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日本総研ニュースレター 2012年5月号

IT活用が在宅ケアの質を高める
~情報の流れの“逆転”と共有による他職種連携~

2012年05月01日 齊木大


在宅ケアが中心に
 2012年4月、6年ぶりに同時改定された診療報酬・介護報酬が施行された。関連サービスには加算や点数増を行うなど、在宅ケアの推進を意図した内容となっている。
 背景には、国内の高齢化率が30%を超えると目される2025年までに地域包括ケア体制の確立を目指す政策方針がある。施設ケアから在宅ケアへとサービスの重点を移し、介護が必要な場合でも出来る限り自宅で自立した生活を続けられるようにすることで、医療・介護にかかわる社会保障支出を抑制することが目的である。

IT活用で情報の流れを“逆転”させ、情報共有を促進する
 在宅ケアの役割が大きくなるにつれて、情報の流れも変化することになる。これまで在宅ケア関連の情報の流れは、電子カルテにある医療情報を関係する医療・介護関連事業者にも共有しようとする「診療所・病院から在宅ケアへ」という流れが主であった。しかし在宅ケアでは、利用者の状況をよりリアルタイムに把握しているのは医師等よりも、医療・介護関連事業者である。従って、利用者宅を訪問した各事業者の職員が収集した情報を、医師等が受け取って療養方針に生かすという、いわば「在宅ケアから診療所・病院へ」という流れに逆転させることが不可欠となる。
 一人ひとり異なる利用者の生活環境で多職種が非同時にケアを提供する在宅ケアを円滑に実施し、さらに情報の起点として機能させるには、多種多様な情報の収集と共有を、IT活用で効率化させなければならない。
 例えば、サービス記録の提出などの事務処理はわざわざ事務所に戻って行うことが多いが、タブレット端末やスマートフォンを用いれば、在宅ケアの現場で情報入力が可能となり「情報収集の円滑化」が進む。既に複数のアプリがリリースされており、積極的な活用が望まれる。
 また、サービス提供の記録が事業者ごとに任意の様式で作成されるため、他の事業者から見ると意味が分かりにくかったり、収集する情報量が不十分であったりするといった問題が発生している。せっかくの情報共有体制を「使えないシステム」にさせないため、情報の定義の共通化を図ることが必須である。それには、書式の統一と共に、各事業者および担当者への研修・指導でリテラシー向上を図ることが欠かせない。特に、一つ一つのケースについて、「(他の事業所の)他の職種がどのような情報を求めているか」を具体的に確認していくことが現場への浸透で重要となる。
 「システムのガバナンス」にも配慮したい。在宅ケアの多くは異なる事業体が連携して一つのチームとなってケアを提供するため、事業所間の連携にかかるコストの負担とその意思決定があいまいになりがちだからである。こうした問題を回避するためには、情報共有によって各事業者が得られる受益に応じたシステムの負担金を設計したり、各事業所の「外部」に推進主体を明確に定めたりしなければならない。外部の推進主体としては、保険者や職域団体(医師会や医療センター等)がその役割を担う方法や、独立した機関を新たに設置することが考えられる。
 なお、医療・介護に関わる情報は、個人情報の中でも特に取り扱いに注意しなければならない。そのため、国がその管理方法等を厳格に規定したガイドラインを示しているが、現在は主として医療機関を想定した内容となっている。したがって、今後「在宅ケアから診療所・病院へ」という流れに重点が移った場合の個人情報保護のあり方について、国が何らかの指針を示すことも必要である。

他職種連携の「在宅ケアシステム」を成長産業に
 日本総研では、平成23年度医療・介護等関連分野における規制改革・産業創出実証事業に参加した社団法人浦添市医師会とともに、上述の課題等を踏まえた情報共有システムの構築を行った。本システムは実証事業終了後も、地域の医療機関・介護事業者等がコストを分担して継続運用される見込みである。こうした実践的な運用上のノウハウは、今後、全国各地域の地域包括ケアシステムの構築に貢献できる。
 効率的かつ質の高い多職種連携は、在宅ケアの水準を高めるのみならず、高齢化率で世界のトップランナーである日本が「在宅ケアシステム」を海外に発信し、医療・介護分野を成長産業の一つとしていくためにも重要である。こうした観点からも、ITを活用した多職種連携の推進を期待したい。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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