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コラム「研究員のココロ」

経営とコミュニケーション(4)
企業の社会的責任と従業員の社会的責任

2003年10月27日 茅根 知之


1.企業の社会的責任

 企業の社会的責任(Corporate Social Responsibilityの頭文字をとってCSRと呼ばれる)という言葉を耳にする機会が増えてきた。CSRアーカイブス(日本総合研究所・創発戦略センターの運営するCSR関連情報提供サイト。http://www.csrjapan.jp/)では、CSRの定義や範囲は時代とともに移り変わるものだが、従来からの製品やサービスの提供、雇用の創出、税金の納付、メセナ活動、などだけではなく、あらゆるステークホルダーとの良好な関係を大切にし、具体的かつ実効性のある配慮行動をとることの重要性を主張している。従来の社会貢献という視点だけでなく、環境マネジメント、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、など、経営そのものまでを統合して考えることに、CSRの意義がある。
 しかし、このCSRへの取り組みは範囲が広く、その効果が測定しづらいという欠点があるために、環境報告書、サステナビリティ・レポート、などのような制作物が目的になってしまうケースも見られる。もちろん、自社の取り組みを伝えていくコミュニケーション活動は重要ではあるが、その素材である企業自体が改善されなければ意味がない。CSRは企業活動に社会的な活動を付加することではなく、自社の体質そのものを社会的な責任の観点で改善することを求めている。

2.企業の責任と従業員の責任

 企業がこのようなCSRの観点を持つためには、CSRが企業の社会的責任であると同時に、全ての従業員にとっての社会的責任でもあることを忘れてはいけない。
 企業活動は従業員の役割分担によって成立しており、全ての業務には担当者が存在するのが通常である。もちろん、CSRも同様であり、専任もしくはそれに近い役割の担当者が選出され、自社のCSRに対する取り組みを推進していくことになる。しかし、多くの企業における社会貢献活動では、担当者の熱意とそれ以外の従業員との意識には大きなギャップが存在してきた。異なった個人の集合体である企業では、全員の意識を統一することは不可能に近い。だが、CSRとは全社的な取り組みであり、その会社にいる全従業員が積極的に取り組んでいくことが必須である。もちろん、そのための推進役は重要であり、担当者は経営陣と連携して全ての従業員にその重要性を認識させていかなければいけない。CSRを実践するのは、“たまたま選ばれてしまった”担当者ではなく、経営のトップからアルバイトまでを含めた、全ての従業員である。
 しかし多くの従業員にとっては、日常の業務が最優先であり、自分とは直接のつながりが見えない活動に強いモチベーションをもつことは少ないだろう。このことは、環境マネジメントやコンプライアンスなどの全社的な取り組みの中で、同様の現象が多く見られる。どんなに必要な活動であろうとも、それが目の前の課題として認識できなければ、優先度は高くならない。必要なことは、個々人の業務におけるCSRとのつながりを明確に示すことである。自分の業務が社会的にどのような影響があり、どのような社会的責任を果たしているのか、そのためには何をしなければいけないのか、というように“自分の課題として気付かせる”ことが重要なのである。

3.自社を見つめなおすこと

 従業員に自社の社会的責任を自分の課題として気付かせるためには、まず、自社が提供している商品やサービスを見つめなおすことから始めるべきである。企業の大きな目的である利潤追求が社会貢献と相反する概念とみなされるために見失われることが多いが、通常、企業が提供している商品やサービスには何らかの社会貢献的な要素をもちあわせている。商品やサービスは、消費者や顧客のニーズがあるからこそ成立するものであり、市場原理によって常に社会の要請に応え続けている。それらの存在が当たり前になってしまっているために気付かないことが多いが、企業はその本業自体に大きな社会的責任を担っていることを再確認するべきだろう。企業はその中だけで完結するものではなく、社会的なつながりによって成立しているのだ。
 そして、商品やサービスを提供している企業の従業員には、同じだけの責任が存在している。近年、数多くの不祥事が報道されてきた。その中には、何人かの小さなミスが予想以上に大きなものになってしまった、ということもあったであろう。しかし、そのようなミスをしてしまった人たちの中に、自分の業務がどれだけの影響を持つのかを把握していた人が何人いただろうか。役割分担の明確な企業活動の中では、自らの業務に対する責任感が希薄になる傾向がある。だからこそ、自社をもう一度見つめなおすことで、自らの業務の重要性に気付かなければいけない。
 その上に、CSRの視点を組み込むことが必要になる。つまり、自分が携わる商品やサービスはどのように使われており、誰が必要としているのか、その過程でどのような環境負荷があり、それを減らすためには何をしなければいけないのか、そして、その結果として何がよくなるのか、について具体的なイメージを持たせるのである。自分が行動を変えることで、どのような変化があり、誰のためになるのか、そして、それが回りまわって自分にとってどのようなプラスがあるのか、というように自分の果たさなければいけない責任の重要性と利得をストーリーとして理解させていくことが必要である。

4.コミュニケーションから教育へ

 全従業員に自らの社会的責任を重要な課題として認識させるためには、コミュニケーションだけではなく、教育を連動させることが重要になっていく。もちろん、コンプライアンスや環境マネジメントにおいても教育は一つの柱である。しかし残念ながら、これらの教育は“知識の伝達”というコミュニケーションの範疇に留まっていることが多い。全社員にCSRの概念やさまざまな知識を伝えるだけでなく、それを従業員たちが自らの課題として“考え”、そして実践していくための教育が必要になる。それは、知識の伝達だけでなく、考える場を提供し、自らの課題として認識させる、「気付きの教育」である。
 自社の活動を見つめなおし、その社会的な責任を理解すること。そして、社会の要請を把握し自社の社会的責任を果たす実施方法を考えること。知り、考え、そしてそれを実行する、という身体化のプロセスがCSRの実践には不可欠である。自ら知り、考えるからこそ、他人事ではない自分の課題として認識できるようになるのだ。
 CSRとは、“わかりやすい”貢献に目を向ける活動ではなく、自らの生み出してきた価値を再認識した上で、その社会的責任を身体化させる活動である。
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