electricity Certificate, GEC)制度が改正され、中国で唯一認められたグリーン証書となった。2025年4月にはRE100(Renewable Energy 100)が中国のグリーン電力証書を承認し、同年のグリーン証書取引枚数は9.3億枚に達し(※6)、前年比120%増となる見通しである。2026年より実施が予定されるEUの国境炭素税を背景に、海外輸出企業やサプライチェーンのCO2評価、ESG情報開示を重視する企業が積極的に市場に参画する点も注目される。
最後に、2025年10月に中国人民銀行より公表された「グリーン金融支援目録2025年版」では、2021年版から68項目が追加されている。資源循環設備、新型エネルギー貯蔵設備製造、水素製造・貯蔵・運搬・利用などがあげられる。今後、グリーンボンドやグリーン融資分野の活用が一層拡大することが見込まれる。
4.おわりに
エネルギー分野における第15次5カ年計画は現時点で未公表であり、数値目標のブレークダウンや重要プロジェクトの実施細則、ならびに支援策については、国家発展改革委員会および国家能源局が計画策定を進めている段階にある。
上述の通り、第15次5カ年計画が終了する2030年には、クリーン・低炭素・安全・高効率な新型エネルギー体系の初歩的完成が目標とされている。この目標の実現に向けては、これまで普及してきた太陽光発電や電気自動車、エネルギー貯蔵等の技術を組み合わせてシステム化を図るとともに、システム全体の最適化を推進すること、さらに全体最適化を実現するための新たな技術開発や制度設計が、今後の取り組みの重点となる。
(※1) 中国政府網

(※2) 国家能源局

(※3) 新型エネルギーシステムとは、新型エネルギー貯蔵とは、揚水発電以外、リチウムイオン電池、圧縮空気、レッドクスフロー電池などを指す。
(※4) 「2025新型エネルギー貯蔵産業発展現状及び今後の動向」中関村エネルギー貯蔵産業技術連盟公式サイト

(※5) 中国政府網

(※6) 「2025年12月全国再エネグリーン電力証書取引統計」国家能源局

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

