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【農業】
拡大する若者の雇用による新規就農

2021年03月09日 蜂屋勝弘


新規就農の主流は依然自営農業に就く高齢者
 農家の高齢化を受け、高齢農家の持つ優れた生産ノウハウを受け継ぐ次世代の育成が喫緊の課題となっています。現在、仕事として主に自営農業に従事している基幹的農業従事者のず平均年齢は67.8歳(注1)、雇用者を含む農業就業者全体でも62.1歳(注2)であり、全産業の就業者の平均(46.9歳、注2)を大きく上回っています。

 毎年の新規就農者は、ここ数年5~6万人程度で推移しており、2018年には5.6万人が新たに就農しました。就農形態別・年齢別にみると、自営農業に就く60歳以上が新規就農者全体の約半数を占めています(図表1)。このことから、新規就農者の多くが農家出身で、若年・壮年期に農業以外の職に一旦就き、定年退職の前後に実家の農業に本格的に携わるという旧来からのルートが、依然として主流であることが読み取れます。こうした新規自営農業就農者であれば、親の背を見て育ち、他産業で働いていた若年・壮年期においても、休日や農繁期などに家業を手伝うことで、一定程度の生産ノウハウや経営ノウハウなどを受け継いでいることが多い一方、後継者がいないために農地や生産ノウハウを継承できない農家も多くみられます。

図表1


非農家出身の若年層による雇用就農が拡大
 こうしたなか、近年、非農家出身者の雇用による新規就農の割合が拡大しています。非農家出身者が農業法人等に就職する新規雇用就農の割合は14.4%(2018年)と、5年間で2.8%ポイント上昇しています。この傾向は、若年の新規就農でより顕著です。29歳以下の新規就農者を就農形態別にみると、非農家出身の新規雇用就農者の割合は、44.7%と半分弱を占め、5年前に比べて14.4%ポイントも上昇しています。この背景として、(1)農地集積や6次産業化などに伴う経営規模の拡大や、(2)農業法人などの組織経営体の増加、といった生産現場の変化が考えられます。

図表2


雇用就農者の拡大・定着に向けて
 新規就農では、とりわけ非農家出身者の場合、まずは、農業法人などに就職し、生産ノウハウや経営ノウハウなどを習得しておくことが、将来的に起業・独立するうえでも有益です。次世代の育成に向けて、農業を志す若者がスムーズに就職し、生産ノウハウや経営ノウハウを習得し、将来にわたって仕事を継続できるよう以下のような取り組みへの注力が求められます。

(1)職場環境の整備
気象の影響を大きく受ける農産物の生産現場といえども、労働時間の管理や休日・休憩をしっかりと確保することが求められます。加えて、給与体系の明確化、福利厚生の充実、キャリアパスの提示といった他産業と同様の職場環境を整えることも、就職先としての魅力を高めるには重要です。

(2)ロボットやIoTの活用で脱「3K」
 農作業はともすれば、「3K(きつい、きたない、きけん)」作業とみられがちで、それが新規就農の増加を阻む障壁の一つになっています。そこで、自走式の農機などのロボットを活用すれば、「3K」作業の軽減・解消にもつなげることができます。また、通信機器やセンサーなどを活用し、熟練農家の生産ノウハウを気象や土壌のデータと関連付けてデータベース化すれば、熟練農家の経験と勘頼みだった地域ごとに最適な生産ノウハウなどを従業員間で共有したり、次世代へも容易に継承したりできると期待されます。さらに、販売時に栽培方法や鮮度などの情報を付加価値として消費者に伝えれば、売上増、ひいては所得増加につながり、新規就農者の定着の追い風になると考えられます。

 農業の衰退は、地方の経済の地盤沈下をもたらすだけでなく、農地の荒廃や生産技術の喪失などを通じて、わが国の食料安全保障を揺るがしかねません。以上のような取り組みを目指す農家を行政や地域が支援するなど、次世代の生産者を地域ぐるみで育てていくことが大切です。

(注1)2020年、農林水産省「農林業センサス」
(注2)2015年、総務省「国勢調査」、農業就業者の平均年齢は農業・林業の数字
  
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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
 
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