オピニオン
介護保険事業計画の個別化を支える地域同士の学び
2025年10月15日 山崎香織
2025年は、介護保険制度創設から25年、そして団塊の世代が全て75歳以上となる節目の年として、高齢・介護分野に携わる人ならば意識してきた年である。次の目安として、国の検討会などでは日本の高齢者人口がピークを迎える2040年に着目している。しかし、これまでの道のりと、2040年のピークを越えて高齢者人口も減っていく2050年までの道のりを比べると、同じ25年であっても全く様相は異なる。
これまでの25年を振り返ると、「どの地域でも同じような支援を受けられるようにする」というフルセット型で介護サービスを整備する思考が強かった。2014年の介護保険法改正では、国が決めた全国一律のルールで提供されてきた要支援高齢者向けの訪問介護・通所介護を、市町村が内容等を決める実施する地域支援事業に移行するなどの動きもあったが、全ての施策・事業を整備しようとする「フルセット型」の思考は未だ根強く、各自治体の介護保険事業計画や運用方法にもそれが表れている。
一方、これからの25年は、高齢者人口の増減に伴うサービス需要の変化が地域ごとに大きく異なることが見込まれる。高齢者人口は、全国の49%の市町村では2020年以前にピークを迎えたが、都市部を中心に14%の市町村では2040年以降にピークを迎える見込みで、全国的に増えてきたこれまでとは変わってくる。そのため、地域で高齢者が暮らし続ける上で必要なサービスやそれを整備する方法も、他の地域と同じというわけにはいかず、個別性を高めていく必要がある。特に一般市・町などの小~中規模の自治体は、介護・医療・福祉や、生活支援サービス事業者の事業規模の縮小や撤退への対応を迫られる可能性がある。また庁内横断での施策・事業の見直しや、さらには広域連携でのサービス提供体制の確保が求められている。
これらの新しい課題に取り組み、次の25年を見据えて地域をデザインしていく一助として、当社は2023年に「効果的な施策を展開するための考え方の点検ツール」(以下、「点検ツール」)(※1)を提示し、その活用を推進してきた。点検ツールは、地域の目指す姿の実現に向けて施策・事業が効果的なものなのか、施策・事業間が連動して機能しているかを振り返るためのワークシートである。介護・医療・福祉に係る施策・事業はそれぞれ別の法律に基づき、国や自治体の所管部署が分かれることが多いため、横のつながりが弱くなりがちだが、住民・地域視点でつながりを強化するための検討を促すことを狙いとしている。
第10期(2027~2029年)の介護保険事業計画策定に向け、今年の10~11月には、点検ツールを活用しつつ、他の地域と知恵を出し合って自地域の施策を考えるための場づくりを行う。個別化を進める時こそ、自地域だけで考えこまず、他地域と話してみてほしい。昨年度に複数の市町村での研修を試みたところ、参加した市町村から類似の課題や対応策を共有し合える、外部アドバイザーの支援を得る機会になる、広域での連携方法を考えるきっかけになるといった声を頂いた。
介護保険事業計画の目的である「この地域で高齢者が暮らし続けられる仕組みづくり」にどう取り組むかという問いには一言では答えられない。それを自治体職員一人ひとりが何とか言葉にして、地域の外の人に共有する過程で、自地域で培われてきた高齢者の気風やリソースの特性に気づきやすくなると感じた。
自治体職員の皆さんが、住民の「どのように生きて、人生を仕舞いたいか」という思いを汲み取り、彼らの暮らしを支える人達と話し合い、地域の有り様を考えていく。そんなダイナミズムを感じられる学びの場を創っていきたい。
(※1) 地域包括ケアシステム~効果的な施策を展開するための考え方の点検ツール
本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。