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介護におけるテクノロジーの活用
~未来投資戦略2017を受けて~

2017年09月01日 紀伊信之


未来投資戦略2017~技術革新で科学的介護を推進
 6月9日に閣議決定された、今年度版の成長戦略である「未来投資戦略2017」では、「健康寿命の延伸」が政策資源を集中投資する戦略分野の一つに掲げられた。
 そのうち介護分野では、要介護度等の維持・改善を目指す「自立支援」の促進が強調されるととともに、介護現場において技術革新の活用を推進する方向性が打ち出された。例えば、「介護現場でのロボット・センサー等の活用」については、「次期介護報酬改定の際に、介護報酬や人員・設備基準の見直しなど制度上の対応を行う」とされている。2018年度の介護報酬改定ではこれを受け、センサーによる見守り等を介護報酬にどう位置付けるか検討される見込みだ。

センサー、IoT、AIを積極活用せよ
 背景には介護現場の深刻な人手不足がある。生産年齢人口の縮小と高齢者数の増加により、団塊世代が後期高齢者となる2025年には37.7万人の介護人材が不足すると厚労省は推計している。
 この人材不足解消の役割がロボット・センサー等に期待されているのだが、残念ながら現在の技術では、いわゆる「介護ロボット」の実現は難しい。工場のような繰り返し作業が少なく、利用者一人ひとりの状態・体格もさまざまな介護現場で、介護職の身体的負担を軽減しつつ、簡便かつ安全に利用できるロボットが活躍する日はかなり先のことだろう。
 むしろ有望なのは、センサー、IoT、通信技術、AIなどの技術を活用し、ケアの質向上を通じて介助量そのものを減らす新しい介護のあり方に向けた抜本的な改革だ。特に期待の大きい分野としては、次の3つが挙げられる。

 (1)機能訓練・リハビリの高度化
 「未来投資戦略2017」でも「自立支援」が強調されるものの、実際の介護現場では理学療法士等のリハビリ専門職がいないことが多く、介護高齢者個別の状態に応じた機能訓練・リハビリを行うことは難しい。そこで、センサーやICTの活用で、そうした専門性の不足を補うサービスが開発され始めた。
例えば、ベンチャーのMoffはウェアラブルのバンドとタブレット等を用いて、高齢者が楽しみながら効果的に運動できるサービスを提供している。また、デイサービスを運営する早稲田エルダリーヘルス事業団が開発したウェアラブルデバイスは身につけて短い距離を歩くだけで「推進力」「バランス」といった歩行能力をデータ化し、効果的な運動メニューを提案できる。さらに、デイサービスでの機能訓練の実施内容をビッグデータ化して個人向けの参考とし、「パーソナルベスト」な機能訓練メニューを提示するサービスも現れ始めた。このシステムを使って機能訓練を行ったエムダブルエス日高では、通常の訓練を行った群に比べて、要介護度の維持・改善において優位な差があったという。

 (2)センサーによる効率化・QOL向上
 センサーによる「見守り」システム等を用いて、介護職の負担軽減と利用者のQOL向上に役立てようとする例もある。
 パラマウントベッドは、シート型センサーによって睡眠状態を「見える化・データ化」し、見守りや適切なタイミングでのおむつ交換等に活用することに加え、日中の活動量を上げる、起床・就寝時間を調整する等により、介護施設入居者の睡眠改善につなげる実証を導入施設と共同で取り組んでいる。また、トリプルダブリューが開発したウェアラブルデバイスは、超音波センサーで排泄の予兆を検知でき、利用者の尊厳の保持や排泄に関わる業務削減への貢献が期待されている。

 (3)ケアマネジメントの高度化
 医療依存度の高い要介護齢者が増加する一方、減少している看護師等医療系の資格を持つケアマネジャーの役割を補うことがAIやシステムに期待される。既にセントケアや産業革新機構等が出資するシーディーアイやベンチャーのウェルモ等による、AIを活用したケアプラン作成の取り組み等が始まりつつある。

 人材がひっ迫する中、中重度の利用者が増えているほか、「自立支援」の徹底が求められるなど、介護現場への負担はむしろ大きくなる傾向にある。そのような中では、「人手で行っている介助を単純にロボットで置き換える」という発想から脱却し、現在実用可能な技術を見極めながら、介護現場におけるさまざまな課題の根本原因にアプローチするイノベーションが今後ますます重要となっていくだろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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