コラム「研究員のココロ」
三位一体の改革を考える
~地域の財政的な自立が求められる時代へ~
2003年10月06日 入山泰郎
○地方財政の仕組み
いわゆる「骨太の方針第2弾」(「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」、平成14年6月閣議決定)において提唱された「三位一体の改革」は、地方財政の仕組みに関する改革であり、国と地方の財政上の構造を大きく転換することを目指すものである。
現状の地方自治体(都道府県、市町村等)の財源のうち、地方交付税が20.3%、国庫支出金(いわゆる補助金)が14.5%を占める(平成13年度決算)。この二つは国から地方自治体に交付される財源であり、地方の財源の約三分の一は、国が地方に代わって税金を徴収し、地方に分配している構造であると言える。
こうした仕組みは、どの地域も最低限満たすべき基準である「ナショナル・ミニマム」があり、国が達成すべき目標値としてそれを設定し、その実現を目指していた時代には、それなりの合理性を持つ仕組みだった。すなわち、第一に、大都市と過疎地があるように税源は一定に分布しているわけではないが、国が間に入ってその調整を行うことにより、富める地域も貧しい地域も、同じ基準で施設やサービスを提供することが可能になった。第二に、国の考える望ましい政策に向けて、全ての自治体が横並びで取り組むことにより、無駄なく効率的にナショナル・ミニマムを実現することが可能になった。
○現行制度の限界
しかし、わが国が一定程度の経済成長を遂げ、世界第二の経済大国となった今、このような仕組みは様々な限界を露呈するようになってきた。
第一に、一定の豊かさを享受する中で、国民の要望が多様になってきた。それはまた、地域によって異なるものとなり、国が一律に達成すべき目標を定めることが不合理になってきた。そのため、国全体で取り組む必要がある外交等を除けば、住民により身近な地方自治体が、国の関与をできるだけ排する形で、必要なサービスが何かを自己の責任で決定していく事が求められるようになってきた。
第二に、より直接的な問題として、国も地方も財政が逼迫している。この背景には、地方交付税や国庫支出金の存在により、公共施設やサービスに伴う「負担」と「受益」が一致しない点に求めることが出来る。すなわち、住民は自分たちが収める税金(地方税)で負担しているという自覚がないので、いたずらに受益(施設やサービス)の拡大を願い、地方自治体は自らの財源(地方税)で負担するという自覚なしに、提供する施設やサービスを拡大し、国は直接施設やサービスの必要性に関知しないままに、地方自治体に交付税や補助金を垂れ流すという構造である。
住民、地方自治体、国の三者の責任が不明確なまま、金を集め使っているというのが、これまでの地方自治の実態だったのである。
○「三位一体の改革」で何が変わるのか
こうした状況を変えるため、「三位一体の改革」が提唱されるに至った。その目的は、地方分権の理念に沿って国の関与を縮小し、地方が自らの支出を自らの権限、責任、財源で賄う割合を増やし、真に住民に必要な行政サービスを地方自らの責任で選択する幅を拡大することである。そのために、「国庫補助負担金の改革」「地方交付税の改革」「税源移譲を含む税源配分の見直し」の三つを一体にして進めるものとされている。
第一に、いわゆる補助金の大半を占める「国庫補助負担金」について、平成18年度までに概ね4兆円程度を目途に廃止、縮減等の改革を行う。例えば、既に完成した社会資本の維持管理は、地方自治体の自主性に委ねていく方向で検討し、維持補修や、効果が地域的に限定されるものについては、順次廃止・縮減する。
第二に、地方交付税の総額を抑制するとともに、交付税の算定方法の簡素化を進める。地方交付税には地方自治体の財源全体を保障する機能と、地方自治体間の財源格差を調整する機能とがあるが、前者についてはその機能を縮小するということである。
第三に、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で、引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては、個別事業の見直し・精査を行い、8割程度を目安として税源移譲する。義務的な事業については徹底的な効率化を図った上でその所要の全額を移譲する。また、地方への税源配分の割合を高め、税源の偏在性が少なく税収の安定性を備えた地方税体系を構築する。
上記三点がセットに実行されることが「三位一体」の意味である。関係省庁や各地方自治体の利害が複雑に絡み合い、改革の実行は危ぶまれる面もある。特に税源の移譲が十分な額でかつ適切なタイミングで行われるかについては相当疑問がある。しかし、地方自治体が自らの責任で財源を確保し、各種行政サービスを提供していくという基本的な方向性は、ぶれることがないと思われる。
これからはそれぞれの地域が、サービスの提供者として、利用者として、そして納税者として、真に必要な施設やサービスを考え、費用負担を含めて、責任を持って考えなければならないのである。
参考資料:経済財政諮問会議『経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002』、『同・2003』、総務省『地方財政の状況(地方財政白書)』、地方分権改革推進会議『事務事業の在り方に関する意見―自主・自立の地域社会をめざして―』
(本稿は社会福祉法人全国社会福祉協議会・全国社会福祉施設経営者協議会『経営協』2003年10月号に掲載したものです)