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コラム「研究員のココロ」

公共サービス提供におけるパートナーシップ
~ 財団法人北海道市町村振興協会 委託調査「これからの公共サービス提供のあり方研究」の成果と、それを踏まえた考察 ~ (前編)

2005年08月29日 矢ヶ崎紀子


「これからの公共サービス提供のあり方研究」

 日本総研では、平成15~16年度の2年間にわたって、財団法人北海道市町村振興協会の委託を受け、「これからの公共サービス提供のあり方に関する調査研究」(注1)を行いました。
 この調査研究の主題は、地域の多様な主体間によるパートナーシップという手法を用いて、その地域のニーズに合致した価値の高い公共サービス提供を可能にしていこうということです。
 調査研究は、全国の先進事例分析を丁寧に行いながら、北海道の地域経営の現場を担っている市町村職員を中心に、自治体での日々の業務と直結した形でのディスカッションを積み重ねていき、その成果を、「パートナーシップの実践」という報告書にまとめました。
(こちらをご参照下さい。http://www.do-shinko.or.jp/report.html


アプリケーションの整理ではなく、OSとしての普遍的な仕組みへの志向

 研究会は、2年間にわたって、ほぼ毎月開催されました。特に、2年目は、研究会のなかにワーキンググループを組成して、ここでの合宿検討会を経てドラフトにされたものを、本研究会でさらにたたき上げていくという構成にしました。受託したシンクタンクとしては大変な作業量でしたが、実に達成感のあるディスカッションを積み重ねることができました。そうした経緯を経てきたことを、座長の宮脇教授が、報告書の巻頭に、以下のような文章で表現して下さっています。
<…(前段省略)。今回の検討に当たって、メンバーは「アプリケーション」の整理ではなく、「OS」すなわち普遍的仕組みへの思考を常に問いかけ続けました。たとえば、「パートナーシップ」の意味は何かの掘り下げです。「パートナーシップ」は、決して新しい言葉ではありません。それでは、今、求められている「パートナーシップ」とこれまでの「パートナーシップ」とは何が違うのか。こうした基本的議論を常に繰り返しました。行き着いた答えは、従来のパートナーシップは「行政は指示する人、住民は作業する人」、これから求められるパートナーシップは「行政と住民が共に考え共に行動すること」です。行政と住民が共に考え共に行動するには、何が必要か。共に必要な情報を持ち「普通の言葉」で語り合い互いに学習することです。行政は公共サービスを提供する人、住民は公共サービスを求める人と区分けして考えたのでは、共に考え共に行動することにはなりません。そして、普通の言葉で語り合うためには、行政も住民も今までの行動様式そしてお互いの関係を変革していくことが必要です。この点にメンバーは挑戦し続けました。…(後段省略)。>

(「パートナーシップの実践」の「はじめに」より抜粋)


パートナーシップとは?

 さて、ここからは、「パートナーシップの実践」報告書の内容をご紹介します。まず、本調査研究のOS部分であった「パートナーシップとは何か?」です。
 パートナーシップの定義は、本調査研究においては、「住民、地縁組織、NPO等市民団体、企業、経済団体、行政等の異なる主体が、よりよい公共サービスを提供するという共通の目的のために、お互いの資源を協働・連携させて、公共サービスの企画・実施・評価を行うこと」としています。

(協働とパートナーシップ)
 こうした内容を表現するために「協働」という言葉もよく使われていますが、本調査研究では、「パートナーシップ」という言葉にこだわりました。その理由は、以下の2つです。
理由1:
企業等経済主体も地域経営の主体であることを表すため
パートナーシップや協働についての統一的な定義がないことから、様々な意見があろうかと思いますが、「協働」という言葉は、比較的、行政と住民、行政とNPOの関係の一つのあり方を表現するために使われる傾向があると思います。本調査研究では、地域経営の主体の一つである企業等の経済主体との関係も十分に視野に入れたかったことから、「パートナーシップ」という言葉を使った次第です。
理由2:
公共サービスという責任重大なサービスの提供には、「契約」の概念が重要であることを示唆するため
公共サービスには水道事業等のライフラインに関わるものから、道路や公園等の身近な公共施設の清掃まで、様々なものがあります。「協働」という言葉は、どちらかと言うと、“身近な”公共サービスの提供を住民や住民組織が主体的に行うことに用いられてきた傾向があります。こうした公共サービスにおける「協働」には、契約という行為が発生する場合は少なく、「地域のことはみんなでやろう!」という意識に基づいた共同作業です。
 もちろん、こういったタイプの公共サービスも重要ですが、本調査研究では、これに加えて、専門性の高いNPO、組織の熟度を高めた地縁系組織、企業等の経済主体が契約に基づいて公共サービスを提供することまでを視野に入れたかったことから、パートナーシップという表現を用いています。
 パートナーシップのわかりやすい例として夫婦の関係を挙げる場合があります。キリスト教徒でない人々にはわかり難いことですが、聖書の世界において、結婚は契約行為です。しかし、毎日の生活のことですから、いつも“契約関係にある”ことを意識しているわけではありません。時にはビジネスライクに権利義務関係を明確にしてお互いの要望を主張しあうことがあっても、日常的には信頼関係に基づいて物事が進んでいきます。夫婦関係を素材にパートナーシップの本質を探ってみるのは、なかなか含蓄の深いことだと思われませんか?
(事業委託とパートナーシップ)
 事業委託やアウトソーシングという方法と、パートナーシップという方法は混同されやすいものです。特に、契約行為を伴うパートナーシップの場合には、その形式が事業委託と変わらないため(注2)、現場の行政職員にとっては、なかなか意識の切り替えを行うことが難しいものと思われます。理解しやすくするために端的に言ってしまえば、事業委託は、行政が指示し、民間が指示された内容にそって効率的に実施するという“タテの関係”です。タテの関係だからこそ、コスト削減、迅速さ等の効率性が追求できるとも言えます。
 一方、パートナーシップは、基本的には、対等な“ヨコの関係”です。住民、様々な住民組織、公益法人、企業や経済団体、農林水産業や商業の従事者、そして、行政が対等な関係で、地域の課題発見の段階から協力し、公共サービスの企画・実施・評価の各段階にわたって共に創り上げていくことがパートナーシップの主眼です。


“ヨコの関係”と“タテの関係”によって、地域経営という“タペストリー”が織り上げられていく

 もちろん、パートナーシップという手法だけで公共サービスの全てを提供できるわけではなく、行政の直営、行政組織間の広域連携、そして、事業委託や第三セクター方式等のこれまでの手法も用いながら、それにパートナーシップという手法を追加していこうとするものです。言うなれば、これまで“タテの関係”が主であった公共サービス提供に、地域の多様な主体の“ヨコの関係”を加えていくことによって、足腰の強い布が織り上げられ、それに地域特性という色彩が加えられて、その地域独自の地域経営というタペストリーが生まれていく…というイメージでしょうか。
 縦糸の部分については、これまでも、行財政改革の推進のもと、コスト削減のために事業の縮小や外部委託等が図られてきました。自治体の財政状況からするとまだ十分な成果が上がっていないところがあるとは言え、縦糸は徐々にスリム化し強靭になってきています。ですから、今、パートナーシップという手法に注目する意義は、ここにあります。すなわち、パートナーシップとは、これまで弱かった横糸を強固なものにしていく手法なのです。


パートナーシップという手法の目標は、地域価値の創造

 パートナーシップという手法を公共サービス提供に加えることによって、公共サービス提供に資する様々な資源が発見され、開発されていくことが期待できます。これまで公共サービス提供は行政の仕事だと見なしてサービスの受け手に甘んじていた住民や企業等経済団体が、自分達も公共サービスの担い手となることができるとの意識を高めたとき、行政だけでは実現できない公共サービスのニーズの発見と優先順位付け、そして、新しい公共サービス提供の資源と仕組みが開発されていきます。また、パートナーシップを形成するプロセスにおいて、パートナー同士あるいはそれを取り巻くステークホルダーの間に信頼関係が醸成されていき、これが、次のパートナーシップを生んでいく土壌となっていきます。
 こうしたダイナミズムを可能にするパートナーシップという手法を用いることによって、公共サービスの維持や質の向上を図るとともに、住民や企業等の活動の領域が広がり、新しいサービスや地域活性化への活動が生まれる可能性が高まります。これこそが、「課題解決力の高い(地域課題を早期発見する力があり、課題解決のための選択肢を豊かに組み立てられる)地域社会」という地域の価値を創造する行為なのです。
 近年の行財政改革の現場をみていると、コスト削減に邁進するあまり、地域の活力を削いでしまう懸念が生じています。コスト削減によって短期的な成果を出すことも重要ですが、それが行き過ぎて地域の基礎体力そのものを弱らせてしまっては本末転倒です。今こそ、縮小均衡を目指した手法に、地域社会の活力を削がずに元気の源を拡充する手法を加えた、両輪の施策が必要なのです。なお、ここで留意しなければならないのは、これまで地域の活力というと経済力のことのように思われてきましたが、ここで言う活力とは、カネにとどまらず、地元の住民や企業等の“やる気”であり、知恵と創意工夫であり、その地域特有の資源の活用だということです。

(後編に続く)


(注1)
有識者、道庁職員、道内市町村職員による研究会を組成。研究会座長は、北海道大学公共政策大学院 院長・教授 宮脇 淳氏、副座長は、札幌学院大学大学院地域社会マネジメント研究科 教授 河西 邦人氏。

(注2)
ただし、パートナーシップの先進自治体である埼玉県志木市では、パートナーシップで公共サービス提供を行う際には、事業委託とともに、「パートナーシップ協定」が締結されています。この協定によって、タテの指示関係になりがちな事業委託の特性を緩和し、企画段階から実施段階にわたって、お互いに建設的な提案をし合い、よりよいサービスへの改善を図っていく努力をすることが約束されています。
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