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【地方中堅企業こそ日本経済成長のキープレイヤー】
地方に根差す中堅企業は民民・官民連携で成長の仕組みを作らなければならない

2026年01月27日 山本大介


 政府が2025年2月に「中堅企業成長ビジョン」を公表しておよそ1年になる。これまで中堅・中小企業として一括りにされてきた中で相対的に規模の大きな企業群に対して「中堅企業」という枠組みを設定することで、より解像度の高い課題分析や対応策を用意するという考え方はわかりやすく、高い注目を集めた。
 関係省庁、調査会社は中堅企業の重要性を概ね以下のように整理している(※1)
 ①一部の都府県を除いた地域における中堅企業の総売上高は大企業を上回る
 ②国内に向けた投資意欲が高く、地域経済を牽引
 ③地域における雇用吸収力、生産性・賃金水準が中小企業より高い

 すなわち地域に根差した中堅企業の持続的成長が地域経済の維持発展につながるということであり、これまで以上に地方創生・地域活性化の文脈においても中堅企業に十分な支援を行うことが政策的方向性として示されている。
 既に政策パッケージの内容を踏まえて多くの支援機関が各地域において中堅企業の課題解決に動いているところであるが、日本総研も従前から中堅企業と多くのプロジェクトを共にし、持続的な成長に向けた取り組みを図ってきたため、中堅企業と大企業との間にあるビジネスモデルや組織の構造的差異の実態に関する理解を有している。その中で特に喫緊の課題として感じている点が次の4点だ。

■地方・地域の中堅企業の四大喫緊課題

喫緊課題1)老朽化した設備・システムの刷新
 中堅企業は少数の中核拠点で事業を行っていることが多い。そのため、製品やサービス供給の継続にあたって拠点間での移管などの融通が利かせにくく、結果的に古い設備・システムを修繕・改修しながら長く使い続けているケースが多くある。製造業であれば工場建屋が建設から30~40年経過し、新製品を効率よく生産するためのレイアウト変更や設備交換がしづらい、在庫や資材置き場の自動化が難しいなどの問題が生じている。流通業でも倉庫や営業拠点の老朽化が課題になっている。改善レベルにとどまらない生産性向上を図るためには、製品・サービスの供給モデルの見直しとあわせて長期スパンの設備投資を行わなければならない。

喫緊課題2)社会関係資本を生かした販売・供給ネットワークの再構築
 地方・地域における取引は、分厚い提案書やハードな交渉に必ずしも依存せず、中長期的な信頼関係に基づいて行われている部分も多い。こうした面は地域外からみると閉鎖的に感じることもあるが、例えば「少し高くても明日持ってきてくれる利便性を重視」「新しい取引先を探す手間・コストを省く」という判断基準で正当化される。狭い地域内では、取引関係における評判も広まりやすい。長く取引を続けるためには互いに誠実な対応が必須であり、そうした顔が見える関係性(=社会関係資本)が輻輳的に蓄積されていることが地域経済の特徴といえる。ただ、各々の地方・地域経済が弱くなっている現状を踏まえると、こうした社会関係資本を地方・地域間でつなぐネットワークハブのような働きをする存在が必要になってきている。事業の中核地域外にもネットワークを持つ中堅企業同士が生産や販売・サービスの機能的な連携を構築することで新たな取引や付加価値の創造が可能になる。

喫緊課題3)持続的な人員体制の構築
 どの業界・地域でも人材不足といわれるようになって久しいが、地方に重要拠点を持つ中堅企業にとって要員配置は事業の持続そのものに関わる重い経営課題だ。いわゆる就職氷河期に採用を絞っていた企業では現在の50~60代が引退していくこの先10年は組織再構築の剣が峰といえる。暗黙知的なノウハウを持つベテラン技能者や信頼できる人脈や情報源を有する営業担当者、社内業務・ルールの運用に精通したスタッフなどすべてが重要人材だ。上に挙げた生産性向上の取り組みとあわせて部署・機能ごとの将来要員計画を早急に策定し、移行に向けた取り組みをすぐに始めなければならない。現状の中堅企業では部門ごとの希望に対し人事部が「努力する」にとどまるケースが多い。生産性向上・要員計画・採用・育成・リテンションを企画業務として運営していく必要がある。人事部もまた変革の対象といえる。

喫緊課題4)中長期的な財務・投資管理の強化
 中堅企業は単年度予算の積み重ねや、部門ごとの数値計画中心の中期経営計画など、スパンの短い経営管理を行っていることが多い。長期ビジョンを掲げていても、パーパスや経営理念的な内容で毎年実績をみて進捗管理するにはそぐわないこともある。これは、長期的な取引先や市場ポジションを確立した製品・サービスの比率が高く、安定したビジネスモデルを有しているためであり、近年までは十分機能していた。ただし上の喫緊課題1)~3)に挙げた状況においては、先を見据えた部門横断的な投資や財務管理が必要になる。金利上昇に伴い、事業あるいは製品・サービス別に投下資本コストを踏まえた経営判断も迫られる局面が増える。財務部門も「経理」「開示資料作成」を超えた動きで経営陣や事業部門を支えなければならない。

■課題対応策としての民民連携と官民連携
 
 前節で地方・地域の中堅企業の課題をみてきたが、上の課題群の解決のためには各社単独で施策を練るだけでなく、本稿冒頭で触れた政策パッケージも活用しながら民間企業同士、あるいは官民で協働することが大いに有効だ。

①M&Aのような「たいそうな話」でなくとも中堅企業同士の協業はできる
 非上場企業が多い中堅企業であってもM&Aは手間も時間もかかる。ただ、機能ベースの連携であればもっと機動的に取り組むことができる。これまで商社を通すことで逆に業界や地域の制約を受けていたようであれば、ユーザー先企業との連携で新製品への設計段階の組み込みなど付加価値創造と安定販売の両立ができる可能性もある。エリアで棲み分けしている企業群が連携し、互いの生産能力を融通するような取り組みもできるかもしれない。共同企業体を作ることで大企業しか入札できなかった官庁案件に参加する道もある。中堅企業同士の連携は意思決定のスピードが速く、本気になれば早期に具体化できるのが強みだ。事業領域が限定されていれば補完関係も作りやすい。

②橋渡しや円滑化、新規投資に対し行政はこれまで以上に「戦略支援」の立場で関わるべき
 自治体や官庁の地方出先機関は民間企業の個別戦略をよく理解し、より積極的に支援することが期待される。例えば、地域での存在感の大きな中堅企業に対しては部局横断で支援策を検討する担当者を置くなどして対話も密にして投資や外部との協業を促していくべきだ。公平性に拘って受け身な自治体には企業も寄り付かない。本気で一緒にやってくれそう、支援してくれそうという自治体(の担当者)があれば企業も社内で投資判断しやすくなる。これは必ずしも「地域内の企業」だけに限らず、地域外の企業に対する事業所誘致や取引拡大の場合も同じで、対話先企業にとっては自社の現状課題や戦略をよく理解して提案してくれる自治体に魅力を感じるのは当然だろう。特に地域内の事業所再編・生産性向上や人材採用などは政策的支援の余地が大きい。必ずしも新たな予算を伴う支援策ばかりでなく、地域内外のマッチング支援や移住支援など、従来からある事業を円滑に活用していくことも十分意義がある。

■地方・地域の中堅企業は民と民・官と民の連携で持続的な成長を目指すべき
 ここまで地方・地域に根差す中堅企業の喫緊課題と解決に向けた民・民あるいは官・民の戦略的な連携について述べた。既に従来の枠組みを超えた企業間連携による新たなビジネスモデル構築に取り組む中堅企業が出てきているし、問題意識の強い自治体担当者はこれまでの方法では十分に達成できなかった戦略的な企業誘致や投資促進に向けた活動を行っている。超低金利下で長く物価・人件費が抑制されてある種時間の流れが止まっていた時代が終わり、企業も自治体も変化の激しい環境で生き残り、持続的な成長を目指すしかない。動くなら今だ。

(※1)参考資料:
・首相官邸「中堅企業・中小企業・小規模事業者の活力向上のための関係省庁連絡会議 第7回中堅企業の成長促進に関するワーキンググループ」資料3 経済産業省提出資料 (2024年3月13日)
・帝国データバンク「中堅企業の実態分析」(2024年7月5日)
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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