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官民連携による農業の問題解決手段としての営農型太陽光発電の普及促進のあり方

2025年11月25日 中村浩俊


1.農業における問題解決手段としての営農型太陽光発電
 わが国の農業は、農地面積の減少や担い手不足、農業従事者の高齢化(平均年齢69.2歳、65歳以上は全体の71.7%(※1))、農業資材の高騰、鳥獣被害、気候変動による農作物の品質低下等、多くの問題に直面しており、食料安全保障の確保に向けてさまざまな対策が検討・推進されている。近年、こうした農業における問題解決のための一つの手段として、再生可能エネルギー事業の一種である営農型太陽光発電(通称:ソーラーシェアリング、以下「営農型」)が注目されている。
 営農型は、農地に支柱を立てて、営農を継続しながら農地の上部空間に設置する太陽光発電設備であり、2013年3月末に農林水産省から通知が発出されて以降、農地転用許可制度上の「一時転用許可」を得ることで農地への設置が認められている。最大の特徴は、設備下で営農を行う農業者が、副収入として売電収入を得られることである。発電事業と農業を行う主体が異なる場合でも、発電事業者が売電収入の一部を農業者に還元する契約を両者で結ぶことが多い。したがって、農業者の所得が向上することで、営農の継続や新規就農者の拡大、営農継続による農地保全、農地保全による鳥獣被害対策等に貢献するほか、太陽光パネルによって日陰が生じることで作物の高温障害の軽減にも貢献(※2)するなど、前述の農業におけるさまざまな問題の解決につながる取り組みとして期待されている。
 一方で、営農型の普及状況は、年々増加傾向(※3)にあるものの、それほど多くはないと考えられる。農林水産省の調査(※4)によると、設置に関する許可件数(許可件数≠設備数であることに注意が必要)は全国で5,351件であるが、600件を超える都道府県が存在する一方でゼロ件の都道府県も存在(2023年3月時点)していることから、地域の偏りが大きい。また資源エネルギー庁の調査(※5)によると、FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)またはFIP制度(フィードインプレミアム制度)を活用した非住宅用の太陽光発電所は営農型も含めて全国で70万件以上存在(2025年3月末時点)することから、太陽光発電全体に占める営農型の導入割合はごくわずかである。
 
2.営農型太陽光発電の普及拡大における問題
 営農型の導入が進まない要因の一つに、事業化に適した面積規模の農地の探索・集約に多大な労力が掛かることが挙げられる。その背景として、農地は、戦後の農地改革の名残で小規模な農地が多く、農地法によって権利移動や転用が厳しく制限されているため、他の土地よりも流動性が低く集約が難しい。さらに、営農型の導入に必要な一時転用許可を得るには、事業地周辺の農地の効率的な利用に支障がないと認められる必要がある。したがって、民間主導で営農型の開発を行う場合、太陽光発電と農業を同時に行うという特殊で事例が少ない取り組みに対して、地権者だけでなく行政を含めた地域の農業関係者の理解と合意が必要であるため、合意形成の観点で事業化に至らないケースも少なくない。
 


 また近年では、発電事業者が利益の最大化を優先し、農業を疎かにしている事例が散見されることが問題となっている。営農型の事業化における基本的な考え方は、設備下での農業の継続性を優先した計画を立て、発電事業と農業の両立を目指すことである。しかし、設備下で農業機械を使って効率的な農作業ができるように太陽光パネルを地上から3~4メートル程度の位置に配置し、作物の生育に必要な日光が地表に当たるように太陽光パネルの設置密度(遮光率)を低くして配置すると、野立て太陽光発電よりも導入費用が高額になるという問題がある。そのため導入費用を抑え、太陽光パネルを低い位置で高密度に配置する設備設計にし、その下で栽培可能な作物や使用可能な農業機械を選択する事例(効率的な栽培が困難な事例)も少なくない。なかには、作物を放置する等、農業を全く行わないような悪質な事例も確認されており、2024年4月の制度改正時には、一時転用許可に対する基準の強化や悪質な事例に対して厳罰化がされる等の規制強化が行われている。
 しかし、「農業を全く行わない事例」は一時転用許可の審査時点では見極めが難しく、また設備下での適切な生育環境について十分研究されておらず、知見のデータベース化も行われていないため「効率的な栽培が困難な事例」を定義するのが難しいことから、現在の一時転用許可の審査基準では、農業を疎かにしている事例を完全には排除できない。



3.官民連携による営農型太陽光発電の普及促進のあり方
 前述の事業地の探索・集約における問題においては、営農型太陽光発電に対する地域の合意形成が課題であり、行政が地域の農業の将来像を描いたうえで、将来像の実現に向けた営農型太陽光発電の位置づけの整理や適切な事業地の選定を行うことが望ましいと考える。
 また、発電事業と農業のバランスに関する問題においては、民間事業者に対して発電事業と農業が両立する計画を立てるように促すことが課題であり、行政が地域の農業関係者の意見を基に一時転用許可基準とは異なる独自基準を設けて、当該基準を満たす計画を立案し実現できる民間事業者を公募・選定することが望ましいと考える。
 したがって、行政が、①地域の農業における営農型の位置づけを整理し、②事業地選定を行ったうえで、③当該候補地で適切な事業を行うことができる民間事業者を公募・選定することで、2つの問題を同時に解決することができる。



 公募で選定された事業者(以下「選定事業者」)の設備下で営農を行う意向のある農業者が地域内にいない場合は、公募する事業者の事業範囲を「発電事業」だけでなく「設備下での営農」の両方とすることで、地域外から新たな担い手を呼び込むことも期待できる。選定事業者が設備下での営農を継続することで地域からの信頼を獲得できれば、自然と事業地周辺の農地所有者から農地の引き受けの相談を受けて、営農型を組み合わせながら徐々に経営規模を拡大していくことが可能になると考える。そのような状態になれば、農業振興と地域脱炭素を両立させる取り組みが、選定事業者を中心に地域で自走しつつ拡大していくことが期待できる。
 筆者がこれまで全国の営農型の事業化支援や調査に関わった経験から、地区内の最初の1事例が発電と農業を両立しながら地道に地域の人とコミュニケーションを図ることで信頼を得ていき、徐々に導入件数を増やしているような事例がいくつも存在していることを確認している。
 例えば、2023年度に環境省の脱炭素先行地域にも選定された千葉県匝瑳市飯塚地区では、2014年に低圧(50kW未満)の営農型設備1基から取り組みが始まり、2024年度には設備容量の合計が6MW(計27基、耕作放棄地を再生した農地面積は約16ha)に達して、「ソーラーシェアリングの郷」といわれるまで事業が拡大している(※6)。当該地区では、民間企業である市民エネルギーちば株式会社(会社設立当時は合同会社)が中心になって取り組みを始め(※7)て、同社が事務局となり自治会や小学校等に呼び掛けて2018年に設立した「豊和村つくり協議会」によって「豊和村つくり基金」を創設(※8)し、地区内の発電所の売電収入を地域の環境保全や地域活性化の取り組み等に活用(※9)することで、営農型に対する地域の信頼獲得に貢献していると考えられる。
 しかし、売電収入を活用した基金は農山漁村再生可能エネルギー法(※10)に基づいて自治体が創設するケースが多いが、当該地区では自治会や小学校等を巻き込んだ取り組みでありつつも任意団体による基金の創設であったことを踏まえると、それまでの営農型の普及拡大や基金の創設には自治体は深く関与しておらず、民間主導による地道な取り組みの積み重ねであったと推察される。そのため、自治体が初期の段階から主体的に関与していれば、地域の合意形成がよりスムーズに進んで普及拡大がさらに加速したのではないかと考えられる。なお、脱炭素先行地域は自治体が申請主体となることから、脱炭素先行地域に採択されている現在は、計画に基づいた自治体による主体的な関与があると言えることを申し添える。



4.おわりに
 これまで行政は営農型に対して、許可権者の立場として民間事業者による取り組みを一歩引いた視点から監督する立場が大半であったといえる。しかし今後は、行政が、持続可能な地域産業、食料安全保障の要としての地域の農業の将来像(あるべき姿)を描いたうえで、農地の保全や後継者不足等の課題の抜本的な解決手段として営農型を位置づけることが、農業振興と地域脱炭素の両面で重要である。
 しかし、営農型に関するノウハウは民間事業者が有しており、自治体だけでは事業計画の策定や設計、建設、事業運営は困難であることから、官民連携によって事業を実現することが望ましい。官民連携による営農型の事業方式の例として、下図のように自治体が農地を所有する定期借地権方式や自治体が農地(地権者)・発電事業者・営農者を募集してマッチングするマッチング方式等が考えられる。この他にも、PFI方式やコンセッション方式による実現の可能性も考えられる。さらに官民連携による事業では、売電収益や自治体が受け取る対価の一部を自治体が創設する基金(例えば、農業振興に資する取り組みに活用することを目的とする)に寄付することを条件付けることで、客観性・透明性を確保しつつ収益を地域のために活用する仕組みを構築することができると考えられる。
 例として長野県では、営農型に関する事業地の選定や発電事業者の募集・選定等に関する伴奏支援を行う業務の公募型プロポーザルを2025年3月に実施している(※11)。どのような事業方式になるのかは現時点では不明だが、今後はこのように、農業の問題解決手段となる営農型の普及拡大に向けて積極的に関与する自治体が増えることを期待したい。



(※1)農林水産省「令和6年度 食料・農業・農村白書/第3節 担い手の育成・確保と多様な農業者による農業生産活動」(参照年月日2025年11月18日)
(※2)農林水産省「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック(2025年度版)」(参照年月日2025年11月18日)
(※3)農林水産省「営農型太陽光発電設備設置状況等について(令和4年度末)」(参照年月日2025年11月18日)
(※4)農林水産省「営農型発電設備の設置に係る許可実績(都道府県別)について(令和5年3月末現在)」(参照年月日2025年11月18日)
(※5)資源エネルギー庁「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法 情報公表用ウェブサイト」(参照年月日2025年11月18日)
(※6)資源エネルギー庁「R6-3:「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の郷」匝瑳市における地域共生型脱炭素社会の実現」(参照年月日2025年11月18日)
(※7)市民エネルギーちば株式会社「市民エネルギーちばの歩み」(参照年月日2025年11月18日)
(※8)豊和村つくり協議会「協議会 概要」(参照年月日2025年11月18日)
(※9)豊和村つくり協議会「豊和村つくり協議会規約」(参照年月日2025年11月18日)
(※10)「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律」の略称
(※11)長野県「『地域共生型ソーラーシェアリング普及促進事業』に係る委託業務の受託候補者募集について」(参照年月日2025年11月18日)
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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