1.はじめに
2020年頃から、政府や各企業において人的資本経営の議論が進められてきた。経済産業省は「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義している(※1)。企業価値向上につながるためには、投資家等の対外的なステークホルダーとのコミュニケーションが不可欠であり、人的資本経営を考える上での一要素として、人的資本に関する情報開示が注目されてきた。2023年には「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「内閣府令」)の改正によって、有価証券報告書での開示が求められるようになり、人的資本経営に対する注目度が一気に高まった。3月末を決算期とする企業においては、2025年3月の決算期をもって3回目の人的資本の情報開示となる。日本総研では、毎年、人的資本の情報開示の状況について調査を実施しており、今回は、全4回にわたり2025年度の調査結果等を紹介する。なお、全4回の概要は以下のとおりである。
| 第1回 | 調査の概要・記載分量<本稿> |
| 第2回 | 指標数・指標のカテゴリ |
| 第3回 | 目標値・実績値の傾向、連結・単体別開示状況 |
| 第4回 | 人的資本開示の今後の方向性 |
2.本調査の概要
本調査の概要は以下のとおりである。
◆調査対象企業
・2025年8月1日時点でのTOPIX100企業100社
◆調査内容
・2024年7月から2025年6月までに公表された有価証券報告書の「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」欄に記載された人的資本に関する事項
上記調査対象企業をTOPIX100企業としているのは、その他の企業と比較して、全体的に各種情報開示が充実している傾向にあり、調査によってより多くの示唆が得られると思われるためである。
なお、調査内容は、有価証券報告書の記載事項に限定している。この点について、単に人的資本の情報開示内容を調査するのであれば、あえて有価証券報告書に限定して調査を行う必要はないとも言える。各社の統合報告書やホームページ等で充実した情報開示を行っている企業も多く、こうした他の媒体を調査することも考え得る。しかし、統合報告書やホームページ等は開示について明確なルールがなく、自由な開示が可能となる。何ら制約のない開示情報について比較・分析を行うよりも、一定のルールの下、同じ時期に開示された情報を調査した方が、より正確な比較や分析ができる。ゆえに有価証券報告書に限定した調査を行っている。
3.調査項目
本調査では、以下の5項目について調査を行っている。
調査1 人的資本に関する記載量
調査2 人的資本に関する指標の数
調査3 人的資本に関する指標カテゴリ
調査4 人的資本に関する目標値・実績値の開示状況
調査5 人的資本に関する指標の連結・単体別開示状況
以降、本稿(第1回)では、調査1の「人的資本に関する記載量」について調査結果を紹介する。
4.人的資本に関する記載量
ここでは、調査対象企業が、調査対象となる有価証券報告書の「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」欄に、どの程度の情報量を記載しているかを調査した。

このグラフは、昨年度調査(2024年度)(※2)と今回の調査(2025年度)の記載分量と該当する会社数を示したものである。なお、記載量は0.5ページ単位の概算で集計している。
今回の調査における平均値は4.12ページであり、中央値は3.50ページである。全体としては、前年対比微増傾向にあることがわかる。

当然のことながら、記載量の多寡のみで、開示内容の優劣を決めるものではない。表現方法次第では、当然記載量は増えるだろう。しかしながら、多くの情報を記載することが求められている有価証券報告書において、人的資本に関する記載にどの程度の分量を割くのかを考える上では、他社の動向は参考になる。
人的資本に関心が高まり、積極的な開示が求められる反面、有価証券報告書に求められる記載事項の多さを鑑みれば、人的資本に関する記載に多くの分量を割くことが難しい場合もある。より積極的な開示を行うのであれば、有価証券報告書のみならず、別の媒体(統合報告書、人的資本に特化した報告書、ホームページ等)を積極的に活用することも考えられる。
第2回では、人的資本に関する指標の数(調査2)、人的資本に関する指標カテゴリ(調査3)の結果について紹介する。
(※1) 経済産業省ホームページ「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
(2026年1月30日閲覧)(※2) 今回の調査は、2025年8月1日時点のTOPIX100企業を対象に集計している。昨年度(2024年度)調査は、2024年8月1日時点のTOPIX100企業を対象としており、両調査の調査対象企業は一致していない。
以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク
連載:日本総研 サステナビリティ・人的資本 情報開示状況調査(2025年度)
・人的資本編 第1回 調査の背景・概要

