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【次世代農業】
次世代農業の“芽” 第5回 急がれる相続未登記農地等への対応

2017年11月28日 蜂屋勝弘


注目される「所有者不明土地」の問題
 近年、災害復旧や街の再開発等に際し、所有者の所在の把握が難しい土地(いわゆる「所有者不明土地」)が問題視されています。これは、相続の発生後に不動産登記が行なわれないまま長期間放置され、その間の相続人の転居や死亡の結果、所有者の確認が困難もしくは長期間を要するなど、土地の利用に支障が生じる問題です。国土交通省が2014年度に行なったサンプル調査をみると、調査対象の登記簿400サンプルのうち、最後に所有権が登記されてから30年~49年経過している登記簿が26.3%あり、50年以上経過している登記簿は19.8%に上ります。実際、数世代にわたって登記が行なわれず、法定相続人が多数に上るケースも多く、こうした場合には、所有者の全体像の把握や所在等の確認にかなりの時間と労力等を要することになり、結果として、再開発等の事業が滞るといった弊害が発生しています。

農地の集積・集約化における「所有者不明土地」の問題
 同様の問題が、農地の集積・集約化の際にも指摘されています。不動産登記は当事者の申請に基づいて任意で行なわれることから、大都市に比べて地価の低い地方で相続時に登記されないまま放置される傾向にあるとみられています。農林水産省の調査をみると、全国の農地のうち、「登記名義人が死亡していることが確認された農地(相続未登記農地)」と「住民基本台帳上ではその生死が確認できず、相続未登記のおそれのある農地(相続未登記のおそれのある農地)」は合計で93.4万haあり、これは全農地の20.8%に相当します。

 こうした相続未登記農地等のうち、相続人が地域にいない等のために遊休農地になっている農地は5.4万ha(相続未登記農地等の6%)あります。残りは相続人のうちの誰かが耕作を継続する等により、今のところ農地として活用されているものの(注1)、今後を展望すると、農家の高齢化が見込まれるなか、リタイヤする際に後継者がいないケースも想定されます。そうした農地を、集積・集約化を推進している農地中間管理機構の活用等によって他の農家が利用する際、相続未登記農地等の場合には、所有権を持つ人の特定や所在の確認、同意に相当の時間と労力等がかかることが見込まれます。そうしたケースでは、農地の集積・集約化が円滑に進まずに遊休農地になるおそれがあり、農地が荒廃しかねません。

「所有者不明土地」問題への対応
 このような「所有者不明土地」問題への対応策として、相続登記を促す取り組みが強化されつつあります。具体的には、法務省・法務局による情報発信や死亡届時における市町村による登記の働きかけが既に行なわれているほか、本年5月には「法定相続情報証明制度」が創設され、相続登記を含む相続時の手続きが簡素化されています。また、税制面からは、来年度税制改正に向けて、登録免許税の軽減措置が要望されています。

 さらに、中長期的な課題として、登記制度や土地所有権のあり方に関するより本質的な議論が求められています。このための研究会が、本年10月に法務省によって立ち上げられ、登記の義務化の是非や土地所有権の放棄の可否などの論点について、民法の考え方との整合性を含む踏み込んだ議論が予定されています。今後、こうした議論を踏まえ、農地を含む「所有者不明土地」問題の抜本的な解決に向けた制度の見直しが進むことが期待されています。

相続未登記農地等の集積・集約化の促進向けた対応策
 こうしたなか、農地については、相続未登記農地等の集積・集約化の促進に向けて、以下のような対応策が検討されています。

 第一は、簡易な手続きで利用権を設定できる制度の創設です。これまでの経緯をみると、相続未登記農地等のような複数人が所有権を有する共有農地を賃貸借する場合、所有者全員の同意が必要でしたが、2009年の法改正(農業経営基盤強化促進法)で要件が緩和され、共有持分の過半を有する者が同意すれば、最大5年間の利用権を設定することが可能になっています。それでもなお、持分権者の全体像の把握や過半の同意を取るため労力等は小さくないことから、一段の緩和に向けて、例えば、固定資産税等を負担するなど事実上その農地を管理している農家等が簡易な手続きで利用権を設定できる制度の検討が求められています。

 第二は、利用権の設定期間の延長です。先述のように、共有持分の過半を有する者が同意すれば、最大5年間の利用権を設定することができますが、これは民法上、処分能力がない者による短期賃貸借の期間が5年以内と定められていることとの見合いによるものです。しかしながら、利用権を更新する際に、その都度改めて所有者の過半の同意を取る等の手続きが必要になるほか、荒廃した農地では一定のレベルの作物を収穫できるまでに土作りを仕上げるのに数年を要するという農業の実際に照らしてみれば、5年という期間は短いとの見方があります。

 第三は、賃貸借時に不明だった共有者が事後的に現れた際の対応です。耕作している農家が長期にわたって安心して耕作を継続できるよう、事後的に現れた共有者との利害調整の仕組みが求められています。

 農地の集積・集約化は、農地の荒廃を防止するだけでなく、農家あたりの経営規模の拡大や多品目生産などを通じて農業の収益力を高める上でも重要な取り組みと言えます。全農地の54.0%(2016年度、注2)が集積・集約化されているもとで、一段の集積・集約化を進めるには、全農地の20.8%を占める相続未登記農地等がカギになるとみられ、対応が急がれます。

(注1)(注2)出所:農林水産省調査


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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