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増える異常気象から中国の2035年新気候目標を考える

2025年11月11日 王婷


 中国の習近平国家主席は、2025年9月に国連総会ビデオスピーチにおいて、2035年までの中国の温室効果ガス削減目標を公表しました。具体的には以下の3つの数字目標から構成されます。

①温室効果ガス排出量削減: 2030年よりさらに温室効果ガス排出量を7〜10%削減する
②非化石燃料の比率: 一次エネルギー消費に占める非化石燃料の比率を30%超に引き上げる。
③風力・太陽光発電: 風力・太陽光発電の設備容量を2020年比で6倍以上となる3,600GW超を目指す。

 このうち③の規模は、想像しがたいものです。2024年の中国の発電設備容量は全国で3,350GWであり、つまり、③の目標は、中国がこれまで築いてきた全発電設備容量に匹敵する規模です。なお、日本全国の発電設備容量は324.16GWであり、目標はその約10倍に相当します。また、さらに、2020年に公表された、2060年に非化石燃料の比率を80%以上にするという既存の目標を達成するためには、今後太陽光や風力発電の導入量が増えると予測されます。

 中国では、この目標が公表された9月に、20日間で4つの台風が広東省に上陸しました。特に、大型で猛烈な台風「ラガサ」は風力発電や太陽光発電施設に深刻な影響を与えました。中国の報道によると、東莞市近くでは高さ100メートル級の風力発電機が破損し、巨大なブレードとナセル部品が地面に散乱しました。また、陽江市付近の太陽光発電所では、パネルが剥がれ、元の形がわからないほどに破損したといいます。中国財産再保険の試算によると、「ラガサ」による風力発電だけの被害総額が最大で4.68億元にのぼると見込まれています(※1)。被害の主な原因は予測を超える強風や不十分な施工・土木対策、メンテナンス不足などからだと分析されています。

 こうした予想を超えるような異常気象は今後、加速する勢いです。世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)は2025年1月10日には、2024年の世界の平均気温が産業革命前より1.55℃上昇したと公表しました(※2)。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、「1.5℃の気温上昇が起きると、10年に1度の頻度だった猛暑が4.1倍、豪雨が1.5倍に増える」と以前から強く警告しています。また、世界気象機関は「アジアの気候状況2024年」において、アジア地域の温暖化のペースは世界平均の約2倍であり、異常気象が発生し、経済や生態系、社会に深刻な影響を及ぼしていると警鐘を鳴らしています(※3)

 温暖化対策として、世界では約150か国がカーボンニュートラルの目標を公表し、各国が積極的に太陽光や風力発電の導入計画を立てています。IEAが2024年に公表した「World Energy Outlook 2024」によると、公表政策シナリオベースでは、2050年の電源構成は太陽光が70%、風力が18%、水力が8.7%、バイオマスが1.5%と想定されており、2050年には世界的に再エネの導入量が23,218GWに達するとされています(※4)

 再エネは発電時に温室効果ガスが出ず、施設の建設期間が短くて済むというメリットがあるため、化石燃料を代替し、カーボンニュートラルを実現するための最も有力なエネルギー源であることは間違いありません。しかし、2050年に向けて電力消費の半分以上を再エネで賄うことは、これまでの大規模で集中型な電力システムとは異なり、再エネを中心とした分散型システムが一般的になることを意味します。これには、エネルギー貯蔵技術や、AIやデジタル技術を活用した多様な電源の連携と調整、需給間の調整などが必要不可欠ですが、最近の気象災害が再エネ発電設備に及ぼす影響をみると、災害対策の強化も求められます。

 近年、再エネが気候問題解決のための万能薬であるような考えも、一部には広まっているように感じます。一方、上述したように、異常気象は再エネ発電設備も襲います。高い目標設定によって中国の再エネ投資が加速することが期待されますが、同時に、エネルギーを節約し、化石燃料の実使用量を減らし、グリーンな生産活動、ライフサイクルのグリーン化を徹底的に行う重要さを忘れてはいけません。その上で、さまざまな再エネを導入し、AIやデジタル技術で効率的かつ安全・安定的な電力供給を実現し、エネルギーシステム全体を持続可能な方向へ導かないといけないでしょう。

(※1) Sinaニュース https://k.sina.com.cn/article_5953741034_162dee0ea06702hqns.html
(※2) 世界気象機関公式サイト WMO confirms 2024 as warmest year on record at about 1.55°C above pre-industrial level
(※3) 世界気象機関公式サイトState of the Climate in Asia 2024
(※4) 日本原子力工業協会公式サイトhttps://www.jaif.or.jp/information/weo2024


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。



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