政府は、第7次エネルギー基本計画を2025年2月に策定し、カーボンニュートラルの実現を目指す方針のもと、再生可能エネルギーの更なる導入拡大を図ることを掲げた(※1)。なかでもバイオマス発電は、2040年までに電源構成の5~6%を占める水準まで高める目標が示されており、持続可能なエネルギー供給の確保に不可欠な役割を担うことが期待されている。
現状、多くのバイオマス発電所は未だに固定価格買取制度(FIT制度)に大きく依存している。FIT制度では、政府が電気の高価買い取りを保証し、その負担は主に再生可能エネルギー賦課金として国民に転嫁されてきた。しかしながら、2010年代に始まったFIT制度の終了を控え、バイオマス発電は自立的な事業モデルへの転換が求められている。制度開始から20年経過する2030年代前半には、FIT制度切れのバイオマス発電所が乱立する。FIT制度切れのバイオマス発電所では、電力買取価格が下落することが避けられず、設備の稼働率や原料の調達コストが現状水準のままでは、事業の継続が困難になる可能性が高い。
バイオマス発電が直面する主な問題は、電力買取価格の低下と、設備投資及びランニングコストの上昇である。まず、電力買取価格については、FIT制度の終了により高額買取が保証されなくなり、事業を継続するためには、事業者自らが市場での高値買取先を見付ける必要がある。一方、設備投資面では、物価上昇に伴い増加し、プラントコストインデックス(資材や設備機器、労務費などのプラント建設費全体の時系列的な変動を数値化した指標)は2024年/2016年比で約1.28倍に増加している(※2)。さらに、ランニング面では、ロシア・ウクライナ紛争の影響による輸入木質チップの供給不足や、国産木質チップも製材用の需要減少に伴う、副産物としての燃料チップ用の供給量も減少傾向にあり、輸入材・国産材共に価格が高騰している。事実、設備投資やランニングコストの上昇に伴い、事業が成立する見通しが立たず投資を断念する企業や、運転開始後まもなく倒産する発電所も現れている。
こうした状況下において、政府が掲げるバイオマス発電の更なる導入を図るために、事業モデルの抜本的変革が課題となる。そこで、バイオマス発電を、単なる発電事業ではなく、発電時に生じる分離回収・供給するとともに、CO2回収による環境価値を商材として加えた、新たな事業モデルに転換することを提案したい。具体的には、従来の電力供給に加えて、以下の2つを創出・販売する事業に転換するのである。
・生物由来炭酸ガス製品としての利用価値(CO2の炭酸ガス製品としての有用性に基づく産業用途での価値)
・排ガスからのCO2回収価値(CO2排出源から生じる排ガス中のCO2を直接大気放出せずに、分離回収して得たCO2であるという属性による価値)
まず、生物由来炭酸ガス製品としての利用価値は、溶接、飲料などの産業で活用される価値である。炭酸ガス製品は、従来、石油精製や化学品生成の副産物として得られてきたが、国内の石油精製、化学品製造の施設の閉鎖が相次ぐ中で、国内の供給力が低下してきている。その結果、海外からの輸入で需要を賄っている現状にある。このような状況下において、国産の炭酸ガス製品の供給源が求められている。さらに、生物由来のCO2は、利用後大気中に放出された場合にもカーボンニュートラル(正味のCO2発生はなし)、固定化した場合にはカーボンネガティブ(大気中からのCO2除去)と見なすことができ、化石資源由来のCO2とは異なる価値を有する。
他方、排ガスからのCO2回収価値とは、環境省が、SHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)の下、新たに採用する方向で検討している価値である(※3)。回収価値は、CO2分離回収した主体に一旦帰属され、その価値を証書等の形で、源排出者、利用者に移転していくことができる価値と定義される。この価値を移転する仕組みが導入されれば、バイオマス発電事業者は、自らに一旦帰属した回収価値を、民間企業(上流・下流の事業者を含む)等に販売することで新たな収入源を得ることが可能になると期待される。
このような転換の実行にあたり、CO2回収設備の初期投資の低減や、回収したCO2の安定した需要先確保も課題である。これらの障壁解消には政策的支援の強化が必要であり、具体的には補助金や税制優遇策の導入、排出量取引制度や炭素税導入による経済的インセンティブ付与が効果的である。また、共同事業体によるリスク分散や技術開発の協調、地域分散型バイオマス利用推進を通じた安定供給体制の構築も不可欠である。
実行にあたっては、短期的にPoC段階として既存バイオマス発電所での小規模なCO2回収・利用パイロットプロジェクトを実施し、品質評価や初期の需要家との連携から着手することが現実的である。中長期的には技術の標準化や法制度整備を進め、全国の発電所での事業モデル転換の促進と、多様な産業での回収CO2利活用拡大、地域特性に応じた最適利用システムの構築を目指すことが有効だろう。
バイオマス発電は国産の再生可能エネルギーとして今後も重要な位置を占めるが、その持続的発展には既存の事業モデルからの脱却と新たな価値創出への挑戦が不可欠である。政策、技術、金融の多方面の連携によって、持続可能なバイオマス発電の実現が可能となるだろう。
経済産業省資源エネルギー庁「第7次エネルギー基本計画」(2025年2月) | |
日本機械輸出組合「PCI/LF 報告書概要」(2023年) | |
環境省 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における算定方法検討会「資料3|CCS及びCCUの扱いについて(案)」(2024年6月) |
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