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「初めの一歩」で止まっていませんか?~環境配慮を示すエコラベルから考える~

2025年11月26日 中島 栞


 エコラベルと一口に言っても、素材やアプローチしたい環境負荷によって様々な種類があり、国や第三者機関によるものだけでも36種類ある(※1)。同じラベルであっても、ラベルを付ける対象によって細分化されるケースもある。つまり、製品の環境負荷低減の取り組みを表現したい企業にとって、様々な選択肢があるということだ。
 具体的にお伝えするために、スナック菓子を例に挙げよう。プラスチック製の小袋にスナック菓子を詰め、それを紙製の外箱に入れて販売していると仮定したとき、スナック菓子メーカーが取り得る環境負荷削減の取り組みとラベルの組み合わせの選択肢としては以下が想定される。

図表:スナック菓子メーカーが取り得る環境負荷削減の取り組みとエコラベルの例


 消費者に見えやすいのはパッケージ部分である図表中①~③だが、製品のライフサイクル全体についても、製造時に使用する電力や製品の輸送方法に関してもラベルを使うことができる。
 なお、同じマークであっても使用部位や使用割合が異なる一例として②と③を挙げている。②は、使用している数色のインキのうち、黒色インキのみの10%が生物由来の素材であることを示している。一方で③は、プラスチック製小袋の25%が生物由来の素材であることを示している。

 この例からは、1つのエコラベルでは製品のライフサイクル全体における一部分だけにしか言及できないことが分かる。そして、消費者が普段目にするエコラベル付き製品、特に食品においては、パッケージやインキ部分について示すエコラベルが1~2個付いているだけのものが多くを占める。スナック菓子であれば、ジャガイモやうるち米といった主原料が考えられるが、環境に関する認証付きの原料の流通量がまだ少ないという事情もある。
 もちろん、できることから取り組み、スペースが限られる中でエコラベルを製品に掲載していることは非常に意義のあることである。しかし、製品の一部分だけで削減した結果をもとにエコラベルを掲載して取り組みを止めるのではなく、ライフサイクル全体における環境負荷削減という視点を忘れず、次に取り組めることを探し続けるべきだと考える。
 その取り組みの後押しになりうるのは、企業のステークホルダーからの評価である。まず、今後は生活者の環境リテラシー(※2)が高まり、持続可能な社会につながる賢い買い物をする生活者が増えていく可能性がある。

 これまで弊社グリーン・マーケティング・ラボが実施したエコラベルに関する出前授業やイベントでは、小学生とその保護者を中心とする約800名の生活者と1年間で接触し、エコラベルを紹介したうえで身近な製品を観察してもらった。参加した子どもからは「バイオマスマークの95を見つけた!この製品すごいね」という反応を得られたほか、保護者からは「イベント参加後もエコラベルをつい探してしまうようになった」という声を数多くいただいた。
 さらに、エコラベルを集めて応募してもらうコンテスト「エコラベルハンター2025」では、コンテスト参加を機にエコラベル付き製品の購買を促すことができた。コンテスト参加前には、買い物時にエコラベル付き製品を選択していると回答した人は8%にすぎなかったが、参加後には、エコラベルが付いていることを理由に購入した人が25%となった。

 現状では、エコラベルが示す環境負荷削減の内容まで考慮して製品を選ぶ生活者は多くない。消費者庁の調査(※3)によると、日々の買い物時にエコラベルの付いた製品を選択すると回答した人は16.2%であったため、エコラベルの有無だけでなく内容も踏まえて選択する人はより少ないだろう。
 しかし、エコラベルの意味や背景にある企業の努力をうまく伝えれば、それを理解できる生活者は確実に増えていくと考えられる。

 また、企業には、従業員というステークホルダーもいる。就職先選びの基準としては、安定性や待遇を求める人が多い一方で、社会やSDGsへの貢献をみるという層も一定数いるとみられ、調査にもよるが20%程度が選択肢のひとつにしている可能性がある。特に、学校で環境教育を受けた20代前半までの若い世代はSDGsへの理解度や関心が高く、今後は環境配慮の取り組みが企業の将来性を推しはかる重要な指標になると考える。
 こうして企業を選んだ従業員にすれば、「自社の環境の取り組みがなかなか進まない」ことが分かると、職場の魅力が減少することにもつながりうる。

 筆者の考える理想像は、最初は小さな一歩から始めた企業が、最低限のエコラベルだけ掲載して終わるのではなく、さらに取り組みを進められる道を探して実行し続けていくことだ。そうすれば、生活者や従業員から適切に評価される製品・企業であり続けられるはずである。

(※1) 環境省「環境ラベル等データベース」、「国及び第三者機関による取組」に掲載されているラベルの数。2025年11月18日確認。本稿では、この36種類を総称して「エコラベル」と表記した。
(※2) 環境問題について正しく理解し、個人あるいは周りの人と共に取り組めることを判断、実行できる能力のこと。
(※3) 消費者庁「令和7年版消費者白書」、第1部 第2章 第2節「消費者の環境問題に対する意識と行動の分析」、2025年11月19日閲覧。


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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