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CDR(Child Death Review:予防のためのこどもの死亡検証)の現状と課題

2025年12月22日 小幡京加


CDR(Child Death Review:予防のためのこどもの死亡検証)とは
 CDR(Child Death Review:予防のためのこどもの死亡検証、以下CDR)とは、医療機関や行政をはじめとする複数の機関・専門家が連携して、亡くなった子どもの事例を検証し、予防策を提言する取り組みです。その目的は、予防策を導き出すことで、未来の防ぎうる子どもの死亡を少しでも減らすことにあります。子どもたちにとって安全で安心な社会を実現するために、令和2年度より複数の自治体でモデル事業としてCDRの取り組みを実施しています(※1)
 CDRは情報収集、検証、予防策の提言の3つのステップで進められ、子どもの死亡を減らすための予防策を検討することを目的として行われます。特定の個人・関係機関の責任を問うものではなく、将来の予防に向けて前向きな議論を実施するものです。


出所:こども家庭庁CDRウェブサイト こども家庭庁 CDR


 具体的には、子どもが死亡したあとに、多職種の機関や専門家(医療、警察、行政、福祉関係者等)が①子どもの死に至る直接・間接的な情報を収集し②予防可能な要因について検証し③効果的な予防対策を提言することで、将来の子どもの死亡を減らすことを目的に行います。

 これらをスムーズに行うために、情報収集を担う「事務局」、検証を行う「多機関ワーキンググループ」、提言をまとめる「推進会議」の体制を整備する必要があります。こども家庭庁ホームページでは、CDR実施のイメージとして以下の図が示されています。


出所:こども家庭庁CDRウェブサイト「CDR実施のイメージ


CDRの対象者
 CDRは、全ての子どもの死亡を対象とします。つまり、病気、病気以外の死亡、死因が明らかでない死亡を含みます。また、既存の検証制度とは異なり、特定の死因を対象とするのではなく、全死亡事例を対象とし、既存の制度から漏れているような症例も対象に含め、継続的に地域で検証していきます。
 子どもの死亡の中には、睡眠中の窒息や浴室での溺水など、不慮の事故が原因となってしまうケースがあります。実際に、子どもの死因において、「不慮の事故」による死亡は、病気を含む全ての死因の中でも上位にあります。子どもの死因の傾向は年齢によっても異なります。平成30年~令和4年における死者数(年齢別)の状況(※2)を見ると、「不慮の事故」による死亡事故は、15歳未満のうち、0歳が最も多く、0~4歳で55.7%を占めています。また、交通事故を除く「不慮の事故」の発生場所は家庭内が大半を占めています。
 CDRにより、このような死亡事例の死因と事故内容や状況から、予防可能な要因について検証し、例えば、睡眠時の事故対策、窒息の対策等、効果的な予防対策を提言することができます。

国や都道府県のCDR支援状況
 CDRは、米国・英国等の諸外国でも類似の取り組みが導入されており、日本においても研究事業として、2016年以降から検討が進められてきました。CDR体制整備モデル事業は2020年度から開始され、モデル事業の手引きも発行されています(※3)
 そして、令和4年度には、北海道、福島県、群馬県、山梨県、三重県、滋賀県、京都府、香川県の8自治体でモデル事業が実施されました。
 山梨県では、令和2年度から厚生労働省のモデル事業に参加し、「山梨県予防のための子どもの死亡検証体制整備事業(CDR)」を開始しています。
 東京都では、令和5年度から国のモデル事業に基づき取り組みを開始しています。東京都では、情報収集・検証に関しては、①都内の子どもの死亡に関する全体の傾向の分析、②個別事例の収集の2つの視点で情報収集・検証を実施しています。①に関しては、厚生労働省や保健所等から人口動態調査等のデータを収集し、②に関しては、都内のこども救命センターである4病院のうち、遺族同意が取得できた死亡事例を収集しています。令和5・6年度は都内在住・都内死亡事例のうち5歳未満の予防可能性の検証を行う対象になりうる事例(不慮の事故などの外因死、死因の特定が困難な不詳死等)を対象にしています。

今後求められる取り組み
 CDRの課題として、遺族同意の取得しづらさ、CDRの認知度の不十分さ、関係機関の連携強化等が挙げられます。
 個人情報の取得・提供や子どもの検死・解剖には遺族の承諾が必要となりますが、虐待の場合等は遺族が同意をしないケースが考えられ、遺族の承諾がなくても対応可能とする法整備が求められます。
 遺族の心情に寄り添いながらもCDRを推進するには、CDRの認知度向上、CDRの意義の周知も重要です。啓発は市民向けだけでなく、行政や関係機関向けにも必要です。CDRは医療、警察、行政、福祉関係者等多職種が連携して検証が進められます。行政の中でも、死亡の状況により子どもや福祉関連の部局以外も多くの部局との連携が求められます。
 国のモデル事業でも、CDRにより防げた可能性のある死亡であったことがわかり、その検証結果から睡眠時の事故対策、交通事故対策、水難事故対策等の予防策が提示されました。事故等を未然に防ぐとともに、発生後も死亡に至ることを防ぐ対応ができるよう環境整備を進めるためには、予防策の提示にとどまらず、子どもの死亡を防ぐための条例等の整備を目指すことも求められます。

(※1)こども家庭庁CDRウェブサイト こども家庭庁 CDR(参照日2025年12月15日)
(※2)こども家庭庁成育局安全対策課「こどもの不慮の事故の発生傾向と対策等」(令和6年3月26日こどもの事故防止に関する関係府省庁連絡会議)【資料1】こどもの不慮の事故の発生傾向と対策等(こども家庭庁)(参照日2025年12月15日)
(※3)厚生労働省子ども家庭局母子保健課「Child Death Review(CDR)国の取組」資料1 国の取組(参照日2025年12月15日)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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