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経営アジェンダ2026(後編)

2026年01月08日  


 政治体制の変化に伴う経済安全保障への配慮や、地政学リスクへの配慮、一方でAIを中心とした先端技術への対応─。経営環境は複雑に変化するなかで、日本企業は次の一手を考える必要がある。グローバル競争での勝機を見いだすための、2026 年の経営アジェンダとは何か、コンサルティングを通してビジネスの現場を熟知している経営研究センターの浅川秀之、斉藤岳が語り合った。

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2026年は「効率」から「レジリエンス」へ

山田:さて、ここまで2025年の動きを振り返ってきました。すでに、今後の経営アジェンダになりそうなことにも言及しましたが。2026年に、これから企業が注目すべき兆しや方向性について、お二人の見立てをお聞かせください。

浅川:まず、地域としてはずせないのが、米国、欧州、中国、そして成長著しいグローバルサウスの動向です。個々の国や地域を市場という経済視点で眺めるだけでなく、地政学や経済安全保障の点で見る必要があります。また、AIや半導体といったテクノロジーを国家や企業のインフラとしてどう位置づけるか、という問題もあります。技術や産業を経済安全保障の観点から再設計していくという発想を前提にした事業戦略の転換が、これからの企業にとって避けて通れないテーマになるでしょう。
 特に、自動車や半導体など、多くの産業に共通しているサプライチェーンに関する課題が顕在化するでしょう。これまでは中国の部品に依存し、「安くて品質が良いから」という理由で頼らざるをえない構造がありました。
 多少コストがかかっても、安定性と信頼性を優先したサプライチェーンを選ぶことが求められます。これまでの「早くて安いチェーン」ではなく、経済安全保障を前提としたサプライチェーンの抜本的な見直しは、2026年の経営アジェンダとして多くの産業で最重要テーマになると思います。

山田:おっしゃるとおり、これまで日本企業はコスト効率を軸にグローバル化を進めてきました。しかし、今や中国だけでなく東南アジア諸国でも賃金が上がり、成長率も高まっている。もう少し長いレンジで考えると「安い労働力を求める」構造そのものが成り立たなくなると予想します。
 そうなると、単純にコスト効率の良い国を探すのではなく、ロボット化や自動化、微細加工などの技術革新によって、生産のあり方そのものを変える方向を検討しなければなりません。
 いずれにしても、これからのサプライチェーンはコストではなく、信頼と協調を軸に最適化するとともに、ブロック化・複線化していく時代になるでしょう。グローバルで一本化・集約化されたサプライチェーンは、一度トラブルが起きると全体が停止するリスクを抱えています。
 だからこそ、いくつかの地域ごとに分散・ブロック化しておくことで、変化の激しい時代においても事業を止めないレジリエントな仕組みづくりが、これからの企業にとって極めて重要になると思います。

浅川:まさに今、企業の軸は「効率化」から「レジリエンス」へと移りつつあります。テクノロジーの使い方も同様で、これまではいかに効率を高めるかに焦点があたっていましたが、これからはレジリエントな体質になるために、テクノロジーを使う方向に舵を切っていく必要があります。

斉藤:一方で「成長」という原点が改めて問われているということも重要ではないかと思います。もともとコーポレートガバナンスの議論が始まった背景にも、日本企業の成長力の低下があり、その状況の脱却のため、「攻め」のガバナンスという概念が日本のコーポレートガバナンス・コードに盛り込まれました。そして、現在も「稼ぐ力」としてガバナンスの重要な視点になっています。現在は、トランプ政権の影響や経済安全保障、サプライチェーンの再構築といった要因が重なり、どちらかというと「どう生き残るか」という防衛的な発想に傾いており、それも大切な視点ですが、企業の存在意義はやはり成長にあると考えます。制約条件のなかで守るだけでなく、変化に応じた成長の描き方を改めて考えなくてはいけないと思います。

山田:特にグローバルで活動する大企業は、これまでマスのマーケットで主導権を握ることにより、規模の経済を効かせること、つまり効率化を進めることにより利益を拡大することで成長を描くモデルでした。しかし、その規模の経済を求めるモデルがもう通用しなくなってきています。
 効率化を突き詰めすぎた結果、どの企業も似たような構造になってしまい、独自性を出すための「余白(=遊び)」の部分がなくなっているのです。だからこそ、今後は効率化を追求しすぎずに、一定の「遊び」を残して新しい付加価値をつくり、それをきちんと価格に転嫁していくような発想が必要になると思います。つまり、自分たちで新しい価値をつくり、その価値を市場に認めさせる方向に転換しないと、中長期的には日本企業が疲弊し、競争力が低下していくことになります。
 価格転嫁については、日本企業はあまり得意ではないかもしれませんが、インフレが進み調達価格や人件費の高止まりが続く今後は、価格転嫁を受け入れてもらう知恵が問われると思います。これには、民間の知恵だけではなく、政策の力を使って社会的に受け入れられるようにする方法もあります。消費財の領域でいえば、所得が増えなければ消費が伸びず、消費が伸びなければ価格上昇も困難でしょう。価格転嫁を実現させるサイクルをつくるということに関しては、政策が重要なファクターになります。
 企業の活動と政策がセットで動かなければ、経済全体が回らないという構造です。そう考えると、これからは官民が協働して、付加価値の高いマーケットをつくり、利潤を消費に還元する時代になるのではないでしょうか。特にトップ企業ほど、政府や規制当局とどう向き合うかが問われると思います。

浅川:規制とどう向き合うかという点では、もはや民間主導というよりも、官民一体の取り組みがカギになると考えています。国の制度設計や財政支援を含め、民間企業とともに動く体制を築くことが、今まさに求められている局面だと感じます。
 「官民一体」という言葉自体は以前から使われてきましたが、日本企業が本当に価値あるものを世界にどう届けるかを考えるうえでは、その連携のあり方を根本から再構築する必要があります。
 例えば、半導体分野では、政府が国家戦略として強くコミットし、台湾や中国圏への過度な依存を避けつつ、日本国内での製造基盤の確保を進めています。資金面・制度面の両輪で政策が動き始めており、この動きは今後、他の産業にも広がっていくはずです。
 また、医療・ヘルスケア領域は、高齢化が進む日本において社会的ニーズが極めて高く、技術革新と規制の両輪で進化していくことが不可欠です。規制と民間技術を連動させる仕組みづくりこそ、今後の日本企業にとって重要なテーマになると考えています。
 2026年は高市政権の経済政策が本格的に始動するなかで、これらの動きがどのようになるか、さらに企業が政策を睨みながら、どのように活動していくかを注視したいと思います。

斉藤:日本の規制は2000年頃から、成長を抑え込んできた側面があったと思っています。規制を変えることには痛みが伴いますが、そうした痛みを避けてきたために、結果的に成長のチャンスを逃してきた可能性は否めません。
 しかし、そうは言っていられない状況になっています。これからの時代は、成長を実現するためにこそルールや規制を変えていく必要があります。そして、企業はただ待つだけではなく、企業サイドからも積極的に規制を変えることへ働きかけなければならないと思います。その意味で、個別政策の官民連携にとどまらず、人材が相互に行き来するリボルビングドアも本格化していくことを期待しています。


インテリジェンスを方向づける、企業としての倫理観と価値観

山田:従来の企業戦略でも情報収集は重要でしたが、今後は政策や規制を変えることも肝要であり、そのためには、一層の情報収集活動が必要でしょう。官民一体で規制をどう変えていくかを考えるうえで、企業側にも政府と同レベルのインテリジェンス機能が求められると思います。さらに、インテリジェンス機能は企業に閉じられたものではなく、政府や企業間の連携も必要になってきます。一部の先進的な企業では、すでにそうした動きが始まっている印象もありますが、実際に経営者からインテリジェンスの重要性が語られるケースは増えてきているでしょうか。

浅川:確かに、企業経営者との対話のなかでインテリジェンスという言葉がよく聞かれるようになってきた印象があります。特に最近では、中国や米国の動き、台湾周辺の地政学リスクなど、さまざまな要素がビジネス環境に大きな影響を与えるようになっており、従来のアンテナだけでは情報を取りきれない状況です。
 そのため、われわれのようなシンクタンクなど外部のネットワークだけでなく、官民、さらには企業間の連携を通じて、より広範で精度の高い情報を得ようとする動きが出てきています。政策動向や地政学を踏まえたインテリジェンスを経営に取り込む意識が、少しずつ企業内に浸透し始めているように感じます。

斉藤:企業が大きな外部環境の変化に直面したとき、どんなスタンスを取るのか、その判断を支える前提として、インテリジェンスの重要性が非常に高まっていると感じます。
 単純に情報を保有するのではなく、その企業にとって何が本質的な情報なのかを見極める「企業固有のインテリジェンス機能」の必要性を意識する経営者は、確実に増えてきている印象です。

山田:私が重要だと考えるのは、情報を集めるだけではなく、情報の解釈や、情報に基づいてストーリーを生み出す力を持つことです。ところが現実には、社内の情報担当者が「ここに資料があります」「これが最新のデータです」と整理するだけで、判断や示唆を生み出すところまでは踏み込めていない。つまり、インテリジェンス機能が、単なる「ライブラリ」にとどまってしまっているケースが多いように思います。
 本来のインテリジェンスとは、情報を統合し、経営判断につながる洞察を導くことです。そのためには、個別の情報を持っている専門家というより、情報を生かせるリテラシーを持つ人材を育てていく必要があります。
 具体的には、AIを使いこなして分析できる力はもちろん必要ですが、それだけでなく、AIが示す情報を鵜呑みにせず、自分の足で現場の情報を取りに行ける力を持つ人材です。そうした力を持つ人材の育成が、これからのインテリジェンス機能には欠かせません。
 経営者自身の思考スタイルや意思決定の軸によって、必要とされる人材のポートフォリオも変わってくると思いますが、インテリジェンスにおける人材の重要性とはどのような点にあるでしょうか。

浅川:これまでは、MBAを取得した人材やビジネスの専門家が、現場を経験してから経営層になっていく、という流れが多かったと思います。ただ、今はもうビジネスの知見だけでは十分ではなくて、地政学や地経学を含めたリテラシーを持つ人材が求められる時代になっていると感じています。そのためには地政学や地経学の背景にある歴史的要因の理解や、文化の差異を理解する必要があり、リベラルアーツの要素も必要とされるのではないでしょうか。特に経営層では、そうした視点を持った人が必要であると感じています。
 加えて、AIなどテクノロジーについての理解も欠かせません。理想的なのは、一人の経営者がその両方の素養を兼ね備えていることですが、少なくとも経営チームのなかに、ビジネスの専門家と地政学リテラシーの高い人材、さらにはテクノロジーに造詣の深い人材がバランス良く共存して、互いに議論を交わしながら意思決定をしていく。そうした経営のリーダーシップチームをつくっていくことが、これからはより重要になると思います。

斉藤:当たり前のことかもしれませんが、こうしたインテリジェンスの重要性が高まれば高まるほど、公正な価値観や倫理観がより強く求められてくると思います。世の中にはさまざまな動きや情報があり、それぞれの立場にそれぞれの正解や正義があります。
 そのなかで、自社は何を判断軸にするのか、自社にとってのインテリジェンスとは何なのか、それを見極めるよりどころになるのは、やはり企業としての価値観や倫理観です。インテリジェンスが求められれば求められるほど、人材にはそうした根幹となる部分が問われていくのではないでしょうか。その意味で、リベラルアーツが経営幹部に必要とされつつあることも納得がいきます。

山田:米国やシンガポールの大学では、以前からグローバル人材育成のために地政学プログラムが開設されており、MBAよりも人気が高まっているようです。ただし、これらのプログラムの受講動機は、単に地政学の知識を得るだけでなく、人と人とのネットワークを築き、新たな知見をベースにしたビジネスへの足掛かりを築くことにあると思います。

斉藤:インテリジェンス機能の整備は必要ですが、企業の成長を実現するためには、グループ経営のあり方を見直す時期に来ているのではないかと感じています。グローバル企業が地政学や経済安全保障の視点からサプライチェーンを再構築していく過程において、どのような形でグループ全体を統治・運営していくのがベストであるのかという視点でグループ経営を再定義していく必要があると思います。

山田:その点に関して、今、英国で興味深い動きが出ています。これまで海外企業は、法人格の境界をあまり意識せず、事業単位でグローバル経営を行ってきました。いわば「法人を超えた一体運営」が前提だったわけです。
 ところが最近、米国や英国において「サブシディアリー・ガバナンス(Subsidiary Governance)」という概念が注目されるようになりました。これまで「グローバル全体で1つのガバナンスが効いていれば十分だ」と言われてきましたが、実際にマルチローカルという捉え方をした場合、現地で経営を行うためには、それぞれの国・地域ごとに異なる規制があることを理解し、現地法人それぞれがその地域の制度から逸脱しないよう、どうコントロールするかが問われるようになっています。
 これまで日本企業は、どちらかというと法人単位で経営をしており、その面では米国や英国に先行しているといえます。その観点からは、地域ごとでのM&A、アライアンスの組成するケースでは米国や英国に勝てる局面も出てくるのではないでしょうか。そのためにも、グループ経営をより高度化することが必要と思われます。


変化の時代に求められる経営スタイルとは

浅川:M&A戦略についてですが、自社のミッシングピースをどこから補うか、という観点は非常に重要です。コアとなる技術は日本で持っていたとしても、各地域にはそれぞれ特有の社会課題があります。そうした出口に近い部分では、エリアごとに個別企業を見てM&Aを行うような動きが、今後ますます必要になってくると思います。
 少し話が戻りますが、私が見ているドメインで言うと、R&Dのあり方自体も新しい局面に入っていると感じています。従来のR&Dは「将来大きな市場になる技術をどう育てるか」という発想でしたが、今はそれだけでは不十分です。
 特に日本は資源が限られている国ですから、どんな技術領域に投資し、何をR&Dのテーマに据えるかが、これまで以上に経営の核心的な課題になっています。例えば、現在だと世界的に注目されているのはレアメタルの確保です。バッテリー、水素、アンモニアといった次世代エネルギー分野の多くがレアメタルを必要としていますが、日本にはその資源がほとんどありません。
 R&Dの方向性を決めるには、技術だけを見るのではなく、資源の偏在状況、地政学的な動向や環境政策も踏まえて考えなければなりません。将来的に米中関係がさらに緊張すれば、レアメタルの輸入が難しくなる可能性もある。そうした前提を見据えて、どんな技術に賭けるかを判断する必要があります。
 これまでであれば、CTO(Chief Technology Officer)が技術的な視点のみでR&Dの方向を決めていました。しかし今後は、グリーン分野の知識、環境や資源に関する理解、地政学リテラシーを兼ね備えた人が意思決定に関わる必要があるでしょう。技術・環境・国際関係を横断的に見渡せる人による「新しい意味でのR&Dマネジメント」こそが、企業の競争力を左右すると考えています。

山田:R&Dのあり方の変化と同時に、CTOの役割そのものも変化していくということですよね。そう考えると、これはCTOに限らず、CxO体制そのものが、今後大きく変わっていく可能性があると思います。グローバル競争のなかで本当に機能する形に進化できるのか、このあたりをどう見ていますか。

斉藤:確かに、現状ではCxO体制が実質的に機能している企業は、まだごく一部だと思います。特にCTOのように高度な専門性と経営的判断の両方を求められるポジションになると、形だけ設置している企業は多いものの、十分に役割を果たせている例はまだ少ない印象です。

浅川:もう1つ避けて通れないのがAIとデータの分断の問題です。国やエリアごとにデータを囲い込み、相互接続性が失われつつあるなかで、企業は「どのデジタル空間とどう関係を築くのか」という戦略を持たざるをえなくなっています。ここにサイバーセキュリティの脅威も加わると、リスクはさらに複雑化します。
一度サイバー攻撃を受ければ、ビジネスが停止します。その脅威はゼロにならないので、データ空間の分断とセキュリティリスクへの対応は、どの産業においても共通のアジェンダと言っていいでしょう。

山田:2026年は、以前にも増してさまざまな変化に企業が直面すると思います。その際に、前例踏襲や積み上げ型の文化が根強い日本企業は、どのように動くべきでしょうか。特に、日本企業は方向転換が苦手な傾向があり、歴史が古く、組織が大きくなればなるほど、その傾向は強くなります。もちろん、すべてを一度に変えるのは現実的ではないかもしれませんが、お二人から見て、今の日本企業が特にチューニングすべき領域、あるいは抜本的に変えていくべきポイントがあればお聞きしたいと思います。

斉藤:1つの突破口になるのが他社との積極的な連携になると思います。その連携は大企業同士だけではなく、ベンチャー企業とのオープンイノベーションも含まれます。ベンチャーには、スピード感や柔軟性、新しい発想力があります。特に、テクノロジーや社会課題解決の探索という点では、大企業にないケイパビリティがあります。一方、大企業には社会的信頼や資本力を持って、事業をスケールさせる力がある。この両者がうまく組み合わされば、構造的な変化を起こす力になると思います。

山田:いわゆる同一性が強く同調圧力が高い日本企業だからこそ、違うDNAを積極的に取り込んでいくという話ですよね。ベンチャー企業との連携という意味では、CVCの捉え方を変えるべきかもしれません。本来ベンチャーキャピタルはIPOや売却という出口があるわけですが、日本のCVCは塩漬けになってしまっているケースが多い。CVCの出口を自社の体質を変えることに置くとすれば、存在意義が変わってくるかもしれません。

浅川:日本企業はまだまだ同調圧力が強く、動きが固定化された結果、スピード感に欠ける体質がまだ多く残っていると思います。そうした体質の変化を促すきっかけにもなるのが、毎年自社の「経営アジェンダ」を設定することだと思います。また、「経営アジェンダ」を議論する過程において重要なポイントは、その前提を固定化しないことです。環境が変化したときに、「前提をこう変える」「構造をこう動かす」といった形で柔軟に対応できることが経営のスピード感を上げることにつながります。
 しかし、そうした柔軟な動きを実践できる大企業は、まだそれほど多くはありません。前提を柔軟に変化させてアジャイルに経営判断していくには、インテリジェンスの感度が不可欠です。さらに、それらを支えるガバナンス、経営体制、マネジメントの仕組みが十分に整備されていないことが、今の日本企業の弱点ではないかと感じています。


「日本人らしさ」は武器であり、社会課題解決と経営変革を両輪で動かす起点になる

山田:そろそろまとめに入りたいと思います、2026年も引き続き、さまざまな変化が起こる年になると思います。日本の企業トップにとっては、まさに「踏ん張りどころ」の時期に差しかかっているのではないでしょうか。
 ここまでの議論では、主に日本企業の課題を中心にお話しいただきましたが、課題ばかりを並べると悲観的になってしまうかもしれません。しかし、私は日本企業だからこそ実現できる強みや展望があると確信しています。
 例えば、メーカーを中心にした話ですが、かつては膨大な基礎研究の層の厚さがあり、そこから新しい技術をいくらでも生み出せるという時代でした。
 現在は、その厚みは以前と比較すると薄くなってしまったのかもしれません。しかし、それに代わるような日本企業の強み、あるいは「日本企業であること」の意味を見いだしておかなければなりません。でなければ、日本企業であることの意味すら失われ、極端な場合には、有力な日本企業が海外に本社を移すようなことにもなりかねないと思います。日本の企業の強みになりうるものは何か。この点を、改めて整理したいと思います。

斉藤:時価総額の上位に海外企業が並ぶなかで、日本企業の再成長に資する強みとは個別の製品やサービスの話ではなく、他国と比較して「100年企業」と言われるような長寿企業が多く存在する経営システムにおいて「日本人らしさ」を見いだすことではないでしょうか。つまり、価値観や倫理観、地域社会との連携という姿勢の中に、長期的視点で成長を見いだす独自の視点を確立することが重要だと思います。
 価値観の対立がより顕在化している世界情勢において、日本的な価値観や倫理観に根ざした「ものの考え方」が、グローバル社会のなかで際立つ可能性があります。ただし、これは決して「日本人だけの閉じた世界」という意味ではなく、「日本人らしさ」とは何かを改めて見つめ直すことが、これからの日本企業の強みの源泉になるのではないかと考えています。

山田:確かに、日本企業が暗黙知でこれだけの経営ができるというのは、見方を変えると強みかもしれません。パーパスを掲げなくても、しっかりと経営できている企業がほとんどですし、多くの長寿企業にそのヒントは隠されている可能性があります。

斉藤:ただ、AIの世界と暗黙知的な世界は親和性があまり高くないかもしれません。AIはあくまでデジタルを前提とした形式知の世界です。AIのなかでも暗黙知的な学習は進む部分もありますが、日本企業の明確に定義されていない活動や職務をAIが感知・認知・認識できるかというと難しいかもしれません。暗黙知で動けるところが日本企業の良さである一方、AIを導入したときにそれをどう扱うのかという課題もあります。

浅川:テクノロジー系の企業に関していえば、まさにAIでは代替できない領域がいくつかあります。それは基礎研究や、本当のコア、原理に近い部分の研究です。こうした領域はAIには絶対にできない。
 長く在籍している研究員が、暗黙知のなかでコア技術やコア研究を積み重ねている。そうした技術は、半導体のコアやソフトウェアのOSなど、インフラに近い分野で生かされています。
 日本の研究者は、新しいものを生み出すことに非常に長けている一方で、なかなか世の中に出てこない。そこには、CTOだけでは判断できないプラスアルファの要素が必要なのだと思います。とはいえ、そうした研究開発力そのものは、今も日本の揺るぎない強みだと感じています。

山田:すべてをAIに置き換える必要はありませんし、AIに置き換えられない部分こそ、日本企業の強みとして残していくべきでしょう。自分たちの技術をどうやって世界標準にしていくか、そのプロセス自体をAIで壁打ちする試みが有効かもしれません。
 日本企業の強みに関して、もう1つ挙げるとすれば、人材がある程度長く同じ会社に在籍する点です。大企業の懐が深いので、ジョブホッピングをしなくても、同じ会社のなかで場所を変えながら活躍できる。これは他国ではなかなか見られません。
 現在、日本ではジョブ型雇用の必要性が一辺倒に語られていますが、実はメンバーシップ型の方が強さを発揮するケースもあります。これだけ変化の大きい時代だからこそ、役割を変えながら柔軟に対応できるメンバーシップ型が有用かもしれません。このように、捨てようとしているもののなかに、日本企業の強さが残っているのではないかと感じます。
 最後になりますが、2026年にフォーカスしたい分野についてお尋ねしたいと思います。お二人は、それぞれ大きなユニットと呼ばれるコンサルティング部隊を束ねながら、経営研究センターの活動もリードする存在です。今後どのような分野やテーマに重点を置いていこうとしているのかをお聞かせください。

浅川:私のユニットは主に、民間企業に対する戦略のデリバリーを担っていますが、「儲ける手法」に加えて、社会課題の解決や、将来のリスクをどう乗り越えるかという視点が不可欠です。
 例えば、脱炭素やグリーンエネルギーといったテーマも、社会課題として重要であると同時に、経済性をどう両立させるかが問われているので、その両立を多軸で捉え、戦略として提供していくことが、これから私たちに課せられた役割だと考えています。

斉藤:今日の議論を通じて改めて感じたのが、コーポレート・トランスフォーメーション(CX)の推進です。経営研究センター、そして私のユニットが連携しながら、このCXを中核テーマとして進めていきたいと考えています。
 日本企業がこれからも変化の波を乗り越え、自らの価値を再定義していくために、「経営の変革」と「人と組織の進化」を両輪として支援していきたいと思います。

以上




山田 英司(やまだ・えいじ)
民間企業勤務を経て、2001 年日本総合研究所に入社。17 年より理事。25 年より経営研究センター長。官民双方の戦略・組織・経営管理・人事分野のコンサルティングに従事する傍ら、政府や自治体の外部委員、大学教員、民間企業の社外取締役も務める。

浅川 秀之 (あさかわ・ひでゆき)
大阪大学大学院基礎工学研究科物理系(物性理論)修了後、日本電気株式会社 光通信分野にて製品開発に従事。日本総合研究所へ転身、通信メディア・ハイテク戦略グループ長として情報通信分野での経営および事業戦略策定をリード、現在はストラテジー&インダストリーユニット長。総務省 情報通信審議会、情報通信行政・郵政行政審議会 総会委員など兼務。

斉藤 岳 (さいとう・がく)
東京大学大学院理学系研究科修了後、日本総合研究所に入社。組織・機能・業務改革コンサルティングを軸に中計策定、BDD、BPR、要員最適化、本社改革、持株会社化、シェアードサービス、グループ経営管理などに従事。2024 年よりストラテジー&オペレーションユニット長として、民間企業向けの経営コンサルティングをリード。2025 年4 月より神奈川県立病院機構理事(兼務)。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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