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スポーツビジネスは地域と共に発展する時代に ~地域と共有する「負債」の解決でビジネスを拡大~

2025年02月01日 徳丸翔


エンタメ間競争で多様化するスポーツビジネスの形
 消費者がさまざまなエンターテインメントを選ぶことが出来る昨今、プロスポーツ興行の存在感が大きく増しているとは言い難い。例えば、J リーグは創設以来、入場者を緩やかに増加させているが、これはクラブ数の増加による影響が大きく、1クラブ単位での入場者数が大きく増えたわけではない。また、入場者の60%以上が40~50代であることからも、新規ファンの獲得が伸び悩んでいるのが実態といえる。
 これまでプロスポーツクラブの主な収入源は、「入場料収入」「スポンサー収入」「放映権収入」「物販収入」とされてきた。しかしこのままでは、多くのプロスポーツクラブにおいて、ビジネスが縮小していく恐れさえある。
 そこで注目されるのが、プロスポーツクラブが持つ「地域のハブ」としての特性やさまざまな資産を活用した新規市場の開拓である。プロスポーツクラブは、実はさまざまな資産や負債を持つ。競技自体のエンタメ性のほか、老若男女のファン、スポンサーとして密につながる数多くの地元企業や自治体、そしてスタジアムやクラブハウスなどの「資産」がある。一方、地域の「ハブ」として存在するが故、その地域や社会の「負債(課題)」を地域と共に有している。新たなビジネスの可能性は、このような資産や課題の中に存在する。
 例えば、欧州サッカー連盟は、注目度の高いUEFAチャンピオンズリーグの開催地にレガシーを残すことを目的に、廃棄物削減などをテーマとしたスタートアップのコンテストを行った。世界中にファンを抱えるUEFAと共に、社会課題を解決することに寄与すれば、スタートアップ側も知名度などを飛躍的に向上させられることが期待できる。
 欧米では、スポーツクラブレベルでも同様の取り組みが既に盛んに行われている。クラブの持つ資産を活かし、民間企業がビジネスを展開、あるいは地域社会の課題解決に寄与する。民間企業は中長期的な目線での投資を行い、クラブ側のビジネスも結果的に大きくなっていくのである。

日本でも始まった社会課題解決型事業の展開
 日本でもプロスポーツクラブや競技団体が、社会課題解決をビジネスにつなげる各種の取り組みを展開し始めた。
 JFA(日本サッカー協会)が取り組む「価値共創事業」もその一つである。JFAのパートナー企業である全日本空輸(ANA)が航空機利用拡大を目指す鹿児島地域において、「全日本U-12サッカー選手権大会」を開催し、地域内でのプレゼンス向上を図っている。JFAの県支部は地元企業・自治体・住民の参加を促し、ANAは参加する子供達への航空機チケットや宿泊券を提供する。双方の資産を上手く活用することで共に経済的メリットを得ることができるほか、地域コミュニティ発展という社会的価値も創出させている。
 また、「学校現場における教職員の働き方」をテーマに学校授業の効率化やDX化のサポートなどを手掛けるKDDIとは、同社の教育DX事業とのコラボレーションを図る。その中でJFA認定講師が、小学校の体育教員に対し、研修会を開いて直接指導したり、サッカーの指導法をオンライン提供したりする。教員は体育授業の指導方法を効率的・効果的に学ぶことができ、負担が減少する、というロジックである。実際に指導を受けた教員からは好評を得ているという。
 Jリーグのレノファ山口と地元の化学メーカーであるトクヤマとの取り組みも興味深い。「竹林面積の拡大」という地域課題解決に向け、伐採した竹を活用しクラブの応援グッズを作成。応援後は回収し、トクヤマの自家発電の材料として再利用するという、化学メーカーならではの取り組みである。BtoB企業が、レノファ山口を通じて一般の方々からの認知度を高め、採用活動でも効果が出ているという。
 こういったプロスポーツクラブの地域における役割は、石破内閣の掲げる「地方創生 2.0」の取り組みや理念とも合致し、今後はより重要視されていくであろう。
 今後の課題は、こうした取り組みの効果を可視化することである。特に経済的価値のみならず、取り組みの社会的価値の可視化が進められれば、既存パートナー企業との取り組みの質向上や新規パートナー事業の獲得、すなわちビジネスの拡大も期待できる。
 これらはまだ一部の組織が行う先進的な取り組みに過ぎないが、日本のスポーツ界全体に広がることで、社会におけるスポーツの価値向上、あるいはスポーツとの関わり方が認知され、スポーツビジネスの発展に寄与するものと確信している。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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