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【発達障害の早期発見・早期支援】
①現状の課題

2025年07月17日 石塚渉、小幡京加、杉原絵美


 発達障害の早期発見・早期支援は、個人の生きづらさの解消や自立の支援だけでなく、教育・福祉・医療といった公共サービスの負担軽減や、将来的な労働参加率の向上といった社会全体への波及効果をもたらす可能性がある。しかし、こうした長期的で複雑な影響は、数値として捉えにくく、その重要性が見過ごされがちである。特に、公共・民間双方における資源配分を判断する際、社会的リターンが不透明な分野への投資は後回しにされがちである。
 このような状況を打破するためには、「介入をしなかった場合に想定される社会的損失」や「支援によって回避することができる将来コスト」を、定量的・定性的に「見える化」することが重要であると考える。
 本コラムの第1回では子どもの発達障害に係る現状の課題を概観し、第2回では人手不足等が原因となって発達障害の早期発見・支援が遅れることによる社会的損失を示すとともに社会的インパクトの可視化の重要性について論じる。さらに第3回では発達障害の早期発見・早期支援に向けた介入施策の方向性として先端技術活用の動向について紹介し、データとロジックに基づいたアプローチの重要性について示す。

子どもの発達障害の早期発見における医療機関・自治体の課題
 文部科学省が2022年に公表した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」(※1)によると、全国の公立小学校・中学校の通常の学級に在籍する児童生徒のうち、「学習面または行動面で著しい困難を示している」生徒が8.8%(推定値)を占めることが発表された。このような報道等を通じて発達障害への理解が進み、早期発見につながりやすくなった一方で、子どもの発達検査の需要が高まったことにより、発達検査の待機期間の長期化が問題となっている。
 厚生労働省の研究報告書(※2)によると、医療機関における発達障害児の初診待機期間は約2.6カ月という結果もあり、発達障害に対する意識の高まりに伴い、専門人材の不足等の課題が顕在化している。また、自治体も発達検査に対する需要拡大への対応に苦慮している。東京都の発達障害児の検査等に関する実態調査結果(※3)によると、区市町村の福祉部門における初回相談から検査結果までの期間は、就学前相談を控えた繁忙期以外の通常期であっても91日以上と回答した自治体が2割超存在している。
 発達検査の待機時間が長期化している背景には、専門人材の不足による需要と供給のギャップが拡大していることが影響している。厚生労働省では、地域における発達障害の診断待機を解消するために「発達障害専門医療機関初診待機解消事業」や「発達障害専門医療機関ネットワーク構築事業」といった事業を実施するなど、専門人材の確保に向けた対応を進めているものの、発達検査の需要拡大に追いついてないのが現状といえる。

子どもの発達障害の早期支援における保護者や家族、関係者の課題
 保護者や家族、関係者が子どもの発達に特性があることに気づいていても、現状では、支援を受けるまでに至っていない子どもが一定数存在する可能性がある。前述の文部科学省の調査(※1)によると、小中学校で担任教員等が「知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示す」と回答した児童生徒が小中学校で8.8%を占めているが、そのうち授業時間以外の個別の配慮・支援(補習授業の実施、宿題の工夫等)を行っている学校は29.1%にとどまり、残りの約7割は授業時間以外の個別の配慮・支援が行えていないのが実態である。また授業時間内に教室内で個別の配慮・支援を行っている(座席位置の配慮、コミュニケーション上の配慮、習熟度別学習における配慮、個別の課題の工夫等)学校は54.9%(特別支援教育支援員による支援を除く)となっている。教員を含む周囲の大人が子どもの発達に何かしらの特性があると気づいていたとしても、個別の配慮・支援ができていないケースが多く存在する可能性がある。
 また、教育機関の支援体制や教員の育成体制についても、個別の配慮・支援を行う上での難しさがある。文部科学省の「令和5年度特別支援教育体制整備状況調査」(※4)では、新規採用教員のうち、採用後 10 年以内に特別支援教育に関する経験(2年以上)のない教員が小学校では85.5%、中学校では63.6%、高等学校では92.9%という調査結果が公表されており、教員の特別支援教育に関する経験を増やすことや専門性を高めることが求められている。
 発達の特性に起因する課題は子どもの特性や環境、成長過程によってさまざまであり、学校や学校以外の関係機関、家庭が適切に連携し、継続した支援体制を作ることが求められている。
 第2回では上記の現状を踏まえ、人手不足等が原因となって発達障害の早期発見・支援が遅れることによる社会的損失について解説する。

(※1) 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」(2022年12月13日)
(※2) 厚生労働省障害者総合福祉推進事業「発達障害児者の初診待機等の医療的な課題と対応に関する調査 令和元年度 研究報告書」(2020年3月)
(※3) 東京都「発達障害児の検査等に関する実態調査結果について」
(※4) 文部科学省「「特別支援教育体制整備状況調査」及び「通級による指導実施状況調査」の結果について(周知)」(2024年9月6日)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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