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介護人材の働き方の実態及び働き方の意向等に関する調査研究事業

2018年04月10日 福田隆士高橋光進


*本事業は、平成29年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.目的
 介護従事者の働き方等に関しては、先行調査研究等で業務状況等の把握が試みられてきたが、サービス別あるいは職種別等、対象が限定されている調査、業務内容・業務量を主眼とした調査が多く、横断的、網羅的な調査は少ない。本調査研究は、介護業界で従事する方の働き方の実態・意向を幅広く把握するための調査・検討を行うことを目的とした。働き方・業務内容の把握を行うことに加え、今後の働き方に関する意向・希望についても把握することで、将来を考慮した施策の検討等の基礎資料となるように配慮し、調査の実施・分析に際しては、介護人材の特性(女性比率が高い、非常勤職員が多い、シニア人材が多い等)を踏まえて検討を行った。本調査研究の結果は今後の介護人材確保策の検討や需給推計への活用が想定されることから、今後の対策が検討しやすい単位での調査・分析に留意した。

2.調査実施対象
 本調査の主対象は介護従事者の実態把握であるが、勤務先である事業所・施設の従事者向けの取り組みの把握が必要と考え、事業所・施設も調査対象とした。
 加えて、介護人材の確保について検討するうえでは、現に介護に従事している人材だけではなく、今後の流入可能性等を考慮すべきと考え、介護福祉士養成施設の学生、以前は介護業界で従事していた人材、介護業界での従事経験はないが介護の資格は有している人材が業界に従事したことがない人材も対象とした。以前は介護業界で従事していた人材、介護業界での従事経験はないが介護の資格は有している人材については、介護業界の潜在人材として同じ調査対象とした。
 また、今後の自宅での家族介護の状況変化が介護人材の需給や人材要件の変化に影響する面も考慮し、インフォーマルケアの実態についても調査対象とした。
 以上の考え方に基づき、本調査研究では以下の5つを対象に調査を実施した。
 ①事業所・施設調査
 ②介護従事者調査
 ③潜在人材調査
 ④介護福祉士養成施設の学生向け調査
 ⑤インフォーマルケア調査

3.主な調査結果

①事業所・施設調査
・サービス類型や雇用形態によって多少の差はあるが、全般的に多くの介護事業所・施設が人手不足と認識している。訪問介護員に関しては、特に「非正規」人材に不足を感じている傾向がみられる。
・人材の定着率については多くの事業所・施設が比較的肯定的な自己評価をしている一方で、採用に関してはサービス類型や雇用形態によって多少の差はあるが、採用を行っている事業所・施設の7~8割程度が苦戦していると感じている。
・中途採用時の際の要件については、訪問系以外は、資格は問わない割合が多く、また、訪問系を含めても就業経験や年齢は問わないという事業所・施設が多い。

②従事者調査
・業界入職以前の職歴をみると、どのサービス類型においても5割前後は職歴ありで他の業界からの転職者である。福祉系の学校の卒業者は比較的施設系への入職が多い。
・常勤職員で6割程度、非常勤職員で4割程度が何らかのキャリア目標を考えており、具体的目標としては「ケアマネジャー」、「介護の特定分野に関する高度なプロフェッショナル(認知症ケア等)」が多い。ただし、このほかにも多様な目標が挙げられており、目標は一律ではない。
・従事者は「できるだけ長く働き続ける予定」としている割合が全体としては多くなっている(常勤職員で4~5割)。介護福祉士資格保有者に限定した場合傾向がより顕著である(どのサービス類型でも5割以上)。
・入職前後のイメージギャップについては、「イメージ通りだった」が多い(常勤職員では4割程度)。施設系では他の類型と比較して「思ったよりも悪かった」がやや大きくなる。入職3年未満の常勤職員では、「思ったよりも良かった」という回答が「思ったよりも悪かった」の回答よりも大きい。
・常勤職員で利用者へのサポートの提供方法の希望としては「複数の介護職で分担を行い、利用者の生活を部分的にサポートしたい」がどのサービス類型でも6~7割程度と多いが、実態として利用者の生活全般のサポートができていると認識している割合は大きい(「非常に出来ている」と「やや出来ている」を合わせて7~8割程度)。利用者の生活全般のサポートができていると感じている方が仕事の満足度がやや高い傾向がある。
・今後の就業地域に関する意向(常勤職員のみ)は、いずれのサービス類型においても「現在の勤務地域」での就業を希望する割合が最も大きい(5割超)。「勤務地域に特にこだわりはない」との回答も2割前後あるが、「現在の勤務地域よりも都市部」や「現在の勤務地域よりも地方」という回答は5%未満である。

③潜在人材調査
・現在の職業は、「専業主婦(主夫)」が多い(介護業界で就業経験ありの場合で約34%、なしの場合で約25%)。特に女性の場合は専業主婦が多くなっており、次いでパート、アルバイトが多い。男性に限ると、50代以下では会社員が多く、60代以上は無職が多い。潜在人材のうち、全体の4割程度は現在就業していない状況にある。女性の方が現在働いていない割合が大きく、また、年齢が高い方が働いていない割合が大きい。
・今後の就業意向については、全体の4割程度はすぐにあるいはいずれは介護業界で働きたいという意向がある。男女ともに30代以下では5割以上が少なくともいずれは働きたいとの意向を有しており、男性においては60代以上でも3割近くが就業の意向を有している。
・入職促進施策に対する認識では、就業経験の有無によって、わずかに傾向がみられる。非常に効果があると感じる施策としては「賃金水準を相場や業務負荷などからみて納得感のあるものとする」、「子育ての場合でも安心して働ける環境(保育費補助や事業所内保育所の設置等)を整備している」が上位である。女性・30代は促進策に対する傾向が顕著であり、「時短勤務など、職員の勤務時間帯や時間数等の求職者の希望を反映できる制度を導入する」、「子育ての場合でも安心して働ける環境(保育費補助や事業所内保育所の設置等)を整備している」が大きい。

④介護福祉士養成施設の学生向け調査
・属性としては女性が6割超、年齢は20代以下が8割超であるが、30代、40代も一定数在席している。
・進路としては、就職先が決まっているかによらず多くは高齢者介護の分野の予定・希望している。就業希望あるいは就業予定のサービス類型としては、施設・居住系のサービスが最も多く、いずれの過程でも半数以上となっている。また、法人種別では社会福祉法人を希望する割合がいずれの過程においても最も多い。
・学生においても介護の仕事におけるキャリア目標について、8~9割程度が方向性を考えている。専門性の追求、現場で長く活動する方向で考えている割合が多い。すでに計画・方法を漠然とでも考えている割合は全体で5割以上である。
・将来は高齢者介護分野での就業を希望あるいは検討している学生で、現在の居住地よりも都会・都市部で「働いてもよい」と「ぜひ働きたい」と考える割合は5割を超える。地方部についても「働いてもよい」と「ぜひ働きたい」を合わせると5割以上となる。

⑤インフォーマルケア調査
・家族介護の今後の継続意向は、年代が下がるにつれて継続できるという回答が少なくなる。また、何らかの支援が整えば継続可能と考えている方が4割強存在する。被介護者の要介護が重い場合は継続できるという割合は小さくなる。家族介護を継続するための支援としては、30代以下および40~50代では「介護期間の現金給付」が大きく、60代以上では「緊急時の短期入所(ショートステイ)制度」への期待が大きい。被介護者の要介護度が2以上の場合は、「緊急時の短期入所(ショートステイ)制度」へのニーズが大きくなる。
・認知症がある場合に介護負担は大きく、今後の家族介護の継続意向についても継続できるという割合が小さくなる。
・介護経験を今後活用したいと考える割合も全体で1割程度存在する。

4.考察・提言
 本調査の結果を踏まえた考察・提言は以下の通り。今後も介護人材の確保は難しい状況が続くと思われるが、本調査により明らかにしたような、介護業界を取り巻く人材の意向や考え方等も考慮し、的確なコミュニケーションを図りつつ、多様な人材それぞれに効果的な対応が進められることを期待する。

・安定雇用の実現に向けた官民が一体となった取り組みが必要
・事業所・施設と従事者の人材確保・定着策に関する認識ギャップを縮小するための方策が重要
・従事者のキャリア目標等に応じた対応を進めることが重要
・人材確保には地域ごとの実態把握に基づく対応が重要
・適正な業界イメージの醸成が重要
・業務・役割設計のさらなる模索が必要
・潜在人材への積極的なリーチ策の検討・具体的推進が必要
・介護福祉士養成施設学生向けのキャリアプラン支援が重要

※本調査研究事業の詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
【報告書】

本件に関するお問い合わせ
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 福田隆士
TEL: 03-6833-5201   E-mail: fukuda.t@jri.co.jp
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