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日本総研ニュースレター 2010年9月号

グローバル人事戦略を成功させるためのフレームワークと人材開発

2010年09月01日 東秀樹


 激化するグローバル競争で勝ち抜くために、グローバル人事戦略は緊急の課題となっている。
 ただしグローバル人事戦略を取り上げる視点が、「人材要件やコンピテンシーのあり方」に偏る傾向があるようだ。例えば、90年代初めに総合商社などで試行され、今改めて話題となっている「英語の社内公用語化」は、グローバル人事戦略を成功させる要件の議論が、英語公用語化に資する人材要件に集約してしまっている表れといえる。
 グローバル人事戦略を成功させるには、まず海外事業の多様な要素から共通するテーマを見出し、それを基に事業戦略の策定や見直しを行うことが出発点となる。ここでは、海外事業戦略を人事戦略へ取り込む際のポイントおよびグローバル人材開発の要点について整理したい。

1) 海外事業戦略のグローバル人事戦略への取り込み
海外事業戦略を推進するための人事戦略は、一般的な人材要件やコンピテンシーのあり方から考えるのではなく、企業ごとの諸条件やダイナミズムに合わせた、下記3つのフレームワークを踏まえて検討することがキーになる。
 ① マーケティング戦略
 海外と一言で言っても、国ごとに所得階層の割合や、言語・文化・宗教などの生活様式は大きく異なるため、事業戦略や人事戦略も国情に合わせる必要がある。
 例えば、広告媒体があまり普及していないメディア・ダークな新興諸国では、個々人をターゲットとするよりも地縁・血縁などを含めたネットワーク型の販売方法が効果的な地域が存在する。そうした地域では、固定的または階層的人事組織よりもネットワークをうまく組成する柔軟な人事組織にする方が適している。
 ② 収益モデル
 低コストの生産拠点に過ぎなかった新興諸国は、販売市場としての存在感も高めている。新興国市場での成功には、高付加価値戦略からコスト改革を伴う戦略への転換が欠かせない。
 人事戦略では、開発スピードの迅速化と生産手法の低コスト化に取り組むため、意思決定の早い現地組織を作り、それに適した現地人材を採用・育成する仕組みの構築が、優先順位として高くなる。
 ③ 最適な経営資源の準備
 海外戦略推進に必要な、技術・設備・資金・情報・販売チャネルなど各経営資源の準備プロセスと並行して、人事戦略としての組織・役割機能の優先順位を判断することになる。

2) グローバル人材開発の要点
 以前流行ったMBA取得制度が、グローバル人材開発の効果に乏しかったのは、経営幹部のマネジメント能力育成といった属人的人材要件の開発に偏った結果と考えられる。
 明確な目的と戦略のフレームワークに基づいて組織・体制等を構築しながら、人材開発に取り込むには、下記2点が重要といえる。
 ① 戦略的人事部への改新
 これまで社員の評価、育成、採用等の属人的人材管理が中心だった人事部は、グローバル戦略の策定段階から人材戦略の策定に入り込み、効果的な戦略遂行を支援する「戦略的人事部」に改新することがグローバル人材開発のための重要な条件となる。
 ② 戦略に適応した人事施策
 戦略的人事部が事業戦略への適応機能としての役割を自覚し、心技体(心理的、施策的、組織的)の諸要素を道具として、柔軟に適宜介入することがグローバル戦略における諸活動を発達させるポイントとなる。グローバル戦略の変化に適応した人事活動は、企業の存続を本質的に可能にするだけでなく、強固な企業“体”を形成し、進歩させる力となる。

 このように、グローバル人材開発の要点は、属人的人材要件ではなく、それぞれの企業が目指す“グローバル戦略適応機能の強化”である。適応とは、すべての戦略的、組織的活動のあり方である。予測不能なグローバルビジネス環境の変化に応じて各部門や社員が同時に動き始めるように、種々の事業戦略に則した人事施策が体系的に集まって適応することが大切である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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