オピニオン
介護施設・事業所等における身体拘束廃止・防止の取組推進に向けた調査研究事業
2024年06月13日 石田遥太郎、城岡秀彦、岩附愛子、石塚真実、益田健甫
*本事業は、令和5年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。
1.事業の背景・目的
2000年の介護保険法施行前、介護施設・事業所等では、転倒しないようにベッドや車椅子に手足を紐で縛り付ける、自分の意思で開けることのできない居室に隔離する、といった身体拘束が広く行われていた。そのような状況を改善するため、2001年に、厚生労働省が「身体拘束ゼロへの手引き」を作成し、介護施設・事業所等に広く展開した。この手引きには、身体拘束廃止・防止のポイントや緊急やむを得ない場合の対応、身体拘束ゼロに取り組む施設事例などが掲載されており、さまざまな介護事業所において、現在でも広く活用されている。
しかし、「身体拘束ゼロへの手引き」が作成されてから、20年以上が経過しており、当時から、認知症高齢者の増加、在宅介護へのシフト、介護人材不足等、介護施設・事業所等を取り巻く環境が大きく変化している。本事業では、「身体拘束ゼロへの手引き」を現状に応じて見直し、新たな手引き案を作成した。
2.事業の概要
まず、「身体拘束ゼロへの手引き」において見直すべき点を明らかにするために、「身体拘束ゼロへの手引き」の作成に関与した有識者、および身体拘束関連分野の有識者に対するヒアリング調査を行った。次に、身体拘束廃止・防止に関して先進的な取り組みを行っている介護施設・事業所、および認知症の高齢者およびその家族を対象としたヒアリング調査を行った。これらの結果に基づき、身体拘束廃止・防止に係る有識者、介護関連団体、専門職団体、当事者団体、法曹関係者からなる「身体拘束廃止・防止の取組推進に向けた検討委員会」を立ち上げ、新たな手引き案である「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」を作成した。
3.事業の成果
「身体拘束ゼロへの手引き」にはない新規内容として、下記の3点を新たな手引き案に盛り込んだ。
①本人の尊厳の保持
本人に関わる支援者(家族や関係者・関係機関等)が、本人の尊厳の保持に関する共通認識を持つことが、身体拘束廃止・防止の取り組みの前提となることを明記した。
②在宅における身体拘束廃止・防止のポイント
在宅において身体拘束廃止・防止を進めるためには、本人に関わる支援者間での協議体制を整えること、そして家族に対する支援を行うことが重要となることを記載した。
③身体拘束廃止・防止に取り組んだ具体的事例
施設介護および在宅介護において、身体拘束をしないための工夫を行った事例や、身体拘束を解除して本来の生活に戻ることができた事例を掲載した。
4.今後の課題
本事業で作成した手引き案は、身体拘束廃止・防止の理念・考え方を中心に記載したものであり、身体拘束廃止・防止に向けて具体的に取り組むべきケア等の実践的な内容にまでは十分踏み込めていない部分がある。身体拘束廃止・防止のさらなる促進に向けては、身体拘束廃止・防止に実際に取り組んだ介護施設・事業所等の具体的な実践プロセスや、介護施設・事業所等が具体的に取り組むべき事項等が整理された汎用的な研修教材を作成・展開する等が必要である。
※本調査研究事業の詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
報告書
【本件に関するお問い合わせ】
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 石田遥太郎
E-mail:ishida.yotaro@jri.co.jp