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大企業における従業員エンゲージメントと離職意向の 関係性に関する実態調査

2025年10月29日 津郷修平


 「大企業における従業員エンゲージメントと離職意向の関係性に関する実態調査」では、国内の従業員数1,000名以上の企業に勤める20-44歳1,840人を対象に調査を実施した。その結果、従業員エンゲージメントと離職意向に明確な相関はないことが明らかになるとともに、従業員エンゲージメントを高めつつ離職意向を低下させるためには、仕事に関して気軽に話せる同じ部署内の人を3人以上作らせることが有効である可能性が示唆された。以下、本調査の背景・目的、調査結果、そして本調査から得られた示唆について紹介する。

■本調査の背景・目的
 昨今、従業員エンゲージメント向上が経営トレンドの一つとなっている。従業員エンゲージメントを向上させることで、生産性向上と離職抑制を達成し、最終的には企業価値を最大化させることが狙いだ。またこれに伴い、従業員エンゲージメントを可視化するためのエンゲージメントスコア測定も流行している。
 一方で、多くの企業は従業員エンゲージメント(あるいはスコア)を向上させるための具体的な改善策を見いだせていない。実際、従業員エンゲージメント測定をサービス提供している企業の多くは、スコア測定後の具体的な改善策を提示できておらず、「マネジメント層に解決策を発想させるためのワークショップ」を提供する等、改善策を顧客にゆだねる形となっている。
 以上を踏まえ本調査では、下記2点を明らかにすることを目的とした。
①従業員エンゲージメント向上が離職抑制につながるか
②従業員エンゲージメント向上・離職抑制に重要な要素は何か

■本調査結果
 本調査は国内で従業員数1,000名以上の企業に勤める20-44歳1,840人(男女×年齢層5段階で均等割り付け)に対してアンケート調査を行った。Figure1に示すように、エンゲージメント(愛着)を「感じている」、または「どちらかといえば感じている」と回答した人が計約41%、エンゲージメントを「感じていない」、または「どちらかといえば感じていない」と回答した人が計約32%であった。
 またFigure2に示すように、エンゲージメントと年齢層の間には関係性が見られなかった。



 Figure3に示すように、エンゲージメントの高さと離職・転職意向の間には関係性がないことも、今回の調査では明らかとなった。すぐに離職・転職したいと考えている人の割合が最も多かったのは、皮肉にもエンゲージメントを最も強く感じている人々であった。



 本調査においてエンゲージメントと最も強い相関があった指標は、「仕事に関して気軽に話せる同じ部署内の人の数」であった。Figure4に示すように、仕事に関して気軽に話せる同じ部署内の人がいない人々は、その約43%がエンゲージメントを「感じていない」と回答した。一方でエンゲージメントを「感じていない」と回答する比率は、仕事に関して気軽に話せる同じ部署内の人が3人未満(1、2名)の人は約20%、5人未満(3、4)人いる人は約13%と、少しでも気軽に話せる人がいるとエンゲージメントが改善することがわかった。
 この傾向は転職・離職意向でも同様であった。Figure5に示すように、「すぐに転職したいと考えている」と回答した比率が最も高かったのは仕事に関して気軽に話せる同じ部署内の人がいない人々であり、気軽に話せる人が1-4人いるだけでその比率が減ることがわかった。



 また勤続年数が1年以上経過している場合には、仕事に関して気軽に話せる同じ部署内の人がいない割合と勤続年数に相関がないこともわかった(Figure6)。勤続年数によらず、12-16%程の人は、仕事に関して気軽に話せる人がいない。



■本調査のまとめ・示唆
 本調査結果に示すように、従業員エンゲージメントが高い状態が、必ずしも離職・転職意向が弱い状態であるとは限らない。これは従業員エンゲージメントおよび離職・転職意向のそれぞれが、実に多様な要素を基に決定されていることに起因し、それぞれに強く作用する要素が異なるためであると推察される。
 また本調査では、「仕事に関して気軽に話せる同じ部署内の人の数」が、従業員エンゲージメントと離職・転職意向の両方に関係性があることが明らかになった。仕事に関して気軽に話せる同じ部署内の人を3人以上作らせることは、従業員エンゲージメントの底上げや、離職・転職意向を強く持つ人のそれを弱くすることに有効である可能性が示唆されている。特に勤続年数によらず12-16%の従業員は、仕事に関して気軽に話せる同じ部署内の人がいない状態であるため、企業において、若手のみならず全年代に向けてこの施策を実施することは、エンゲージメントの向上や離職抑制に寄与する可能性がある。

 1点注意が必要なのは、本調査があくまで「現在の状態」に対するものであった点である。従業員エンゲージメントを「変化させる」ことが、離職・転職意向に作用するかどうか、についてはさらなる調査が必要となる。

※従業員エンゲージメントの定義
 本調査では、従業員エンゲージメントを「企業への思い入れや愛着」と定義し、5段階で測定した。

<本調査・本コラムの概要>
 本調査は、株式会社日本総合研究所が共同印刷株式会社より委託を受け、従業員エンゲージメントと従業員の離職意向の関係性、および従業員エンゲージメント向上や離職防止に重要な要素を明らかにするために実施したものである。本コラムは本調査結果を踏まえ、日本総研が客観的な視点から今後企業に求められる従業員エンゲージメント向上や離職抑制に関する取り組みについて考察するものである。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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