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日本総研ニュースレター 2015年6月号

仕事と介護の両立需要で重要性を増す法人チャネル

2015年06月01日 紀伊信之


仕事と介護の両立に不安……介護離職は年間約10万人
 親の介護をしながら仕事をしなくてはならない「仕事と介護の両立」が大きな社会問題となっている。平成24年の就業構造基本調査(総務省統計局)によれば、60歳未満で「仕事をしながら介護をしている」人は全国で約200万人に達し、特に親が高齢となる50代の有業者ではおよそ10人に1人がこの問題に直面する。また、介護が必要な親世帯と別居、さらにそれが遠隔地である場合も少なくなく、問題を一層複雑にしている。同調査では、介護が原因で離職する人も、今のところ女性の非正規雇用者が中心ではあるが、年間約10万人に上るとしている。フルタイムで働く女性の介護に関する不安要素のトップが「仕事と介護の両立」だとするアンケート調査もある(日本ヒーブ協議会「働く女性と暮らしの調査(第8回)」)。今後10年で75歳以上人口は約1.3倍に増加することから、この問題がますます大きくなっていくのは確実だ。

両立支援策に動き出す企業
 従業員の介護離職防止が大きな課題となる中で、仕事と介護の両立支援策に乗り出す企業も現れ始めた。大企業を中心に、介護休業の取得可能期間を法定の93日以上に延長したり、介護に関する相談窓口を設置したりするケースも増加した。さらに一部では、企業側が負担をして、民間サービスを活用する動きも出てきている。例えば、ゴールドマンサックスでは、2015年2月から介護大手のニチイ学館と契約し、従業員向けに家族一人当たり年間最大100時間までの介護サービス費用を全額負担する制度を導入した。また、伊藤忠商事では海外赴任者に対し、国内に残した親の見守りや留守宅の管理など、警備大手のセコムによるサービスを提供する。このサービスでは、セコムのスタッフが親の自宅を訪問して確認した様子を海外赴任者に電子メールなどで報告するほか、何かあった場合、親自身が手元の小型携帯端末で通知すれば警備員が駆けつける。
 介護保険サービスや保険外でシニアビジネスを手掛ける企業では、これまで主に、高齢者本人もしくは本人を担当するケアマネジャーや地域包括支援センターを通じて需要喚起や顧客獲得を進めてきた。今後は、これに加えて、「仕事と介護の両立」という新たな需要が成長することで、上記のような法人⇒子世帯という、企業による補助も見込めるチャネル(市場)がますます重要性を増していくだろう。

子世帯の「団塊ジュニア」のニーズに対応せよ
 既に法人向けの福利厚生サービスで介護施設の紹介などが行われ始めているが、この法人チャネルを活用した一層の顧客獲得には、情報提供や相談といったソフト面でのサービスの充実が大きな役割を果たす。子世帯の大半は、公的介護保険制度をはじめ介護に関わる知識を十分に持っておらず、単に商品・サービスをカタログ的に並べるだけでは需要喚起が難しいからだ。そのため、様々な情報提供や、時には公的介護保険サービスや民間サービス・商品を組み合わせ、最適な「暮らし方」を一人ひとりに対して提案するといったコンサルテーションが必要となる。勤務先企業の人事部門にはこうした機能やノウハウが不足していることも多く、特定のサービス提供企業がこうした機能を自社の商品サービスとセットで提供したり、「情報提供やコンサルテーションそのもの」をアウトソーシングサービスとして企業人事部門へ提供したりするところも出てきている。実際、老人ホーム大手のベネッセや在宅介護大手のセントケアなどはグループ会社で介護に関わる企業人事部門向けの支援サービスを手掛け始めている。
 また、ほとんどの場合、仕事と介護の両立を実現させるには、公的介護保険サービスだけでは十分ではない。特に「別居での介護」が主流の今日、子世帯が必要以上に自ら手を動かすことなく親世帯が生活を営めるように、衣食住全般にわたる環境を整えなければならないからだ。具体的には、住居のリフォームを行った上で、通所介護等の公的サービスと保険外食事宅配サービスや見守りサービスをうまく組み合わせる、といったことが必要になる。従って、複数の企業同士でのアライアンス・提携によってワンストップでサービスを提供するニーズが強まることが予想される。
 団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けては、本人のニーズだけでなく、その子世帯の「団塊ジュニア」のニーズにいかに応えていくかが商機を握る鍵となるはずだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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