オピニオン
水道DX推進における業務の連続性・データ利活用に着目したシステム等活用の重要性
2026年02月06日 桑原 雅裕
1.水道事業体が置かれている状況・国土交通省での上下水道DX推進検討
水道は重要な社会インフラであり、その利用は現代社会において不可欠である。水道の利用が途絶することは、住民生活に深刻な影響を及ぼす。実際、2025年11月には沖縄県で導水管の破損により県内全域に影響する大規模な断水が発生した。このような事例は、水道の安定供給が社会基盤としていかに重要であるかを示している。
水道事業を担う主体(以下水道事業体という)の多くは地方公共団体が経営する地方公営企業(※1)であるが、これらの事業体は人口減少や節水型社会への移行に伴う料金収入の減少により、厳しい経営状況に直面している。
水道関連の地方公営企業(水道(含簡水)、工業用水道、下水道事業)の経営状況を見ると、総務省が公表した「令和6年度地方公営企業等の決算の概要」(※2)では、令和6年度決算において全体の20.8%の団体が赤字事業となっており、令和5年度同数(14.4%)と比較して赤字事業が6.4ポイント増加している。

水道事業体には、上記のような厳しい経営状況にもかかわらず、施設老朽化対策、現場の担い手不足、今後起こりうるさまざまな災害への備えが求められている。
そのような中、国土交通省は持続可能な上下水道実現のために「上下水道DX推進検討会」(令和6年12月~令和7年5月 全4回)を開催し、DX技術の普及促進のためのロードマップおよびKPIを設定し(※3)、DX技術の普及促進のために「上下水道DX技術カタログ」を作成・公表した(※4)。同カタログは上下水道施設のメンテナンス等の業務の効率化を図るためのシステム・サービスについて、技術の適用条件、コスト、導入効果、導入実績等が整理されており、水道事業体が抱える課題の解決につながるシステム等を対象施設・活用目的、要素技術から検索し確認することができ、水道DXに取り組もうとする事業体にとって、導入検討を進めるために非常に有益なものと考えられる。
2.業務の連続性・データ利活用に着目したシステム等導入検討
水道DX技術カタログの公表により、水道DXのシステム検討がしやすくなった。一方で、システム導入自体が目的化し、個々の業務単位での検討にとどまることで、最終的に目指すDX(システム導入を通じた業務・組織改革)に結びつかないことも危惧される。実際に、個別業務単位で検討した結果、業務単位の枠組み内での検討に終始してしまうケースは多くある。総務省が令和7年 12 月に公表した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第 5.0 版】」(※5)においても、「既存の行政手続を前提とするのではなく、業務内容や業務プロセス等を抜本的に見直し、再構築する BPR の取り組みが重要である」と明記されており、既存枠組みを前提とせず業務プロセスを抜本的に見直すことが重要としている。
水道 DXにおいても、個別業務の効率化・高度化にとどまるのではなく、業務横断的な効率化・高度化を目的としたシステム導入という視点が不可欠である。実際の検討にあたっては、「業務の連続性・データ利活用」に着目し、業務全体の俯瞰および、現状と課題の整理と関連付けた解決策を検討することが望ましい。業務の連続性・データ利活用を重視する水道事業体特有の背景として、水道事業体の業務が高度な専門性を有するという特徴がある。水道事業体で利用するシステムは技術的要素も含まれ、一般的な行政システムと比較して、各業務領域に特化した事業者のシステム等が個別に採用されやすい。その結果、個々のシステムが独立してしまい、業務横断的な改善・データ連携の妨げとなる可能性がある(詳細は、下図表)。仮に個別業務に対してシステムが導入されるとしても、業務の連続性・データ利活用の観点をもって検討することが必要である。

3.会津若松市上下水道局の業務の連続性を踏まえた水道DXの取り組み
水道事業における業務の連続性を踏まえたDXの具体例として、会津若松市上下水道局の取り組みが挙げられる。同局では、施設更新計画から発注、施工、維持管理に至る業務プロセスに沿ってシステム等を導入し、業務改革を推進している(※6)。具体的には、施設更新計画をいかに適正に策定するか、計画策定後にどのような発注・施工の仕組みを構築すれば受発注者双方の効率化が図れるか等、効率化・高度化の検討を重ねている。
同局によると、この取り組みは当初から全体最適を意識したものではなく、AIを活用した管路劣化診断の導入を起点として、職員が「次にどうあるべきか」を主体的に検討した。その結果として、業務の連続性を考慮した単一業務の改善にとどまらない水道DXが展開されている。
以上のように、同局の事例は水道事業に特有の高度な専門性を有する個別システムを単なる「個別最適」として導入するのではなく、業務の連続性を踏まえながら業務横断的な改革へと発展させようとする点に特徴がある。同局の取り組みは、業務フロー全体を俯瞰(業務の流れを追う)するという考え方で、これから新たにシステム導入を検討する水道事業体において参考となる。また、既存システムを有する水道事業体にとっても、既存システムを中心に据えつつ、その前後に位置する業務範囲を含めて再評価し、業務の連続性を確保する形で DX を検討するという方法論として有益な事例となる。
4.業務システム間の連携を可能とする水道情報活用システム
水道DXにおけるデータ利活用を推進するためには、システム間のデータ連携を円滑に実現する仕組みが不可欠である。その手段の一つとして「水道情報活用システム」(※7)の利用が考えられる。
水道情報活用システムは、標準化された「データ流通ルール」とセキュリティを担保したクラウド基盤(水道標準プラットフォーム)を特徴とする。経済産業省および厚生労働省により2019年4月に標準仕様が策定され、令和7年4月時点で21府県49団体が導入または導入準備を進めている。(※8)このシステムでは、データ流通ルールが定義されているため、異なる業務システム間のデータ連携が容易になる。水道情報活用システムはあくまでデータ連携の基盤を提供するものであり、具体的なデータ利活用の方法は各水道事業体が検討する必要があるが、一般に異なるシステム間のデータ連携はデータ利活用における大きな障壁であるため、その障壁を取り除くことで検討プロセスの円滑化が期待できる。
さらに、データ流通ルールの標準化は将来的な柔軟性確保の観点からも重要である。具体的には、事業体内のシステム連携に加え、他事業体との連携にも対応可能であり、広域化やシステム共同利用への適応性を高める。また、現行ベンダーへの依存を回避し、今後さまざまなシステム等を選択することが可能となる。(いわゆるベンダーロックインの防止)
5.終わりに
冒頭で述べたとおり、水道事業体が直面する課題は、コスト削減の必要性や担い手不足への対応といった大枠では共通している。しかし、具体的な課題は事業体の規模や業務実施方法によって多様であり、その解決策も事業体ごとに異なる。国土交通省の「上下水道DX推進検討会」の議論を踏まえ、計画策定に向けた業務課題の再整理から着手する場合もあれば、会津若松市上下水道局のように、詳細な計画策定を行わず機動的に対応する方が有効な場合もある。
目先の課題解決は重要であるが、同時に、今後10年、20年先を見据え、持続可能な上下水道事業を実現するために、業務や組織のあり方を検討する必要がある。その際、単なる業務改善にとどまらず、業務を超えた効率化・高度化を目的としたシステム導入の視点を取り入れることが不可欠である。
(※1) 総務省 地方公営企業の概要
(参照年月日2026/2/5)(※2) 総務省 令和6年度地方公営企業等の決裁の概要
(令和7年9月30日)(※3) 国土交通省 上下水道DX推進検討会 最終とりまとめ
(令和7年6月6日)(※4) 国土交通省 上下水道DX技術カタログ
(参照年月日2026/2/5)(※5) 総務省 自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第5.0版】
(令和7年12月17日)(※6) 会津若松市 水道DXの取組み
(参照年月日2026/2/5)(※7) 国土交通省 水道情報活用システム
(参照年月日2026/2/5)(※8) 国土交通省 水道情報活用システム導入予定事業者
(参照年月日2026/2/5)※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

