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「語る」と「聞く」をデザインする
Ichigaya Innovation Days 2025〜参加型の未来〜の試み

2025年12月25日 TAN LINXUAN


 筆者は、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所(以下RCSC)と株式会社日本総合研究所(以下「日本総研」)が共同研究・実践の成果を発表する祭典「Ichigaya Innovation Days 2025 ~参加型の未来~」(2025年11月28日・29日、武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス開催)において、ビジュアルデザインおよび6階展示のビジュアル・コンテンツ設計を主に担当した。本稿では、作品の説明と本イベントに対する考察を述べる。
 これまで、シンクタンク・コンサルティングの仕事は、社会課題に対して抽象度の高い段階から取り組むことが多く、関わる人は社内や案件パートナーに限られることが多かった。しかし、課題を実際に解決したり、新しい課題を見つけたりするには、もっと幅広い視点が必要になる。閉じた環境で進めるだけでは、視野が狭くなり、発想も固定化しやすいため、開かれた場づくりが欠かせない。
 そこで「Ichigaya Innovation Days 2025 ~参加型の未来~」では、クリエイティブな雰囲気を持つ美術大学のキャンパスを舞台に、来場者がただ「見る」だけでなく、積極的にフィードバックできる仕組みを取り入れた。「語る」だけでなく「聞く」ことを重視し、双方向のコミュニケーションを生み出す場を目指した。

キービジュアルについて

 本イベントのテーマである「参加型の未来」は、日本総研がこれから直面する日本社会に対して描くビジョンでもある。
 キービジュアルでは、円(ドット)をモチーフとし、個々の存在が集まり、関係を結び、次第に多様で大きな社会へとつながっていく様子を表現した。これは、個人の声や行動が集積することで、社会の未来が形づくられていくという思想を視覚化したものである。


図表1 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスの入口に設置されているデジタルサイネージ
 

図表2 2階(左)と6階(右)の展示風景


図表3 「Ichigaya Innovation Days 2025 ~参加型の未来~」ポスター、チラシのデザイン

6階展示・パネルデザインについて
 6階の展示では、日本総研の創発戦略センター(以下「創発戦略センター」)が現在進めている16のプログラムを紹介するパネルを制作し、書籍・報告書・模型などの成果物とともに展示した。展示は以下の4つのテーマに分類して構成している。
 •テーマ① 自分の心の声と向き合う世界
 •テーマ② 聞こえづらい声もすくい上げる世界
 •テーマ③ 自然の声を想像し、社会に反映する世界
 •テーマ④ 挑戦と意思決定の裏側
 これらを通じて、創発戦略センターがこれまで取り組んできた活動の全体像を紹介している。また、年表を制作し、展示する専用の部屋を設けた。さらに、ワークショップやトーク企画を通じて、日本総研の活動をより多くの来場者に伝える構成とした。


図表4 6階の案内マップ


図表5 各プログラムのパネル

 各プログラムパネルを展示する部屋では、単なるプログラム説明にとどまらず、2025年10月6日に当社の八幡晃久が企画した、プログラム横断型ワークショップの成果を展示した。このワークショップでは、「難しさ」「アプローチ・社会への問い」「未来感」という観点から、研究員同士が目指す社会像や、その実現までに立ちはだかる課題、そしてそれを乗り越えるための方法について議論を行った。展示では、その対話の内容を可視化した作品として表現した。


図表6 各テーマのパネル

 さらに、来場者にも参加してもらう仕掛けとして、来場者自身が考える「難関を越えるためのアプローチ」や意見・感想を円形の付箋に記入し、テーマパネルに貼り付けてもらう形式を採用した。これにより、研究員が語るビジョンに、来場者の視点が重なり合い、展示内容が会期中に更新・進化していく構造をつくり出した。


図表7 テーマパネルに貼り付けている付箋

 年表部屋は、展示全体の導入部および出口動線上に配置した。来場者は、最初は全体像を十分に把握できなくとも、各テーマ展示を巡り、研究員の説明を受けることで当社の活動への理解を深め、その後あらためて年表展示を見ることで、活動の流れや位置づけを整理できる構成となっている。
 年表は、創発戦略センターが関わってきたプロジェクトを「過去・現在・未来」の時間軸で表現したものである。


図表8 年表

 「過去」では、各プロジェクトが立ち上がった背景や、研究員の初期のモチベーションを言葉として示し、これまでに出版された書籍、発表された論文・報告書、設立された研究会やコンソーシアムなどの活動を整理し、可視化した。さらに、プロジェクト進行時の盛り上がりや困難について研究員へのヒアリングを行い、取り組みが決して順調一辺倒ではなく、多くの試行錯誤と協働の積み重ねによって築かれてきたことを、起伏のあるグラフ表現として示している。


図表9 年表の細部

 「現在」では、各プログラムの現時点での内容を紹介している。
 「未来」では、来場者が自由に描き、書き込めるスペースを設け、キービジュアルで用いた「個人」を象徴する円形付箋に、それぞれが思い描く未来を記入してもらった。これにより、「参加型の未来」を来場者とともに完成させる展示とした。


図表10 開催前後の年表の変化

考察
 今回の展示は、「語る」と「聞く」を両立させる新しい試みであり、研究員と来場者の双方にとって新しい気づきをもたらした。研究員にとっては、普段接することのない多様な立場や背景を持つ来場者に説明し、コメントを受けることで、自分が関わるプログラムや組織全体をより深く理解し、解釈する力が求められる場となった。一方、来場者にとっては、短時間で異なる領域や未知の知識に触れ、フィードバックを求められることが負担になる場面もあった。今回の展示では情報量が多く、じっくりと内容を消化する時間や空間が十分に確保できなかったため、より自然にフィードバックを促すためには、事前の工夫が必要だと感じた。
 この経験から、「語る」と「聞く」をデザインすることは、単なる情報発信を超えて、相互理解や共創を生み出すための大切な要素であると考える。今後は、来場者が気軽に意見を残し、自分の思いを共有できる仕組みを強化し、研究員と来場者の双方にとって負担を減らしながら、対話の質を高めるデザインを追求していきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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