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第1回 リスクとチャンスは「境界」にあり 【大林 正幸】(2008/9/12)
2008年09月12日 大林正幸
1. 「境界」を見直せ
「境界」と言う言葉は、ボーダー、エッジ、フロンティア、マージナル、マイナー&マジョリティ、ターゲット、範囲、セグメンテーション、分水嶺、壁、スクリーン、差別化、分類、区別、識別、圏外・圏内、縄張り、などを連想させる。
村の境界線に「道祖神」が置かれたのは、外部から邪気が入り込むのを防ぐ為であり、境界を越えるときに注意を喚起させる目印である。この境界は、村内の穏やかな空間と外の世界の無秩序や狂気の入り混じり合うあいまいな空間である。
私たちが境界に足を踏み入れると、その空気に触れて、何か「違和感」を感じる。日常的空間、慣れ親しんだ生活様式から乖離したときに感じる開放感でもあり、慣れないことをやるときのギコチなさでもある。これらの「違和感」は、新鮮であり、創造の源であるとともに、逆に不安や恐怖の原因にもなる。この「違和感」への感度が、企業にあっては成長と存続の源ともなり、個人にあっては、身を守る武器となる。
違和感は、自分を守るというだけではない。新商品開発では購買意欲を引き出す戦略として意図的に違和感を作り出すことは多い。セグメント戦略は、境界線のひき直しにより従来とは異なるインパクトを与える違和感の創造でもある。
2. 違和感を感じたらシステム思考:構造主義的アプローチ
自分の行為は、意識的か無意識的かに関わらず、これまでのしきたり、慣行などのルールに縛られている。言い換えれば、システムにしたがって考え行動し、結果もシステムにしたがって、フィードバックされる。
しかし、システムとシステムとの境界をこえると、従来のルールに従った行為が他のルールと重なり、従来とは何か違うフィードバックを受け、これを違和感として感じる。
システム思考は、全体の関係性の中で自分を見直し、自分の役割が適切かどうかを考える方法のことである。システムの中での自分の行為が、めぐり回って、現在の自分に影響を与えていると言うことを理解したうえで、違和感の正体を見つける方法である。
違和感の正体は、これまでのルールに従って行動し結果を予期していたが、外部からの影響を受けて、結果が、自分が予期したものと異なった状態のことである。言いかえれば、境界が変化してきたことの兆しである。場合によっては、システムの見直しが必要な時もある。自分の行為を全体の構造の中で描き、整理すると、本当に対処しなければならないことが見えてくる。
3. 違和感の正体
しかし、「違和感」は、以下のように、それ自体があいまいで、不安定である。
(1)「違和感」を感じる能力は平等な能力ではない。「違和感」を感じるには知識と訓練が必要である。
(2)「違和感」は、常識からのギャップを認識することだが、常識自体固定的なものでは無い。例えば、専門分野と一般分野とでは、常識の水準は異なる。
(3)大きな「違和感」と小さな「違和感」がある。継続的な小さな変化は、閾値に達すると大きな変化をもたらすことがある。小さな変化には気がつかないと言うこともある。
(4)時間がたてば、「違和感」の感じ方は異なってくる。知識の獲得、慣れの状態で絶えず、境界線は新しく引き直される。
(5)自分との関係を強く感じるかどうかで、「違和感」の感じ方も異なる。
(6)ルール、慣例、習慣も、境界の自ら高い壁を作り、「違和感」自体が見えなっていることに気がつかない。
したがって、私たちは自分の感度に自信が持てる状態にする必要がある。感度に自信を持てるかどうかを自ら確かめることが必要になる。現在、多くの会社組織的に取り組まれている内部統制の有効性の評価もひとつの有効な手段である。