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コラム「研究員のココロ」

個人消費の新たな担い手 男性マーケットに注目

2005年09月16日 野田 京治


 本年上半期(平成17年1-6月)」の死亡数が遂に出生数を上回り、人口自然減現象が予測より1年超も前倒しで現実のものとなってきています。
 また、先ごろ厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所がまとめた「都道府県別世帯数の将来推計」によりますと、20年後の2025年には、世帯主を65歳以上とする高齢世帯が全世帯の4割弱(37.1%)を占めることになり、加えて、一人暮らしの世帯の割合も全世帯の34%に達するという見通しです。

 この急速に進みつつある「世帯の高齢化と小規模化(単身世帯の増加も含めて)」は、少子化と団塊の世代の高齢化や、非婚・晩婚化の進行、世代間同居の減少(核家族化)などがその背景にあると考えられます。

 これら少子高齢化・人口減少・単身世帯の増加の流れは、とかく今後の経済規模・個人消費の量的縮小に繋がり、悲観論一色にとられがちです。
 しかし、これらの社会現象の中で、今後確実に増えると思われるものは、「男性の自由裁量消費」です。

 現在60歳台後半から70歳代以上の男性の多くは財布の紐を女性に握られ、ファッショングッズや身の回り品の多くを自ら選択する経験がやや乏しいという世代です。
 スーツから下着まで妻が揃えたものをお仕着せ同然でも喜んで身につけ、決して厭わないという価値観の持ち主も少なくありません。
 服飾関連品や家庭用品についての購買実行権と購買決定権は、女性にほぼ完全に掌握されているといえます。

 だからこそ、百貨店や大型SCでの購入者の80%超が女性であり、また家庭内のワードローブ、クローゼット(衣装棚)、シューケースなどの収納スペースにおける男女占有比(シェアー)は、常に凡そ2:8あるいは3:7で女性が圧倒的優位に立つことが維持されてきました。
 しかし、団塊世代やそれに続く世代の男性は前世代とはやや異なります。
 独自のファッションスタイルへのこだわりや趣味・嗜好を鮮明に主張しますし、服飾品については常に自ら主体的に選択し購入する習慣が普通になってきています。
 1960年代後半のアイビールックやピーコック革命の洗礼も受けていますので、ファッションへの関心度も相対的に高く、女性同様にショッピング自体が享楽であると積極的に受け止める男性も少なくありません。

 この団塊世代の男性が、いよいよ子女の教育投資も終了し住宅ローンの負担も軽減されつつ定年を迎えます(何らかの雇用延長はあるとしても)。
 ファッション、ホビー、レジャー・旅行のマーケットの中で、かつてニューファミリーとも呼ばれた団塊世代が再び最前線で脚光を浴びるかの勢いで注目を浴びようとしています。

 一方、団塊ジュニアをはじめとして男性若年世代も、非婚・晩婚化の結果として女性に財布の紐を握られる機会が少なくなり、自由裁量消費を自律的かつ充分に謳歌できる割合が増えてきています。

 これまで小売・流通業界では、消費・買物の主役は常に女性(主婦)であり、男性は脇役というのが常識でした。
 百貨店においては、アクセスの良い1~3階は全てレディース向けブランド・ブティックや女性服飾ショップが占め、紳士ものはせいぜい4階以上に設けられるか、 それも改装のたびに縮小させられるのが通例でした。
 催事場でも紳士もののスペースは申し訳程度で、主婦が自らの買い物出費の贖罪のためについでに買っていく紳士向け商品を並べておけばいいとの感覚もありました。

 でも状況は確実に変わってきています。その証しは男性ファッション雑誌の急増にも見てとれます。
 未だ女性向けファッション雑誌の種類数や発行数には及びませんが、男性ファッション雑誌や、特撰品ガイダンス専門誌が次々と新規に発行され購読数も増加しています。
 特撰品として取り上げられるのはそれぞれ男性に人気の高い「時計」、「靴(くつ)」、「鞄(かばん)」の銘品です。いかにも購買意欲をそそるような専門商品カタログの機能を果たしています。
 一昨年の秋にリニューアルした伊勢丹本店メンズ館が好調を持続していることや、他の紳士専門店が堅調であることも決して一過性のものではないような気がします。

 働く女性の増加や、女性の社会進出の進行と相まって、家庭内においても家事および育児の夫婦分担が極めて自然のことになってきました。
 家事、育児はもはや女性・主婦の専管事項ではなく、時と処によってはむしろ男性主夫スタイルもすでに出現しています。

 それだけ男女の垣根がなくなってきているといえますし、このことはこれまで女性優位のマーケットであった「化粧品」、「エステ」、「料理・グルメ」の分野でも、今後今まで以上に男性顧客の消費需要が拡大してくるものと予想されます。

 「男もすなる日記というものを女もしてみむとてするなり。」で始まる土佐日記はわが国最初の仮名文字日記として有名です。
 実際の作者は男性の紀貫之で、女性に仮託して書き綴ったわけですが、その後の数々の女流歌人による日記文学(蜻蛉日記、和泉式部日記、紫式部日記など)が輩出する貴重なきっかけになりました。

 これまでとかく脇役でしかなかった男性顧客の購買喚起のためには、さしずめ「女もすなる○○というものを男もしてみんとてするなり」というキャッチコピーが適当かもしれません。
 同時に、インターネット販売やeマーケットが拡大していく中で、百貨店、大型SC、あるいは専門店などの従来型商業施設が、男性顧客を対象とした「買い場づくり」、「潜在顧客の掘り起こし」、「顧客管理」にどのような対策を講じていくかが、勢力拡大の鍵といえます。
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