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企業の教育支援活動による効果の見える化に向けて

2025年09月24日 青山温子


 2025年5月から6月にかけて、日本総合研究所が開発した社会体験カリキュラム「子ども社会体験科 しくみ~な®」(以下「しくみ~な」)が、渋谷区内の小学校2校で無事に実施された(※1)。この活動にご協力いただいた自治体、学校、そして出展企業の皆様には、この場を借りて深く感謝申し上げる。

 日本総合研究所では、公教育における子どもの体験活動の持続的な実施を、地域の“みんなで支える”社会の実現を目指している。その具体化の一例として、社会体験のカリキュラムとしてしくみ~なを開発し、2024年より実証を開始した。これまでに、東京都渋谷区と静岡県富士市で、児童・生徒のべ約600名に参加いただき、今年度後半にはさらにのべ約450名が参加予定である。2024年度の活動については、活動報告(※2)(※3)(※4)を参照いただきたい。

 では、公教育を“みんなで支える”社会とはどのようなものか。それは、地域のステークホルダーがリソースを出し合い、資金面と運営面(コンテンツ・体制)の両面から学童期の子どもの学びを支える社会である。資金面について、しくみ~なを開発するにあたって着想を得たフィンランドのカリキュラムの場合、国/自治体、民間企業、財団などがバランスよく資金を拠出している。運営面では様々なステークホルダーに参加いただき“みんなで支える”を実現しつつあるしくみ~なだが、今後は、資金面においても資金拠出者の多様化を図ることを構想している。
 資金拠出者の多様化にあたり、特に民間企業を巻き込んでいくためには、こうした活動が企業の価値向上に結びつくものであることを見える化する必要がある。実際に、これまで我々が対話をした企業の多くからは、教育支援活動を行っていても、自社にとっての具体的なメリットを見出しにくく、大きな支出や継続的な支出が難しい、という声が聞かれた。
 こうしたなか、しくみ~なの実証に出展いただいた企業では、その取り組みの活用についても様々な事例が生まれている。ご活用そのものも、広い意味で実証だったといえるのかもしれない。本稿では、こうした活用事例を紹介したい。

・広報(PR・IR)への活用
 複数の企業で、社会体験活動の様子や成果を、オウンドメディアや統合報告書等で紹介いただいた。長期ビジョンや中期経営計画と社会体験活動との連動がステークホルダーに伝われば、社外からの評価・評判を高める可能性がある。

・子どもとの共創の場としての活用
 出展企業のなかには、子ども向け教育サービスを有する企業もある。このケースでは、本業と近いことから、社会体験活動に自社ツールを組み込み、子どもや教員から、ツールの改善点や子どもたちにより関心を持ってもらうための効果的な工夫などの新たな示唆を得ることができていた。また、子どもたちが社会体験活動中に新たに考案したツールの活用方法は同社の想定を超えるものであり、新たな用途が生まれる瞬間に立ち会えたことに大きなインパクトを感じていただいた。この共創プロセスはサービスの差別化と市場競争力の強化に向けた重要なステップとなり得る。

・従業員育成・エンゲージメント向上への活用
 しくみ~なでは、社会体験活動において出展企業の従業員にも重要な役割がある。例えば、「見守り相談員」として児童の活動をサポートする役割を担うことがある。サポートにあたって、従業員は自分の業務範囲を超えて自社の取り組みを理解し、それを子どもたちにわかりやすく伝える役割が求められる。ある企業では、しくみ~なを含めた自社の教育支援活動に関心のある従業員を集め、交流会や勉強会を行っている。また、しくみ~なへの参加をもって社内表彰制度に応募し、見事受賞した成果をホームページ上で公開している企業もある。こうした活動を通じて、深い自社理解を備えた協力性の高い人材が育つことや、社会的企業として貢献する一員として組織へのエンゲージメント向上が期待できる。

 子どもの教育に対して、自治体だけでなく、企業も積極的かつ継続的に資金を拠出することは、 “みんなで支える”を実現するためには不可欠である。そのためには教育支援活動の成果が教育的価値に留まるものではなく、明確な企業的価値に転化できることを表せるようにすることが必要である。上記の例は、その端緒ではあるが、さらに多様で具体的な(できれば定量的な)価値の見える化の方法を明らかにすることが“みんなで支える”社会に向けての課題であり、我々が企業の皆様とともに取り組んでいきたいと考えていることである。

(※1) 渋谷区の小学校で「子ども社会体験科 しくみ~な®」をフルパッケージで導入
(※2) 【子ども社会体験科 しくみ~な®】2024年度実証報告①|日本総研
(※3) 【子ども社会体験科 しくみ~な®】2024年度実証報告②|日本総研
(※4) 【子ども社会体験科 しくみ~な®】2024年度実証報告③|日本総研


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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