コラム「研究員のココロ」
現場技術者の人事評価
2004年08月30日 西條收
1.現場技術者の評価が問題に
最近現場技術者の人事評価についてご相談を受けることが多い。ここでいう現場技術者とは、建設業などにおける現場工事のリーダーとして現場を指揮している技術者、コンピュータシステム保守やコンサルティングを現場で行なう技術者等を指している。
2.現場技術者はどんな状況にあるか
これらの現場技術者に共通的な状況は以下の通りである。
- 現場が分散し、しかも管理職者は常に現場に詰めているわけではないので、労働実態の把握が困難であること
- 受注産業であるため、仕事を受注する都度個々の「能力」よりも「仕事の空き」状況により仕事が配分される。仕事には「儲かる仕事」「儲からない仕事」がある
- さらに仕事そのものの「難易度」の問題がある。「能力の高い者」が「難易度の高い仕事」をやるとは限らない。やはり「仕事の空き」状況によって仕事が配分されざるをえないからである
- その他、「赤字でも受注せざるをえない仕事」「損益が仕事の完了時点で初めて確定する」「工期が1年を超える」など
上記の状況で人事評価をどのように実施していけばよいのか。各社とも悩んでいる点である。
3.人事評価上の主要問題点
現在の人事評価は、目標管理制度とリンクした「目標達成度評価」、目標管理以外の業務成果を評価する「役割遂行度評価」、プロセスを評価する「コンピテンシー評価」という構成が一般的になってきている。特に「目標達成度評価」にウェイトをおいた評価にしたい、というのが経営者のご要望である。これらの仕組みを適用する上でどのような点で問題があるのだろうか。
- まず何を目標とすべきかという問題がある。実際に従事した業務量を「こなし金額」とすれば、技術者は直接受注に関与するわけではなく「営業が持ってきた仕事をこなす」だけに過ぎないから、「期初にこなし金額の目標を設定する」というのは難しい。「確保した工事の利益額」についても同様のことが云える
- また工期が1年を超えると、通常の人事評価対象期間の設定では間に合わない。個人 の「こなし金額」を完工基準で計上すると、極端に言うと「こなしゼロ」ということもありうるという問題が発生する
- その他「役割遂行度評価≒施工管理評価」「コンピテンシー評価」を誰がどう行動を把握し評価するか、などの問題がある
4.人事評価上の問題点解決のためのいくつかの視点
過去のコンサルティング事例から、上記の諸問題の解決のためのいくつか視点を整理するので、ご参考にしていただきたい。
(1)現場の声をどう採り入れるか
人事評価の成否を決定するのは納得性である。特に現場技術者は実際に現場を仕切っているわけでプライドも高い。それゆえ、現場の声をどう採りいれて制度を作るかが極めて重要と考えられる
(2)成果がでるとはどういうことかの議論が必要
目標管理シートを作成して「あとは現場で」というケースが少なくない。「目標とは何なのか」「成果とは何なのか」を充分議論しておかないと収拾のつかない目標管理になってしまう懸念がある
(3)個人数値の把握ルールの設定
完工基準では個人業績評価基準とマッチしないケースがでてくる。これらは区分し、個人業績評価基準、業績計上方法等について社内ルールを作成する必要がある
(4)バランススコアカードを活用した目標設定
目標設定に当たっては、例えば財務的成果、顧客価値拡大、業務改善・革新、能力開 発といったバランススコアカードの区分に従って目標設定させる、という方法を採りいれてみるのも検討してよいのではないだろうか
(5)役割基準の策定
役割等級制度を採りいれる企業が増加している。この場合に等級ごとの役割基準を作成する必要がある。またこれが人事評価基準にもなる。こうした基準をあいまいにすると「人の評価」に陥る懸念がある
(6)管理職の裁量分の設定
ある会社の担当役員のアイデアであるが「現場技術者は仕事がないときは、したくてもできないわけであり、単純なこなしを評価するのではなくこれらを救済する必要がある。このための特別裁量評価が欲しい」という意見で採り入れたことがある
(7)目標管理の実施対象の絞込み
役割基準とも関係するが、現場リーダーと現場の一技術者とは役割も期待も違う。目標管理は現場リーダーには可能でも一技術者には難しい、などといったケースがあろう。無理に目標管理実施対象を全員とせず、実情に即して絞り込むといった措置も必要であろう
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。