Sohatsu Eyes
レアメタルと現代の錬金術
2008年06月24日 宮内洋宜
まもなく北海道洞爺湖サミットが開催されますが、本サミットの大きな議題の一つが地球温暖化をはじめとする環境問題です。日本では、環境問題を解決するための技術開発が盛んに行われていますが、これには金属資源が欠かせません。たとえば、運輸部門の温室効果ガス排出量削減の有効な手段であるハイブリッドカーには、蓄電池の部分にニッケル、モーター部分にはジスプロシウムという金属が使われています。電気自動車に搭載される大容量の蓄電池にはリチウムが必要ですし、次世代太陽電池の透明電極ではインジウムを用います。
これらの金属は、埋蔵量が限られていたり、精錬が難しかったりと入手に困難が伴う希少性から「レアメタル」と呼ばれています。近年の需要増加に伴って資源の希少性はますます高まっており、各国間における資源確保の競争は激しさを増すばかりです。日本は世界でもっともレアメタルを輸入、つまり海外依存している国であるため、金属資源危機の最前線にいるといえます。それでは、この危機をどのように乗り越えればいいのでしょうか。
これまで日本は、限られた資源を節約する技術や効率よく利用する技術、繰り返し利用する技術を開発することを得意としてきました。たとえば、エネルギー問題における省エネルギーの技術です。同じように、金属資源問題に対してもレアメタルの使用量を低減する取り組みが行われています。2007年から文部科学省では「元素戦略プロジェクト」、経済産業省では「希少金属代替材料開発プロジェクト」を立ち上げ、産官学の力を結集した研究開発を支援しています。これらは、賦存量の多い金属の組み合わせによってレアメタルと同等の性能を得るための試みで、現在あわせて12件のプロジェクトが進行中です。すでに基礎的な結果が得られているプロジェクトもあり、今後の発展・実用化が期待されます。
その昔、錬金術が世の中を席巻した時代がありました。これは卑金属から貴金属、特に金を作り出す試みでした。中世の錬金術への傾倒は、科学にとっての暗黒時代を作る原因となりました。確かに金を作る試みは失敗に終わりました。しかし、そこで蓄積された知識は化学へと引き継がれ、花開いています。そして、ありふれた金属からレアメタルの機能を作り出す―これは現代の錬金術と呼べるのではないでしょうか。この新しい錬金術が、環境問題を解決する切り札として発展していくことを願ってやみません。
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。