オピニオン
アウトカム志向型公共サービスの在り方と少年の再犯・再非行防止の新たなエビデンスの獲得 ~SIBによる非行少年への学習支援事業の総括を通して~
2025年10月03日 黒澤仁子、見上日奈子
株式会社日本総合研究所(以下「日本総研」)および法務省は、2024年度に連携協定を締結し、「ソーシャル・インパクト・ボンドを活用した非行少年への学習支援事業」(以下「本事業」)(概要は末尾ご参照)の振り返りを共同で実施しました。
この度、その結果をまとめた「民間資金を活用した成果連動型民間委託契約方式による非行少年への学習支援の実施等業務 最終評価結果を踏まえた事業総括」を公表しましたので報告します。
事業総括

事業総括概要

●振り返りの目的
本振り返りの目的は、再犯防止分野における日本初のSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)事業である本事業において、SIBの活用にどのような意義があるのか、また、少年の再犯・再非行防止の取り組みの効果や課題が何であるのかを明らかにすることです。
この検証を通じて、より効果的な再犯・再非行防止施策の実施や、PFS(成果連動型民間委託契約方式)/SIBの普及に向けた重要な示唆を得ることができました。
●振り返り実施方法
日本総研および法務省は、一般財団法人社会変革推進財団、株式会社キズキ、株式会社公文教育研究会、株式会社日本政策投資銀行、特定非営利活動法人ソーシャルバリュージャパンの協力のもとでフォローアップ勉強会を開催して意見を得るとともに、本事業に携わった一般社団法人もふもふネット、法務省各少年院および保護観察所からも意見を得て、それら多様な意見を集約する形で振り返りを行いました。
●総括の概要
学習習慣の定着・学習機会の保障・居場所の提供が再犯・再非行防止に寄与
本事業で実施された以下の支援が、最終成果指標である「少年の再処分率低下」に寄与したものと考えられます。
・学習習慣を定着させるための支援:週1回2時間の学習機会の提供、欠席のフォロー等
・学習機会を保障するための支援:復学先との調整、志望校選びのアドバイス、願書提出や合格手続きのサポート、規則正しい生活リズムの指導、保護者と少年の仲介等
・居場所の提供:利害関係者ではないナナメの関係の大人に、安心して本音を言うことのできる場・機会の提供
当該支援により、少年の再犯・再非行防止に寄与することが明らかとなり、少年の再犯・再非行防止のためのエビデンスが得られました。従来の委託事業とは全く異なる、社会課題解決にコミットした事業
SIBを導入することで、従来の委託事業とは全く異なる「部局横断の発注体制」、「サービスの開発・提供」、「成果視点のPDCAサイクル」といった新しい事業スキームが実現しました。
これは、公共サービスを「どのようなアウトカムを生み出すか」に焦点を当てて実施するための革新的アプローチであり、社会課題解決に向けた新たな可能性を提供するものです。今後もこのような取り組みがさらに広がることを期待しています。

・部局横断の発注体制:
法務省秘書課、少年院(矯正局)、保護観察所(保護局)が連携し、部局を超えた発注体制が整備されました。これにより、少年の再処分率低下という目標を達成するための理想的な体制が築かれました。
法務省秘書課、少年院(矯正局)、保護観察所(保護局)が連携し、部局を超えた発注体制が整備されました。これにより、少年の再処分率低下という目標を達成するための理想的な体制が築かれました。
・サービスの開発・提供:
中間支援組織のマネジメントのもとで多様なセクターが連携して創意工夫を発揮することで、成果指標改善に必要な本事業独自のサービスが開発・提供されました。
中間支援組織のマネジメントのもとで多様なセクターが連携して創意工夫を発揮することで、成果指標改善に必要な本事業独自のサービスが開発・提供されました。
・成果視点のPDCAサイクル:
資金提供者やサービス提供者が委託したNPOがモニタリングを行い、行政とサービス提供者双方に対して成果指標達成のための適切な軌道修正を促すことで、成果指標達成を目的とした支援内容の改善等が事業期間中継続的に行われました。
資金提供者やサービス提供者が委託したNPOがモニタリングを行い、行政とサービス提供者双方に対して成果指標達成のための適切な軌道修正を促すことで、成果指標達成を目的とした支援内容の改善等が事業期間中継続的に行われました。
【参考】ソーシャル・インパクト・ボンドを活用した非行少年への学習支援事業(民間資金を活用した成果連動型民間委託契約方式による非行少年への学習支援の実施等業務)の概要
目指す姿 | 少年院出院者の再犯・再非行防止 |
対象者 | 少年院出院後に東京または大阪に帰住する少年のうち、修学を希望し、本事業への参画を希望する者 |
支援内容 | 少年院在院中に学習支援計画の策定等を行った上で、出院後、最長1年間にわたり学習支援を実施するほか、専門家による個別面談等によって生活状況および心情等の把握、少年の抱える課題の解決に向けた助言等の生活支援を実施。 |
事業手法 | 成果連動型民間委託契約方式 |
プレーヤー | 受託者:法務省 サービス提供者(受託者):公文教育研究会、キズキ、もふもふネットによる共同事業体 資金提供者:日本政策投資銀行、三井住友銀行、CAMPFIRE 第三者評価機関:なし(ソーシャル・ バリュー・ジャパンがモニタリングを実施) |
事業期間 | 2021年8月~2024年3月 |
成果指標 | 【プロセス指標】 ・学習支援計画の策定数 ・支援の継続率 ・学習支援計画の見直し検討の回数 【アウトカム指標】 ・学習支援計画上の目標達成率 ・YNPS(Youth Needs and Progress Scale) スコア ・再処分率 |
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。