コラム「研究員のココロ」
原価計算の仕組作りのコツ
2006年07月10日 田中 克文
はじめに
最近、コンサルティング先や営業先の製造業のお客様から、「うちは原価計算ができていない。製品がいくらでできるかは締めてみないとわからない。儲かると思ったら、思っていたほど儲からなかったり、ひどいときは赤字になっている」と聞かされる時があります。原因はいくつがありますが、
・原材料の単価などが改訂されず、古い単価で計算している
・労務費など原材料以外の費用を製品別に把握していない
・原価は製品群で計算し、製品別で計算していない
など、が主なものです。
また、これまではどんぶり勘定で原価管理をしていても、赤字になるようなことはなく、何とかなっていたのが、デフレが一段落し一部の原材料価格が上昇したり、以前と比較すると製造する品目が多品種となって全品種を見渡せなくなったりしたことなどにより、このような問題が生じてきたと考えられます。そのため、製造業の経営層は精度の高い製品別原価計算の仕組がこれまで以上に必要だと考えるようになってきました。
商社など仕入商品を販売する場合は、“簡単”に売上原価を算出できますが、製造業の場合は、原材料、労務費などそれぞれが複数の要素から構成されているので、それぞれの要素を捉えて合算する必要があり、“簡単”にというわけにはいかないのです。また、原材料単価や労務費は変動するので、その変動をタイムリーに捉える必要もあります。従って、原価を正確に把握し、その状態を維持していくためにはしっかりとした原価計算の仕組を持つことが重要となります。
これから、製品別原価を正確に把握し、その状態を維持していく仕組の作り方のコツについて、お客様の仕組作りを手伝ってきたこれまでの経験から書いていきたいと思います。
原価計算とは
本題に入る前に、原価計算とはどういうものかについて、簡単に触れたいと思います。
原価計算とは、「製品をつくるのにどれほどのコスト(原価)がかかったかを製品別に知るための手法」のことです。コストを計算するので、コストの構成要素は金額で表されます(労働者の疲労感など金額に表れないものは含まれません)。
また、損益の確定、販売価格決定、原価管理など種々の利用目的に役立つ原価情報を提供するために原価計算は行われます。原価計算はそれ自体が目的ではなく、目的を達成するための手段といえます。
製造部門にとって原価計算の一番重要な目的は、的確な原価管理です。的確な原価管理とは、予算など製造前に想定したコストと実際に発生したコストの差異を把握した上で、差異がある場合は差異分析を行い、小さい側に一致するようにすることです。一般的には、実際に発生するコストの方が大きいので想定したコストと一致するようにコストダウン活動を行うことを指します。
原価計算の仕組作りのコツ
製品別原価計算は、納得できる原価を算出でき、かつ維持しやすい仕組が必要となります。これから、それを実現するコツを挙げていきます。
・納得感のある原価計算を行う
原価を使う人が納得感を持つ、つまり金額表示されている原価を“正しい”あるいは“ほぼ正しい”と認識する、必要があります。納得感がないと折角算出しても、活用されません。それでは、意味がなくなってしまいます。納得感のある原価を算出するためには、製造プロセス(業務プロセス)と原価要素の整合性をとることが大事です。重量基準など何らかの基準で配賦する必要がある場合(例えば、多台持ちをしている技術者の労務費など)、製造プロセスとの整合性に特に気をつける必要があります。
・部品構成表(BOM)を整備する
製品は原材料や部品から何段階かの中間品や仕掛品を経て出来上がります。原価を精度よく計算するためには、中間品、仕掛品がそれぞれ識別され、原価情報を持つ必要があります。そのためには、部品構成表(BOM)を整備して実態を正確に表せるようにする必要があります。
部品構成表の整備と同時に、原材料、中間品、仕掛品、製品それぞれに使い勝手のよい品目コードを設定すると原価算出のためのデータ連携がやりやすくなります。部品名などコード以外を使用する方法もありますが、データ入力の際の一意性を考慮すると品目コードが必要になります。
・手間のかからない仕組とする
入力や算出に手間がかかる仕組の場合、タイムリーにデータが集まらなかったり、長続きしなかったりすることがよくあります。それを防ぐためには、バーコードシステムを活用したり、データの二重入力を回避するなど、手間がかからない仕組にすることが重要です。
・データの入力は発生場所で行う
製品別原価計算を的確に行うためには、多くのデータを収集する必要があります。原価管理の担当部署が集中してデータ入力する場合もありますが、その場合、不整合がある場合には発生部門に問い合わせるなど、原価の算出に至るまでに手間がかかってしまいます。従って、生産部門などデータが発生する部門で入力を行うと効率的に収集できます。
・既存の仕組・データを出来る限り活用する
長期間、生産活動を行っている製造部門の場合、様々なデータが生産管理システムや個人管理のパソコンの中に存在しています。既存データが存在する場合、新たにデータ採取の仕組を作るのではなく、既存のデータの仕組を活用すると、仕組作りの手間が省けるだけでなく、データを入力する担当者の拒否感も小さくなるので、仕組導入をスムーズに行うことができます。また、紙ベースのデータの場合であっても、それをデータ入力して活用する方法も有効です。
・最初から完璧を目指さない
製品別原価計算を教科書の通りに実現させ、初めから高精度な仕組にすると、作り上げるまでに手間と時間がかかってしまいます。却って、そこまで精度を上げても、それに見合った活用がされないのがほとんどです。それよりは、開始時点では100点ではなく、80点くらいの精度で妥協し、早めに仕組を立ち上げ、その後徐々に精度を上げていくと長続きしやすくなります。実際、原価が算出されるようになり、しばらく経つと開始時点にはなかったデータを採取したくなるものです。その要望に適応しながら精度をあげていけばよいと思います。
従って、最初から大掛かりな原価管理システムは導入せずに、開始段階ではEXCELあるいはACCESSで管理を行い、精度向上の取組に目処が立ち、仕組が固まった時点で原価管理システムを導入することが原価管理の仕組導入の負荷面でもコスト面でも有利になります。
おわりに
デフレが一段落し一部の原材料が上昇したり、多品種生産をせざるを得ない現状において、利益の最大化を計るためには製品別原価を把握した上で、原価管理を的確に行う必要があります。第一歩は、製品別原価計算の仕組作りを行うことです。実際に仕組作りを行う場合、納得感のある原価を算出でき、しかも維持しやすい仕組にする必要があります。製品別原価計算の仕組と聞くと、導入と維持に手間がかかりそうですが、これまで書いてきたコツを押さえることができれば、長続きさせることができます。繰り返しになりますが、原価計算は原価管理などの手段であり目的ではありませんので、維持管理のしやすい仕組を構築することが重要です。
以上