オピニオン
介護保険施設等における事故報告に関する調査研究事業
2024年06月12日 石田遥太郎、板花俊希、小林綾香、城岡秀彦、益田健甫
*本事業は、令和5年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。
1.事業の背景・目的
介護事業所において転倒等の事故が発生した場合、介護事業所は自治体に対して事故報告を行うことが定められている。介護事業所からの事故報告により収集した事故情報を、国や自治体が活用することによって、介護事業所における事故発生の防止と発生時の適切な対応(リスクマネジメント)の強化につながると考えられる。本事業では、事故報告の受付や事故情報の収集・分析・活用における課題、介護事業所のリスクマネジメント強化に向けた国や自治体に求められる役割、国による支援策の方向性を検討した。
2.事業の概要
自治体および介護事業者に対し、事故報告の提出・受付や事故情報の収集・分析・活用における課題についてヒアリング調査を行った。調査結果を踏まえて、介護事業所のリスクマネジメント強化に向け、事故報告の一連のプロセスにおいて国・自治体に求められる役割を検討した。さらに、事故情報の分析・活用の促進に関して、国による支援策の方向性を検討した。
3.事業の成果
自治体における課題として、介護事業所から受領した事故報告情報の集計作業の負担や、事故報告分析における専門的なノウハウ不足が確認された。介護事業所における課題として、事故報告作成・提出における作業負担に加えて、ヒヤリ・ハットおよび事故情報の集計・分析、原因分析・未然防止、再発防止策検討におけるノウハウの不足が確認された。
これらの課題を踏まえ、有識者検討委員会を通じて、国・自治体に求められる役割や支援施策の方向性を検討した。委員会では、国に求められる役割として、一元的な事故報告受付や事故情報の管理、リスクマネジメント強化に関するノウハウや事例を、自治体および介護事業者に提供することが挙げられた。また、自治体に求められる役割としては、事故に対する原因分析や再発防止などの研修の実施や、介護事業者間でノウハウの共有ができる場づくりが挙げられた。
4.今後の課題
事故報告において国・自治体に求められる役割については、一定の整理をすることができたが、今後は、具体的な支援施策に落とし込むための検討が求められる。
今後、国主導で事故報告のオンライン化が進められる可能性があり、その場合は国が事故情報を一元管理し、データベース化を進めていくこととなる。事故情報のデータベース化のために、国においては、収集される事故情報の標準化の観点から、厚生労働省の令和3年3月 19 日付通知(介護保険介護事業所等における事故の報告様式等)において示された事故報告様式のさらなる普及促進を図る必要がある。また、事故報告のどのような項目や情報が、介護事業所の事故の未然防止や再発防止において有用であるか、収集項目や集計・分析の切り口について、引き続き検討する必要がある。また、自治体においても、今後、管内の事業所に対する具体的なリスクマネジメント強化支援施策を検討するために、事業所のリスクマネジメントの実施状況や、事故発生時の原因分析、再発防止策の検討状況について、より詳細に把握する必要がある。
※本調査研究事業の詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
報告書
【本件に関するお問い合わせ】
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 石田遥太郎
E-mail:ishida.yotaro@jri.co.jp