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EV電池循環市場創出の起点となるスマートユース

2024年09月24日 木通秀樹


 今夏7月、福岡県は、日本初のEV電池循環市場形成に向けた地域団体として「グリーンEVバッテリーネットワーク福岡(GBNet福岡)」を設立した。自動車メーカ、リユース・リサイクル事業者、金融機関等17社と公益団体等が参加し、日本総研も加わっている。
 同団体では、EV電池の循環利用を進めるために、中古EVの利用促進、EVから取り外した電池を用いた他用途向けリユース電池製造、さらに、自治体を起点として大規模な地域利用を促進する。地域利用が進めば、災害対策が進むだけでなく、電池が将来の資源として蓄積され、地域での電池製造時に利用可能となる。これにより、福岡県はEV電池の生産と循環の拠点となることを目指す。
 こうした地域での循環利用の仕組みは下記に示す「スマートユース」というコンセプトによって生み出されたもので、福岡県による地域発の取組みが進めば、今後全国への発展が期待される。

 スマートユースとは、日本総研が提唱するコンセプトで、サーキュラーエコノミーを利用者起点で促進する取組みである。
 従来、3Rの時代には、発生した廃棄物をいかにリサイクルするかが重視され、拡大生産者責任の考え方に基づいて生産者がリサイクルを推進することが多かった。しかし、その費用負担は大きく、積極的なリサイクルは進みにくかった。
 これに対し、サーキュラーエコノミーでは、いかに廃棄物を出さないように中古利用、リユース・リサイクルによる循環利用を促進し、製品と資源の利用価値を最大化することを目指す。スマートユースは、計測制御・分析評価等のDX技術等を活用して、利用者が中古製品や資源を積極的に「賢く利用」するのを促進する。例えば、中古EVは電池の残存性能への不安があり、リユース電池は安全性に対する不安がある。こうした不安に対応するためには、電池の性能や安全性を把握して、利用者が納得できる適切な管理や情報提供、保証などを行う必要がある。利用者の安心を確保し、利用側からサーキュラーエコノミーを促進するのがスマートユースである。

 こうした取組みは、新たな市場を創出する起点となる。大量生産大量廃棄によって失われた製品や資源の潜在価値を引き出すことで、経済性を確保しやすいアフターマーケットを創出することができるからである。特に、EV電池は、技術進化によって年々電池の寿命が長くなっており、初期には10万km走行時に電池残量が70%を下回ることもあったが、現在では90%以上維持できるものも多くなっており、車両として利用が終わった後でも電池の残存性能が高く、潜在市場の価値がより高まる傾向にある。
 しかし、現在、こうした良質な中古EV・電池はほとんどが海外流出している。国内では中古の電池への不安から購入が進まないからである。これらの中古EV・電池の国内での利用を促進して、資源流出の抑制と新市場創出への対策を打つことが急務となっている。
 こうした背景から、弊社ではこの9月に「EV電池スマートユース協議会」を設立して、利用を促進する各種の施策を講じる仕組みを立ち上げる。本協議会では、サーキュラーエコノミーの構築に前向きな企業、省庁・自治体、大学の方々とともに、スマートユースの普及と国内市場創出に向けた活動を推進する。

 EV電池の循環市場は、3Rの時代にはリサイクルのコスト負担が大きい環境対策だったが、サーキュラーエコノミーに転換することで新市場創出する成長産業となる。この際、災害対策や地域産業創出を志向する自治体の市場支援の意義は大きく、今回地域団体が設立された福岡県を起点として全国に展開することが想定される。今後、EV電池スマートユース協議会と地域団体の連携のもと、サステナビリティへの貢献が可能な新たな市場への参入を目指す多くの自治体・企業へのスマートユースの拡大を進めていきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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