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日本総研ニュースレター 2014年2月号

持続可能な東京オリンピック・パラリンピック大会への具体化を急げ

2014年02月03日 足達英一郎


社会・環境・経済側面の目標達成が求められるイベントに
 オリンピック・パラリンピックを「責任あるイベント」として開催するということが開催都市にとって常識となってきた。ここで「責任ある」というのは、施設整備や大会の運営にあたって、環境や社会に対する悪影響を出来るだけ小さくするということである。「持続可能な」オリンピック・パラリンピックという表現が使われることもある。
 過去には、自然破壊を引き起こすと、関連施設の整備が批判にさらされることが度々あった。1994年のリレハンメル冬季大会は、史上初めて公式に「グリーン(環境に配慮する)」という看板を掲げた大会だった。マスタープランにあったオリンピックホールの位置は、鳥類生息地を確保するために変更された。
 2000年代に入ると、社会側面の批判も目立つようになる。2004年のアテネ大会では、国際的なNGOと労働組織が、世界のスポーツウェアメーカー7社と国際オリンピック委員会に対し、開発途上国でのサプライヤーにおける女性の強制労働の禁止など、労働条件の改善を求めた“Play Fair at the Olympic”と名付けられたキャンペーンを展開した。
 2012年、持続可能なイベントのためのマネジメントシステムの国際規格ISO20121が発行した。この規格では、社会、環境、経済のそれぞれの側面の目標を同時に達成するために、イベント開催組織が行うべき要件を定めている。実は2012年に開催されたロンドン大会は、ISO20121に準拠した初のオリンピック・パラリンピックとなった。

東京大会の課題は社会側面に
 2020年の開催を勝ち取った東京も、「ISO20121イベント・サステナビリティ・マネジメント・システム認証に沿って、2020年東京大会は、持続可能な社会、環境、経済に関する新しい基準を遵守していく」と立候補ファイルに明記している。
 今のところ、環境側面の懸念は、必ずしも多くはない。東京大会で使用される37競技会場のうち、15会場は既存施設となる見通しだ。さらに新設、改修される全ての競技会場および施設は、日本のグリーンビルディング認証制度のCASBEEを遵守し、CASBEEでは最高ランクの“S”を目指すとコミットしている。
 一方、課題は社会側面で生じてくるだろう。立候補ファイルでは「大会組織委員会は、製品やサービスの調達・購入に当たっては、社会性(特に労働基準等)に配慮した製品・サービスが優先的に採用されるようにする」、「製品・サービスの調達・購入について作成される基準およびガイドラインは、国際労働基準や国内労働法を踏まえる」との記述があるものの、社会側面の取り組みに関する具体的な記載は立候補ファイルには、ほとんど見当たらない。
 もし仮に、提案者側に「日本国内には、社会側面での問題点を気にかける必要性はほとんどない」という認識があったのだとしたら、これは以下に述べる2つの点で危うさを孕んでいるといわざるを得ない。
 第一に、海外では「責任ある」という概念が、法令遵守だけを意味しない。国際労働基準に関していえば、「働きがいのある人間らしい仕事(Decent work)」という概念がこれにあたる。最近の、いわゆる「ブラック企業」を製品やサービスの調達・購入先から、どう排除するかが問われる。
 第二に、海外では「責任ある」サプライチェーン全体が評価される。例えば、日本料理で使われる水産物の多くが、今日、アジアやアフリカなどの発展途上国で水揚げ、加工されている。漁業者の環境配慮や加工工場での労働実態などが、まったく分からないまま流通している水産物は数多い。こうしたサプライチェーンの川上での問題に多くの日本企業が無関心であり、選手村の食堂で供される食材に、信頼できる「証明」を得ることは必ずしも容易ではない。

「持続可能性」の包括的な具現化に責任を果たすべき
 2016年に開催されるリオデジャネイロ大会の組織委員会は、12年6月に製品・サービスの調達・購入時の配慮点を網羅した「持続可能なサプライチェーンのための手引き」を作成して公開している。そこには、「持続可能性は、価格、品質、納期、リスクと並んで、組織委員会の意思決定プロセスで公式に考慮される基準の一つである」、「サプライヤーは要求に応じて、職場環境や労働条件に関する全ての情報を組織委員会にもしくはその監査人に提供しなければならない」、「製品・サービスのライフサイクル全体にわたって環境、社会、倫理、経済の側面が考慮される」と明記されている。
 東京大会は、果たして「持続可能性」をどこまで包括的に具現化できるのか。1月に発足した東京大会の組織委員会が、今後「責任あるイベント」にどうこだわりを見せるのかに、世界は注目している。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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